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夢ノ継づき——魔法と錬金術と最後の物語  作者: むぎちゃ
1章 第3部 脱獄犯編—『正義の魔法使いと小さな花束』
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52話 脱獄犯——桐野亮介

「結局烈火と透花に一杯——」

 

 円陣の後に瑞穂は床に座り込み、ため息は次第に愚痴の様相を呈していた。

 

「ったくー全然ダメじゃねーかよ」

 

 その愚痴は次第に大きくなっており、璃乃の耳元にもはっきりと届いた。

 

「お疲れ様、相棒」

 

 璃乃が瑞穂の隣に座り込む。

 拓斗の視線が気になるが、生気を失ったように項垂れおり、気が付いていないようだった。

 

「お疲れじゃねーよ。“大“お疲れだろ」

「“大“つけたら余計に疲労感増えない?」

 

 冗談交じりに会話は今の瑞穂には軽すぎるようで、ムッとした顔を見せていた。

 

「お前、俺の頑張り分かってないだろう?」

「分かってるよ。明日香ちゃんのために先に色々説明してくれたんでしょ?」

 

 瑞穂は格好つけがちのだが、なんやかんやで褒められるのが好きらしい。

 スムーズに話が進んだと言えば間違いになるが、澪の助けもあって話は良い方向へ進んだ。

 これも瑞穂が事前にアジト場を温めてくれていたからであろうことは璃乃からも容易に想像できた。

 瑞穂は一度口を開きかけるも一瞬下を向いて、すぐに顔を上げる。

 

「分かってりゃいいんだ。もっと敬え」

「はいはい、瑞穂は偉いね」

 

 二人がくだらない話をしていると。

 

「そろそろ本題に行くか」

 

 気だるそうな烈火の声が聞こえた。

 澪、瑞穂、璃乃、明日香は先ほどの位置に自然と横並びになり、拓斗は離れた椅子に一人で座っていた。

 

「単刀直入に言うぞ。神無月町は、桜都と戦争になるかもしれない」

 

 その一言だけで、和やかだったムードは一瞬で冷え切る。

 

「どういうことですか?桜都って聞いたことはあるけど、イマイチ分からなくって」

 

 気になることは多いが、そもそも“桜都“という単語に馴染みが薄いので漠然とした不安しか心に入らない。

 

「明日香も仲間になったことだし、諸々説明した方がいいんじゃないか?」

 

 瑞穂が助け船を出すように烈火に提案をする。

 

「分かった。説明しよう。まず魔法使いと錬金術師が対立しているのは知っているな?」

「はい、知ってます。錬金術師は七錬神所属なんですよね?」

 

 七錬神はガレインとアクイラスが所属していたグループ的な存在で以前澪から少し聞いたのは、外交がどうたらと——

 

「違う。七錬神は錬金術師の最大の国家集団だ」

 

 烈火が一瞬で訂正する。

 

「国なんですか!?」

 

 隣で澪が「前に言ったでしょ!」と突っ込み入れているが、そんな記憶はない。

 

「国だ。それで魔法使い側の最大勢力が桜都だ」

 

 国ではなく勢力という言葉を烈火は使ったことに璃乃は疑問を持った。

 

「桜都は国ではないんですか?」

「桜都は国ではない。しかし実質的には国的な側面も持つ」

 

 璃乃には難しすぎるで文言が続く。

 

「桜都は日本の代表勢力として位置付けられている。この国で唯一の政治力……外交手段を持っている」

「外交?政治力?総理大臣ってことですか?」

 

 璃乃の発言は外れていたようで、透花が頭を抱えている。

 

「違う。要するに桜都とは日本の魔法使いの代表ってことだ。それは魔法使いと錬金術師の世界で強い発言権を持つ」

 

 璃乃の隣で呆れた顔を覗かせる瑞穂が分かりやすく説明をしていくれており、明日香も「そういう事なんだ……」と頷いている。

 

「要するに、運動部と文化部の一番強いところって、違う高校でもすごく有名だから、他校の文化祭に行っても人気者ってことだね!?」

 

 閃きをみんなに共有し、自分の発想力の高さに思わず胸を張る璃乃。

 

「俺が要したのに、さらに要するな!ってかお前の例えはいつもの微妙に的を得てるのはなんでなんだ!?」

 

 何度目かになるこのやり取りはやはり楽しい。

 透花は「頭が痛い」と嘆いているが、気にしないでおこうと思った。

 

「まぁ、その認識でいい。ここからはおふざけは無しで頼む」

 

 烈火の声色が先ほどの澪の真意を聞いた時のものに戻る。

 璃乃は向けられたその声に喉元がキュッと締められるような感覚を覚え、返事を返せなかった。

 

「現在、桜都は灯守島という勢力と戦争をしている。この戦争は1月の終わりから続いていたが、時期に桜都の勝利で終わろとしている。で、そのこぼれ火が神無月町を燃やし尽くそうとしている」

 

 烈火は淡々と話すが、重々しい雰囲気は部屋を徐々に侵食する。

 戦争という言葉を聞くだけで璃乃の気分が落ち込む。

 

「この戦争時に桜都所属の一人の男が敵前逃亡をした。その男は全てを捨て、神無月町へ逃げ込み、金品欲しさに魔法を使って人を殺した」

 

 自分の利益のためだけに人を殺した。それも魔法使った犯行。

 

「ありえない……」

 

 思わず声が漏れる。

 璃乃の信じる魔法は人を幸せにするための結晶であり、間違っても自己利益の為の殺人道具ではない。

 

「当たり前だが記憶改変が起き、男は強盗殺人犯として警察に逮捕された。これはメディアでも報道されている。これが2月の上旬のことだ」

「捕まったらもう大丈夫……ではないんですか?」

 

 璃乃の隣で明日香の震える唇を懸命に動かしていた。

 烈火は首を横に振った。

 

「4月の下旬に男は魔法を使って脱獄をした。これをメディアは報じていない。その脱獄犯の名前は——桐野亮介(きりのりょうすけ)

 

 全身の鳥肌が縄ぎたてる。

 

「まぁそうだろうな。殺人犯が牢屋から逃げました。どこにいるかも分かりません。なんて報道したら神無月町がパニックになるのは確実だ」

 

 瑞穂は冷静に烈火の話を聞き、分析までしていた。璃乃には到底できそうにない。

 

「その情報を我々が入手したのが4月の末頃——昴からの情報だ。この時は神無月高校で生徒が倒れる事件が起きている真っ最中だった」

「私と瑞穂が病院で錬金術師と戦った時ですね?」

「そうだ。だから俺と透花は概要を調べるように拓斗へ指示を出した。だが——」


——ガラッと椅子が床を擦る音が響いた。

 

「……オレは外にいるよ」

 

 拓斗は椅子から立ち上がり、誰の顔も見ないように部屋から走って出てしまった。

 

「おい!拓斗!」

 

 瑞穂が追いかけようとするも「ほっといてあげな」と澪が瑞穂を止めた。

 その一連の流れが終わったのを見た烈火は続けた。

 

「拓斗は何も情報を入手できないまま半月が過ぎていた。璃乃と瑞穂が野犬事件を追いかけ始めた時期だ。昴は神無月町へ帰ってきてあることを伝えたきた」

「あることって?」

「桜都が桐野の情報を掴み、神無月町付近に潜伏してる可能性が高いと判断をした。この話を上層部は抹殺という判断を下すのは時間の問題である……との情報だ」

「そうだったんですね……」

 

 璃乃と瑞穂だけが戦っていたわけではなかった。事件や紛争に繋がりかねないことは絶えず起きていた。

 

「舵取りを変える必要があった。そこで澪を調査に加えることにした。だが……」

 

 烈火の歯切れが悪くなる。

 

「私も大した情報は掴なかった。自分でも申し訳ないと思ってます……」

 

 澪は拳を握り締め、顔を曇らせる。

 

「聞かせてくれ、桜都なら桐野一人くらい一瞬で消せるはずだ。俺たちがそこまで動く意味があるのか?」

 

 瑞穂は冷静かつ端的に質問をする。

 

「ある。桜都は神無月町にあるインビジブルでぼかされた魔力を感知したということだ。それは神無月町に魔法使いがいる=それは桐野であるという認識だ。裏を返すと——」

「そうか、神無月町に魔法使いがいることしか分かっていない。その目が烈火や透花に向かうかもしれない……」

 

 瑞穂は答えを見つけたかのように目を大きくしていた。

 

「烈火さんと透花さんが桜都に見つかるとダメなの?同じ魔法使いなら仲間になれないの?」

 

 璃乃の疑問はこの部屋の空気を冷たく静かなものにさせた。

 

「透花さん……」

 

 澪の悲しそうな声が聞こえた。

 数分間誰も話すことなく、時計の音のみが響く。

 

「すみません……私、変なこと——」

 

 璃乃が空気を察して謝ろうとしたが、それまで下を向いていた烈火が口火を切った。

 

「逃げたんだ」

「えっ?」

 

 思わず聞き返した。

 

「俺と透花は桜都のリーダーを殺そうとして失敗した。そして桜都から逃亡をした」

 

 烈火はそう言い、天井の明かりを一点に見つめる。

 

「だから私と烈火は桜都に見つかったら殺される。そして仲間であるお前たちにもその牙は向くことになる」

 

 透花は彼の横顔なぞったあとにテーブルに置いているお茶を一口含んだ。

 冷静さを装う二人の顔は璃乃からは見るに堪えないほど怯えたものに感じた。

 理由は分からない、殺されるのが怖いからなのかもしくはもっと違う何かなのか。

 

「桜都に神無月町へ入り込まれるとリヴィールによって二人の存在がバレるのは時間の問題だな。それまでに桐野を消せばいいのか?」

 

 瑞穂の顔が見れなかった。彼の冷たい声に烈火はかぶりを振る。

 

「いや。桐野は魔法使いだ。魔法使いを殺すことができるのは魔法使いか錬金術師だけと考えるのは至極当然な考えだ」

「じゃあどうする?」

「確保して、我々が関与している事を悟られずに桜都に引き渡す」

「無謀にもほどがある」

 

 瑞穂の意見ももっともだ、関与の形跡を消して桐野を桜都へ引き渡すビジョンが見えてこない。

 

「私の魔法を使う」

 

 透花は喉を動かしたあとに、口を開いた。

 その透き通るような声ながらも重みのある口調は説得力を感じる。

 

「……」

 

 彼女の実力が証明するかのように瑞穂は押し黙り、腕組みをした。

 

「今日昴から連絡があった。桜都は明日の早朝に刺客を一人神無月町へ送り出すとのことだ。それを受けて昴もこちらへ戻ってくるそうだ」

 

 烈火は浅く座り直し、今にも立ち上がるように踵を浮かす。

 

「昴のチームが妨害をして時間稼ぎをしてくれる。それも7日が限度とのことだ。即ち6月17日には桜都の刺客が神無月町へ到着する。この場合の刺客はリヴィール魔法に長けている者と考えるのが自然だ。17日——刺客が到着するまでに何が何でも桐野亮介を捕縛しろ!」

 

 もうカウントダウンは始まっていた。

 

「もしできなかったらどうなるんですか?」

 

 明日香の質問に透花は小さく答える。

 

「桜都と戦争になり、私たちは全員——死ぬ」


 今までとは比べらないほどの試練が璃乃たちの目の前まで迫っていた。

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