49話 璃乃VS瑞穂 明日香の誕生日プレゼント編
「ちょっと……お手洗いに行ってくるね」
明日香は抱えきれないほどのプレゼントの山をテーブルに置き、お手洗いへ向かった。
彼女が扉を閉めるとすぐに、蛇口を捻ったように嗚咽交じりの感涙が聞こえた。
昔の明日香と今の明日香を知っている璃乃からするとそれは、釣られ涙を落とす言い訳にしてはこの上なかった。
店内はパーティー状態になっており、明日香のお祝いを皮切りに盛大に生徒たちが騒ぎ立てていた。
「俺はパーティーとかの経験はほぼないが、琴宮邸でやってたパーティーよりもずっと心地いいな」
瑞穂はどんちゃん騒ぎの外からその景色を見ており微笑んでいた。
「そうだね。あの時はお互いそれどころじゃなかったっていうのもあるよね」
「まぁな。どっかの誰かさんは明日香と喧嘩したって泣きまくってたしな」
「もう!恥ずかしいから忘れてよ!」
意地悪な笑みを浮かべる相棒の瞳は薄っすらと潤んでいるように見えた。
「さて、もう19時だ。俺たちもあいつにプレゼント上げないとな?」
お手洗いから戻ってきた明日香は道中で何人かに捕まっていたが、璃乃たちのもとへ戻ってきた。
「璃乃ちゃん本当にありがとう。私、なんてお礼を言えばいいか……」
振り絞ったはずであろう涙がまた流れていた。
璃乃はカバンからプレゼントを渡す。
「私からももう一度言わせて?明日香ちゃん誕生日おめでとう!」
“Memoria“と書いている紙袋。
ラッピングされた薄いピンクの紙。
それには星と月が重なり合うように描かれたMemoriaのロゴがキラリと光っていた。
「これって!?メモリア!?」
そのインパクトからか明日香の涙はどこかへ吹き飛んでいた。
璃乃から渡された紙袋を覗くようにして、明日香は鼻でその匂いすらも楽しむように肩を上げていた。
「うん!明日香ちゃんに似合うかなって思って」
「開けても良い?」
明日香の瞳はMemoriaのロゴのように満天の星空がキラキラとかがいているようだった。
「もちろん!」
璃乃はそのリアクションからプレゼント選定の成功を確信し、瑞穂をチラ見した。
「マキシマイザーだ!!可愛いすぎだよ……しかもNo.001って——」
ラッピングの先にある宝箱を開くと、Memoriaの代表されるマキシマイザーNo.001が明日香の瞳から反射する。
「何言ってるんだ、こいつら」
瑞穂は蚊帳の外で何かを言っているが、無視をする。
「イエベかブルベかどっちがいいかなって思って明日香ちゃんの写真を店員さんに見せて聞いたら、ブルベの方がいいって教えてくれてさ」
璃乃を見つめる明日香の羨望が眩しい。
「ちなみに私も持ってるんだイエベの方!」
カバンから小さなポーチを出して、カラッカラっと音が響き、明日香とお揃いの品を取り出す。
「女子高生の最強アイテム!」
「「メモリアの001!」」
二人はマキシマイザーを片手に立ち上がってしまい、目を見合わせ声に出るほどの笑みを零す。
記念撮影とばかりに璃乃と明日香はマキシマイザーを持ちながら、スマホで写真を撮る。
「私が作ったんだけどAI補正で、自然に顔小さくなるんだよ!」
明日香は自前でカメラアプリを作ったとのこと、璃乃の理解の遥か上を行く彼女。
それでも素直に楽しいし、ビジュアルが盛れるのは嬉しい。
「……」
同じテーブルを囲む一人の少年は空虚を見つめるように、視線を動かしていなかった。
とてつもない温度差を片隅で感じるが、ここは女子の世界。開放はしているが、その先は深い深い沼。
「お子様の瑞穂には少し分からなかったかな?」
ここぞとばかりにいつもの御返しにパンチを上から振り下ろす。
「言ってくれるじゃねーかよ!確かにこの勝負はお前の優勢だ。だが、魔法使いはここから逆転するんだよ!」
最近のブームを炸裂させ、テーブルに手を思いっきり着き、勢いよく立ち上がった瑞穂は璃乃と視線をぶつけ合う。
「っていうことはもしかして瑞穂君もプレゼント持ってきてくれてるの?」
マキシマイザーを大切そうに箱に入れ、丁寧にラッピングを戻す明日香。
宝石を扱うように慎重にカバンの中に置く彼女は、夢の中でふんわりと浮かんでいるようだった。
「当たり前だろ!ラストを俺にしたことが璃乃、お前の敗因だ」
誰も戦いを挑んでいないが、ノリノリなのは嬉しいと思わず口角が上がる。
瑞穂は足元から1mくらいはある長細い包み紙を持ち上げ、またニヤリとした表情を璃乃へ向ける。
「誕生日おめでとう。俺からのプレゼントだ!」
瑞穂はそれを片手で持ち、明日香に渡すも、明日香は片手では持てなかったようで、急いで両手で受け取った。
「随分重いし、大きね。見てもいい?」
「あぁ、俺も大分迷ったが——」
明日香が包み紙を外すとそこには——
「木刀が良いと思ってな」
木刀があった。
「……」
明日香は夢から覚めたように、目を点にしてる。
「み、瑞穂!?ダサすぎるよ!?修学旅行じゃないんだから!」
「ゴルフクラブを武器にするセンスのやつに言われる筋合いはない。どうだ?明日香?」
璃乃からでも分かる強烈な圧で明日香に迫る瑞穂。
「えっ!?」
「かなりの上物だと思うだが。持った感触とかいいだろう?」
明日香はもう木刀を持っておらず、膝の上に置いていた。
「——さい」
「ん?」
「ダサすぎるよ、瑞穂君」
「「「……」」」
おそらく璃乃の勝利——だろう。
そろそろ6月も中旬になりそうなのにとてつもなく寒く、身に応えた三人だった。




