誰が為の努力なのか
他者のしかもその価値を理解できない「姫」のドレスを作るために使わせるのは、
許せないと言う意識が先行するのだった。
どうせデルフィナスの姫君達は好き放題して「亡命」の意味さえ解らないのだ。
「ライゼン?まさかアレの為に作らせよと言うのです?
既に「王国」の「ボルフォード」が、素敵なドレスを作っているのですよ?
セルディア姫とメロディア姫の為に「はりきって」いらっしゃるのに。
そんな可哀そうな事とてもとても…」
よよよよと泣きまねを見せながらリリーは視線を逸らすのだ。
それに絶え間ない努力とゼファードが作り上げてしまった衣類関係の、
小道具の所為で既にオースヴァインのドレス時代遅れの形へと、
変化してしまっているのだ。
仕える装飾品の形もさることながら選択できる形も変化してきている。
既に服飾の技能はボルフォードを軽く上回る物が作れるまでに、
ファルスティンの針子やデザイナーは実力を付けてしまっていた。
その服飾技術を見せつけるだけで「出来上がり」が、
一段階も2段階も変わってしまう。
それは確実に「ボルフォード産」のドレスが見劣りする形となるのだ。
「お前がここで我慢すればターシャ様やエルゼリア様にギネヴィア様も、
王国のドレスをみにつけて戴く機会と時期が減ると言ってもか?」
「それは考えましたが、最短でもまだ数年はかかるでしょう?」
あえて独立までの時間を明確に口に出す者はいない。
それを決めるのはライセラスとターシャなのだから。
決断を下すのはあくまでライセラスなのだが…
二人の会話を聞いてライセラスは悩まざるをえない。
リリーの心情も理解できるがそれ以上にターシャが危険にさらされるのは、
ライセラスの望む所ではないからだ。
「…最近リリーが悩んでいたのは、ドレスを作らせるべきか否かなの?」
「恥ずかしながらそうなのです」
「あら、それなら問題はないのよ?
だって私は「ボルフォード」も許すつもりはないのだから」
「え?」
ターシャは笑顔だった。
笑顔で「ボルフォード」の息を止めてやるつもりでいる事を、
リリーはうすうす感じ始めていた。
けれどファルスティンの女主としてライセラスの隣に立つ以上、
我慢して大人しくしているつもりなのだと思っていた。
いや、思いたかったのだ。
ターシャは思いのほか好戦的であることはリリーも承知している。
だから抑える側になる事は承知していたけれどここまで露骨に出て来るとは、
自身の指針を「言い切る」とは思っていなかったのだ。
もちろん「亡命騒ぎ」と言い名の「今回の出来事」は、
既に穏便に済ませる事はどう考えても無理なのだ。
ならばやり散らかしてしまっても良いでしょうと言う方向に、
足を踏み出してしまっても構わない。
できるだけのダメージを王国に与えてやろうと言う
「良い声で囀ってくれると思うの。
「王国のドレスは最低!ファルスティン製のドレスは最高だった」とね」
その言葉は言い変えれば、
―ボルフォードのドレスは最悪だ―
と、言い続ける事に他ならない。
嫁入りしたとして素敵な「お道具」まみれとなったとしても、
エルゼリアから届いた手紙を見れば凄まじい抵抗をしてくれそうなお姫様方だ。
例え素敵なドレスを身に着けさせられても、
その態度が普段の姿が「ボルフォード」のドレスを拒絶する事になれれば、
王都では厳しい「躾」がまっている。
二人の姫が大人しくしているとは考えにくく「逃亡」を図る様な姫なのだ。
お王国内で大いに暴れてくれるのは確かなのだ。
「殴られたまま全てを忘れて、だなんて…
今しか出来ない方法で(王国を)荒らして差し上げるのが、
王家に仕える家臣としての「礼儀」ではないかしら?
それでも、針子の心情を考えるとリリーの判断は、
間違っているとは言えないけれどね?
花嫁用のドレスを着せられる時の事を考えると、
とっても素敵な事になりそうねぇ?」
「それは…楽しい事になるのでしょうね」
悩むリリーの背中を押す様に今度はライセラスが決定的な事を、
話し始めてしまうのだ。
「タイミング的にも良いかも知れないと考えている。
父上も一戦、交える準備が出来たとかで明確な線引きを、
近々するつもりなのだと連絡が来ている。
かの国は素敵な結婚式を挙げる事が出来るだろう…
ふざけたちょっかいも黙らせる必要がある」
日々お遊びとして国境付近で楽しい「小競り合い」と言う名の、
挑発行動を取っている隣接する領地に対して一発殴りに行くと言う、
「王家」が誤解し続けているまだチャンスがあると言う幻想を、
打ち砕いてやろうと言う考えなのだ。
最後の「支援」となる事が実質確定しているデルフィナス王家の嫁入り。
それを持ってして、曖昧でどっち付かずであった領地は明確に分断する。
オースヴァイン王国のファルスティン領との間に、明確な国境を、
作る時期が来たと言う事に他ならない。
ただし明確な線引きは確実に「王家」を追い詰める事に、
王太子に誤解できない「正しいメッセージ」を通達する事になるのだった。
「…ついに戦うのですね?」
「このタイミングを置いて他にはない。
王国に対して最後のご奉仕…いや施しとなるだろう」
「では!私達は「オースヴァインの呪い」から解放されるのですね!」
「そう言う事になるな」
「よく…良く決断してくださいました…」
独立する為に動く事にする。
その日ファルスティン内で大きな変化が訪れたと言う事であろう。
代替わりしてから約半年程度。
王家も考え付かないタイミングで一領地としての役目を終えて独立すると、
領主であるライセラスは中核を支える4人しかいない執務室に中で、
暫定的に宣言したのである。
それは王国に見捨てられた「ゼフィラ」の悲願であり、
ファルスティンが王国のゴミ溜めを辞める日でもあると言う事だった。
次のゴミ溜めとなる場所が決まったから出来ると言う事でもある。
素敵なお道具を首に付けられた異国からの奴…いや移民が出来て、
王国の2等市民の住まう素敵なゴ…いや町が出来るのだ。
ファルスティンはオースヴァイン王国に対して全ての貴族としての、
義務と責任を果たした。
けれどその義務を果たした代りに果たされる「恩賞」を
オースヴァイン王国は払わなかったのである。
ライセラスとターシャは伯爵とは認められてはいるが、
独立国家並みの言々を与えられてしまった時点で、
「王家」に従う意味を失ったのだ。
もう現ファルスティン夫妻に「与えられる物」が国にはない。
もう一人のファルスティン家の娘であるエルゼリアは貴族であるはずなのに、
婚約者から婚約破棄をされて貴族として法と秩序を守っていたにも関わらす、
その行動を咎めて婚約破棄を成立させてしまった。
王国はエルゼリアに貴族としての立ち振る舞いを許さなかった。
秩序は捻じ曲げられその時点でファルスティン家に、
―王国に忠誠を誓わなければいけない貴族―
はいないのだ。
他でのもないオースヴァイン王国がそう結論付けたのだ。
残った場所にいるのはオースヴァインの貴族ではない。
そこにいるのはファルスティンと言う土地を守る誇り高き戦士達なのである。
最後の一欠片、「オースヴァインの貴族」を名乗る事を。
ライセラスが辞めてしまえば、そこに繋がりは無くなる。
最後の繋がりとしてエルゼリアを求める理由も作れなくなる王国に、
ファルスティンを止める手段はないのである。
オースヴァインを敵にして戦って良いと言える、
素晴らしい日の始まりでもあったのだ。
「壁は高く交渉の余地はない方が望ましいからな。
ライゼンとも数度に渡って検討したが纏めて処理する事が一番好ましい。
その第一弾だ」
「はいっ!」
国家の運営と言う事でこの日を境に、ファルスティンはライゼンの部下は、
激しく動き始める事になるのである。
曖昧だった隣接する領地と最後の線引きを行う事にする事になるのだ。
明確な国と国とを分断する時はすぐそこまで来ていたのである。
オースヴァイン王家とデルフィナス王家の華々しい結婚式を控えて、
動き出したファルスティンの国家としての運営。
だが必要な領地は特になく、しいて挙げるのであれば、
ファルスティン側につく事が決まっているルクレイン領までの領地を、
確保できればいい程度の物なのだった。
ファルスティンとルクレイン領の間にある領地が敵対的に接するのであれば、
武力を持って制圧するだけなのである。
ルクレイン領を確保するのはターシャの為でもあるのだが、
それ以上にファルスティンの利権に食いつきたい貴族は多い。
そして何よりファルスティンの独立は「王国の限界」を示す結果ともなるのだ。
オースヴァイン王国は知らない。
明確な敵意をもってファルスティンが独立する事を。
盛大に支援する結婚式の裏側で何が怒ろうとしているのかも。
オースヴァイン王国は未だファルスティンの事を「素直な金蔓」としか、
思っていないのである。
早くデルフィナスとファルスティンの素敵な姫様達である、
セルディアとエルゼリアを金の卵を絞り出させる為の奴隷姫にする為の、
素敵なドレスをファルスティンに向けて送り出し、
絶対に逃げる事が出来ない様に近衛騎士と言う名の脱走防止用員の手配を、
王都で準備を続けるのだった。
デルフィナス王家の二人の姫はいま悠々自適な鉄馬の上で生活中。
のんびりと車窓を眺めながら、わざと速度を遅くして走る鉄馬が、
王都につくまであと数日。
結婚式を隠れ蓑に色々と工作を始めています。
ファルスティンにとって結婚式のお手伝いは実に都合の良い、
目くらましとなってくれるのでした。
この日を境に、国境を分断する準備も当然進めますし、
戦いたいアネス・ファルスティンの為にきっと素敵なお相手が、
王国の手によって用意されるでしょう。
ファルスティン内で過ごした時間が心地よければ心地よいほど、
デルフィナス王家の姫は王都でファルスティンの良さを語り、
ボルフォードのドレスが駄目なのかを語る事になります。
つまり王国に嫌われた「ボルフォード」に陰りが確実に来るのです。
とはいえ、ソフィアは逃げられませんし、エディルネはセルディアと、
メロディア両姫をお人形にするドレスを作るしかないでしょうが…
一度甘い汁を知ってしまった両姫が、
ボルフォードのドレスに耐えられるか解りません。
とっての大きなスピーカーとなりそうです。
少なくともお人形にされるまでは。




