夢物語は実行に移され着々と準備は進む
―お兄様、義姉様―
―本当にアレ等に利用価値があるのですか?―
それが領都で姫様方を迎え入れる準備をしている、
ライセラスとターシャに届いた直近の手紙なのだった。
エルゼリアから届くデルフィナス王国の姫君達の態度を見て、
ターシャもライセラスも笑うしかなかった。
笑って誤魔化すしか言葉が出て来なかったのである。
都市ギネヴィアでの「おもてなし」を受ける側の立場である、
デルフィナスの姫君達は自身が言った事も忘れて大いに、
その生活を楽しんでいる事だけは理解出来てしまう内容だった。
亡命を希望した割にはやっている事がちぐはぐで、
それとも「一国の姫」と言う立場があれば亡命しても、
それ相応の対応はされるべきとの考えが透けて見えるから仕方がない。
当然付き人として同伴している侍女はメイド達を周囲に置いて、
その下で姫の生活を本国にいた時の様にさせる為に、
命令を出し続けているのだと手紙には書いてある。
―私の考える「亡命」と、一国の姫が考える亡命は―
―まったく別の事なのでしょうか?―
おもてなしをする場所として使われている「お屋敷」は、
当然ゼファード・バルダーが作り上げてから船出したのだから、
上下水道完備で温かく温度調節されている部屋であることは当然で、
下手をすれば王家の住まう王城並みかそれ以上の設備を抱え込んでいる。
つまるところ内装のゴージャス差に目さえつぶればとっても住み心地が良い上に、
安心できる空間を提供できると言う意味でもあった。
それ相応の貴賓室が姫様方に与えられたのもだから、
部屋の隣には当然の様に侍女達が部屋を用意しろと騒ぎたてて…
セットで扱う方が楽だからそれだけで隔離したそうなのだが、
次の日からやれ「ドレス」を作らせろ。
姫様のお口に合う料理を作れ。
楽しむ為の物を用意しろ。
から始まり、呼び出された服飾関連のデザイナー達に、
似合うドレスを用意させてやると言う素晴らしいお言葉をかけて下さる。
それだけならまだしもアルフィンを捕まえようと屋敷の中をうろついて、
美々津書類がある進入禁止エリアに入れろと叫びまくり、
何かと理由を付けてアルフィンを連れてこいと騒ぎ続けている様を、
つらつらと手紙で書きつつっていたのだった。
叔父様の手によってなまじ都市としてより下地を作り続けて丁寧に、
基礎が仕立て上げられていた都市ギネヴィアはその製造能力もさることながら、
姫様の我儘の要望を叶えられるだけの「物」が揃っていたのだから、
「やれ」と言われた以上用意できてしまう。
これが出来るなら次はこれも用意しろと無限に広がる我儘を、
断らずに「律儀」に叶え続けているらしかった。
それは姫様方自身がお世話をさせてやる的な形へと昇華して、
高貴なるお方の役に立たせてやっているから、
私達はこれで良いのと言う事なのか?
とでもアピールしているようで?
ただしその先にある「モノ」は言うまでのなくアルフィンなのである。
すべてはアルフィンと言う都市ギネヴィア一番上に立つ男性を引き付ける為の、
求愛行動なのでしょうねと、エルゼリアは解析しているらしかったのだ。
―そう考えれば、正しい行動をとっているのかも知れませんが―
―ギネヴィアの部下がキレそうなのです―
―アルフィンとギネヴィアの為に急いて戴けるか―
―姫様方の腰を締め上げる為の許可を戴けないでしょうか?―
という完全に姫様方を「締め上げる」為の物を着せて良いのか…
それによって黙らせて構わないか?という閉めで終わっている辺り、
そろそろ色々な意味で限界が近い事が見て取れる。
たった数日間の「我儘」で音を上げるのはどうかと思う部分もある。
けれど都市ギネヴィアは若い。
その中核で都市ギネヴィアを支えているのは、
ライセラスとターシャの下で働いていて新たに育った者たちなのだ。
都市の行政を支え円滑に動かすギネヴィアを主として従う若い集団なのだ。
それは疑いようのない事であるが、その下支えとなっている根源には、
バルダー家がいる。
新都市が円滑に問題なく動く理由はゼファード・バルダーが作った町だから。
そしてそこに住まう住人の全てと言い切って良いほど厚い忠誠心がある。
それは異物がいなければなんの問題もないのだが一度バランスが崩れれば、
その潤滑油は漏れだして不満を垂らす人々が増える事は想定すべき事だった。
バルダー家を慕う者が多すぎる。
そしてその愛娘であるギネヴィアの相手であるアルフィンの下にいる者達は、
当然の様に「技術」を愛しそれを想像した「ゼファード」を崇拝する勢いだ。
その二人が中核にいて日々の暮らしを豊かにするべく、
都市ギネヴィアを動かしてくれていると言うのに、
その横で?アルフィンとギネヴィアの間に割って入ろうとする為に、
訳の分からないドレスを作らせ、アルフィンの為に新しいお食事を作れと、
何故か命令してくるデルフィナスの姫君達とそれを当然として支持を飛ばす、
侍女やメイドの存在の意味が解らない。
特別な傍付きであるリチェルチェは2人を優先するけれど、
ここでひと踏ん張りすれば色々な事を片付けられると「リリー」を通して、
押さえつけを行わせていたのだけれど…
ギネヴィアやアルフィンより先にエルゼリアが、
怒りだすとは思わなかった部分もある。
リリーは「はぁ」と大きくため息をしてライゼンは明らかに、
アルフィンとグラファイスに同情せずにはいられない。
同じ仕える側の立場としてライゼンは特に「アルフィン」が、
ターゲットにされている事は理解出来ていて、
そのために逃げ回ってギネヴィアと一緒にいる事だけ、
なんとなく想像できる状態となっている事だけは解ってしまう。
それは言うまでもなく何も手を打たないで放置しておけば近いうちに、
都市ギネヴィアで大きなトラブルが発生してしまう事に、
なってしまうと言う事に他ならない。
アルフィンとギネヴィアはファルスティンの「未来」を形作る都市の、
代表者として成長する大切な時期なのだ。
不要な負担をかける訳にはいかないし、
何より「外交」的な事案だからデルフィナス王家関連は当然領都側で、
受け持つ予定なのだ。
都市ギネヴィアに配置している人材は今は「まだ」そこまで難しい事を、
求められないだろうと考えていた部分もある。
何せデルフィナスの艦隊に逃亡した「お姫様」が乗っているとは思うまい。
後手後手になりつつある現状を何とか整理しながら、
早めのこっちに姫様方を送る様にする位しか方法が無いのだ。
「素敵なお姫様方の様ですね。心が痛まなくて嬉しい限りです」
「ライゼン、本音を漏らすな」
「おっと、失礼いたしました。
ですが、姫様方の為に用意している「素敵なお部屋」の準備は、
既に完成しております」
「御部屋だけが完成していても仕方がないだろう」
「そうなのですが、調度品の搬入は予定通り出来ますし、
ドレスはたいそう不自由して頂いての良いのではないかと思います。
リリー?どの道「王国用ドレス」には時間はかかるのだろう?」
リリー・ゼフィラは、天井を見るしかなかった。
用意できない事はない。
けれど用意したくないと言うのが本音なのだ。
実際ターシャ・ファルスティンの針子とデザイナーの数は多い。
それはターシャの下につく侍女やメイド達の着る衣類はその針子達に、
作らせる事にしているからでもある。
領都の屋敷で働くターシャやライセラスに関わる者に手配される衣類は、
全てその針子の集団に作らせている。
それは主に危険な物を持ったまま近づかせない為の物であると同時に、
盾となる為の強度も求められるから一着一着完全に「特注品」の物に、
出来上がった物へと切り替えさせている。
未だ強く実感している者はほとんどいないが唯一リリーだけは、
「独立し国となる事」で主に起きる不都合を想像できていた。
そして一国の代表となったライセラスとターシャの命は本人達が、
思っている以上に重く更に言えば「命を奪いたい」と思う者というか、
国は存在しておりそれは独立するオースヴァイン王国に他ならない。
独立後だったとしてもオースヴァイン王国を立て直せるほどの、
豊かな富を得られる最高のチャンスなのだから。
統治者がいない事を良い事に新たに貴族を送り込むか、
ライセラスとターシャの息子のレアルスタを洗脳して操るか、
どちらにせよそうなった場合ファルスティンが総崩れする事は確実なのである。
未だ「影」と呼ばれるいわゆる敵の暗殺行動を撃退する手段は、
完成しておらず対暗殺特殊集団の育成は経験が無さすぎて不安が残る。
ゼフィラは地方の貴族が抱える「影」としては一流であるが、
国の抱える暗部と戦うのであればその差は大きい。
ゼフィラ家として2流でしかなく攻められれば後手後手に回る事になるのは、
内部にいてリリーとして育ったからこその「確信」があるのだから仕方がない。
勿論それはエストラと共有された事実であり、足りない部分を補うために、
コストはかかるが「表側」を強化する方法を取っていたのだった。
眼に見えるセキュリティーとしてブラックボックス化して、
どうやって認識しているのか解らないが個を認識させて部外者の侵入を防ぐ、
警備体制と自動ロック式の扉。
ルートは細かく設定されているものの「敵」の侵入を感知する機構を、
バルダー家の前当主であるゼファードが完成させている。
だが、それでも安心が出来ない。
何をして来るのか解らないオースヴァイン王国に備えるに越した事はないのだ。
それ故にリリーとライゼンは神経をとがらせる日々を送っているのだ。
現状ライセラスの父であるアネス・ファルスティンが完全に新しい砦にて、
影を潰してしまっているが何時侵入されるかは解らない。
そして作られてしまった侵入ルートがどれだけ複雑な物になるのか、
想像がつかない以上用心する事を辞められない。
だからこそ主に近しい物から「代用の効かない専用品」しか与えない様にして、
姿を見るだけで「安全」をアピールできる様にしている段階なのである。
当然その事を知っているのはライゼンとリリーだけなのだ。
表向きは「服飾関係の仕事を増やすため」として計画は実行されている。
それが出来る生産力があるからやらせていると言う事でもあるのだが…
現在服飾関係は言うまでもなく「機密関係」の一部に肩足を突っ込んでいる。
少なくとも分離できるまではとリリーは考えていたのだが…
余力はある最速で仕立て上げろと言えば、
普段使い用のドレス位直ぐに用意できてしまう。
だがそれでも「矯正具」が前提の「王国基準」のドレスを領内にある、
仕立て屋に作らせて異物を混入したくないと言うのが本音だった。
守りとデザインを両立した「仕える側」からすれば理想とも言えるドレスが、
やっと完成して針子達も政策になれて来ている。
それにターシャが使用する王国で使うドレスは既に十分に確保できている。
ターシャ・ファルスティンが使う王国製のドレスを、
新しい環境に合わせて用意している専用の衣裳部屋に、
置いておきたくないと言う気持ちがリリーの中で先行してもいた。
考えても見ればいい。
短ければあと2年以内にターシャは王国のドレスから、
解放される事が決まっている。
ターシャの衣裳部屋に収納されるドレスは、
ファルスティンのデザインと基準に彩られるべきなのだ。
独立して一つのファルスティンが一つの王家となれば、新しい形の文化が、
王室の歴史が始まる。
その歴史にオースヴァイン王国の残り香がある事がリリーは許せない。
それ以上に「ゼフィラ」として許せないのかもしれない。
リリーはターシャとライセラスが身に着ける物を。領内と王国で作られた物。
全てを徹底的に分けている。
当然ターシャの衣装を王国製とファルスティン製に分けている。
それはリリーの執念と言ってしまってもいい。
オースヴァイン王国を信用しないターシャを殺す為の毒が時限式で、
仕込まれていて発動するのではとまで想定している。
そして針子さん達が屈辱に耐えながらボルフォードでその技能を学んだ事を、
リリーはよく覚えている。
その教えられた裁縫方法が貴婦人を着飾らせる為ではなく、
当時のエルゼリアを苦しめているドレスを手直しする方法であり、
治せば治すほど着用者を苦しめる事にしかならない作り方でしかなかった。
それでも未熟な針子が治してくれたドレスを無理にでもエルゼリアは身に着ける。
「綺麗に直してくれありがとう」
と感謝の言葉を掛けられたとき針子は涙を流さずにはいられなかった。
それからは何とか普通のドレスの作り方を覚える為に、
布の切れはしから裁断方法を未完成のドレスの縫い付け方法を盗み見て、
何とはその技術を会得して帰って来たのだ。
そして主たちの為に素敵なドレスを作ると。
それだけを夢見てあの修行と言う名の虐めに耐えた事を知っている。
そこからまた腕を磨いて丹念に作り上げられるターシャやミーシェのドレスが、
どれだけ布を厳選して丁寧に作り込まれた物なのかを知っている。
全ては主を着飾らせる為。
主が笑われない様にする為に磨き上げた努力を。




