国家の約束事と辻褄の合わない姫の居場所
次回の更新は明日の18時です。
周辺各国から輸入する木材は年々値上げされ、それでも買わない訳にはいかない。
沈み続ける船が形作る国土を支える為に限界まで材木を買い続けるしかない。
結果的に「材木」と言う資源を手に入れる為に牛馬のごとく各国と、
危険な交易を続けるしかデルフィナス王国に選択肢はなかったのである。
そんな中ジレンマの中で一つの国が手を差し伸べたのだ。
オースヴァイン王国である。
第2王子との結婚をして王家として繋がりを得れば、
2等国民として移民を受け入れる。
そこで新しいく土地を耕し材木をデルフィナスへと出荷するがいい。
その代り割高となる「塩」をオースヴァインに提供せよ。
一応、筋の通った条件の様な形で提案したのであるが、
その実状は酷いものとなる事が決定している条件だったのだ。
「2等国民」等と言ってはいるが、森の管理とはすなわち、
魔物と戦い続けろという事と同義であり戦闘奴隷のような扱いだったのだ。
そして当然の様に「2等国民」としての証の「お道具」を与える。
オースヴァイン王国2等国民である輝かしい証として。
魔物のはびこる森から勝手に出ない様にする為の処置であり、
良い様に使い殺される開拓民となるのである。
ついでに言えば「2等国民」などと言ってはいるものの、
そんな制度はオースヴァイン王国にはなく、
「奴隷」と言うラベルを「2等国民」にしただけの存在であった。
悲惨な扱いであったとしてもデルフィナスに断るだけの力はない。
膨張してしまった王国の中でどうにかして帳尻を合わせるには、
どんな不利な願いでも聞き入れるしかないのだ。
その契約の第一弾として繋がりを作るために王族同士の結婚は決定されたのだ。
デルフィナス王国を長い長い時間をかけて隷属化する為の第一歩なのである。
―王女も嫁いだのだから国民が嫁いでも大丈夫!―
そう思い込ませる為の工作。
解っていないのはデルフィナス王国の送り出される無知な国民と、
夢を信じた無垢な関係者だけなのである。
そして幸か不幸か…オースヴァインの第2王子であるレヴァンズは、
この婚約をすんなり受け入れた。
理由は簡単。
顔が好みだったからである。
顏さえ良ければ体型はいくらでも「美しくしてしまえる」最悪な物が、
オースヴァイン王国には揃っているのだから。
同時に王族として交渉が成立して嫁ぐことが決まった第一王女の、
セルディア・デルフィナスは留学してその事実を知ると、
涙を流すしかなかった。
煌びやかな存在の裏に隠されていた事実。
それは体験しなければわからない。
オースヴァイン王国の第2王子の妃として嫁ぐという事は、
拷問器具の様な体を歪めるドレスを着て「生活」し続けなくてはならない事を、
意味していたからである。
オースヴァイン王国の「王族」の女性が着る「ドレス」は「美しさ」の塊。
それはボルフォード家の公爵夫人が着る事になるドレスなんて可愛らしい物。
幼い頃から矯正されて作られる王族しか「着られない」物を着せられた生活。
とても華やかで誰が見ても豪華と思う出来栄え。
そしてその最上位の立場である王太子妃のドレスは特別製の中でも
より丹念に作られた物。
着せられる側はそのドレス以外を着て「生きられなくされる」物なのである。
王太子妃の奴隷姫として捧げられる様な事でオースヴァイン王国としては、
伝統を守る公爵家の娘を使って生涯をかけて「作る」レベルの代物のだ。
王妃として将来の国母として相応しく「作られた」者は「可愛い人」と言われ…
大切に扱われる。
皆が王太子妃となった令嬢を褒めたたえ支える。
笑顔を張り付けながら。
羨ましいと言いながら。
だって「国母」になれない場合他の公爵家の娘の「誰か」が身代わりとなるのだ。
そりゃあねぇ?
他の公爵家の娘達に囲われて
「可愛い人」は「よいしょ」され続ける素敵な毎ともなろう。
見ている分には素敵で済むが、その立場にはなりたくない典型的な存在なのが、
オースヴァイン王国の王子達の妃なのである。
第2王子の妃候補という事は、
オースヴァイン王国の王太子夫妻のスペアとして「大切」にされる。
二人の王子は婚約するまで。
未来の妃達と決定するまではとても親切にして決して逃がさない。
セルディア王女としてはファルスティン夫妻とは別の意味で、
地獄の学園生活だった事だけは確かだった。
ライセラスの卒業が近づくにつれて、
第1王子の「可愛い人」と同じ「お揃い」で可愛らしいドレスが用意される。
その愛らしいドレスを着る為に無理をして嵌め込まれる矯正具。
それから王族として相応しい超重量のドレスを身に着けさせられて、
普段の日常を送らされることになっていたのである。
無理矢理にでも締め込まれ一気に苦痛のました生活になったセルディア姫。
笑顔を何とか張り付けて「可愛い人」に付き従うその姿は痛々しい。
ターシャは同情の目でしか見る事が出来ず同時に義妹として何度かあった、
エルゼリアの事を思い出さずにはいられない。
エルゼリアが身に着けさせられている「矯正具」を間近で見ているものだから。
アレがどれだけ「酷い」物なのか理解できてしまえるからこそ、
セルディア姫に近づきたくなかった。
卒業後はそのままファルスティンに来てしまったターシャが、
一方的にセルディア姫の学園生活を知っているだけ。
それでも必死に「可愛い人」に付き従わされ笑顔を張り付けていた、
セルディアの存在はある意味印象深く、
そして絶対にお近づきになりたくない存在だと思っていた。
「本当に懐かしい名前ですね」
「2度と聞く事はないと思っていたんだけれどね」
「…何の巡り合わせなのでしょうね」
数年ぶりに聞いた「セルディア・デルフィナス」と言う名前を聞いて、
思い出に浸ることこそする二人であったが。
エルゼリアからの報告を聞いて突別扱いをするつもりなど毛頭ない。
それ所か攻撃を仕掛けてきた以上返り討ちにして殺してしまっても構わない。
当然とすら考えていた。
生きていれば利用するし死んでいれば見なかった事にするだけなのだ。
なのでライセラスは好きにして良いとエルゼリアに告げたのだ。
友好的に接するのであればこちらも。
敵対的に制圧して来ようとするのであれば、
準備していた防衛設備を使って完膚なきまでに叩き潰せばいい。
負けなければそれでいい。
物的損害が出たとしても今ならば十分に許容できる見積もりも当然立てていた。
それ以上にただ解らないのだ。
―どうしてセルディア・デルフィナスなる人物が―
―都市ギネヴィアを襲った船に乗っているのか?―
である。
セルディア・デルフィナスは学園卒業後、
王国製の素敵なドレスが肌に合わなくて儚くなったと聞いていたのだから。
心身の療養とかこつけてデルフィナス王国に戻ったと。
一応王族の婚姻関係に関わる事だけあって、
オースヴァイン王国としても良から推測を貴族達にさせないために、
最低限の情報は公表されていたのだ。
勿論国家の婚姻関係の事から情報収集をしていた王都に住まう、
ファルスティンの情報収集要因が情報を集めてライセラスに報告している。
裏付けとして調べればその足取りを調べることは出来たのだ。
心配はいらない。
結婚式が近づいてきてセルディア姫は少しばかりナーバスになっているだけ。
療養を得て体調が戻り次第結婚する。
そう言った流れであり国家間の関係も継続する。
そう正式に発表されているのである。
しかし…
実際は結婚が嫌で逃げ帰ったこと位は見当がつく。
無理にでも療養という事で母国へと帰ったきり何時のまにかレヴァンズとの、
婚約があやふやになっていると言った具合なのだろうか。
あやふやにして無かった事にしたいデルフィナス王国。
オースヴァイン王国も本気で迎えに行くように考えていたようには見えない。
…ここに来てより関係を結びたいと思わせる令嬢が婚約破棄されたとなれば、
その責任を取ると言う形を使って関係を強化したい。
セルディア姫との関係をうやむやにしたまま、
暫定的に空いているように見える第2王子の隣に
エルゼリアを座らせようとするのだから、
王国の神聖な伝統だろうが何だろうかその「価値」に疑問符を付けたくなる。
とはいえ?
儚くなるような人物がどうして新しく開拓を進めている港湾都市の近くにいるのか。
ライセラス自身もそうだが自国の国土の状態である「地図」の存在は、
この世界では国家機密に該当するぐらい重要な物。
当然その管理は厳重で幾らライセラスが知らべようにも王都の書蔵庫ですら、
その存在は見当たらなかった物である。
オースヴァイン王国の国土のある程度の大きさと、
隣国に接する国境の形は「天才」であるゼファード・バルダーがアリアを連れて、
「お散歩」したから解っている程度なのだ。
オースヴァイン王国は悪い意味で大きい。
国境線は複雑な線を引きその為にスパイと欺瞞工作をしなくてはいけない。
悪夢の国境線が大量にあるのだ。
国土を守る為、領地を守る為水面下では血泥の戦いが行われている。
それほど長い国境を持つ国の、更にもう一つ国家を挟んだその先ある、
海岸線の国土を持つ国家がデルフィナス王国である。
地図の縮尺と解っているだけの土地を合わせても、この大陸は巨大だ。
その巨大な大陸とデルフィナス王国がありそうな海岸線から、
ずっとこの大陸の海岸線を進んで最短で航海してきたとしても、
都市ギネヴィアのある場所までは数カ月はかかる事が予想できるのだ。
ここまで来るのに数カ月時間がかかるのに、
その旅の日々に耐えられる「儚い姫」とは?一体どういう意味なのか?
それに今のオースヴァイン王国であっても「嫁がせたい」と、
思えるほと弱り果てているのだから、
デルフィナス王国も相当追い詰められている事だけは確かで「儚い姫」を、
船に乗せて新天地開拓している場合ではないだろう。
セルディア姫がいる理由を考え続けその可能性を何度も検討してみるライセラス。
しかし辻褄があう物事が思いつかない。
「意味が解らないな」
「そうですね。ですから確認いたしましょう」
「あー、うん、いや何を?」
もちろんターシャが言っている意味をライセラスは理解できていた。
理解できていながら聞き返さずにはいられない。




