王国は伯爵領に縋り続ける。
アネスとオルディオスとの関係はマイナスゲージを振り切っている。
ファルスティン領とのボロボロの関係になってしまった国王オルディオスに残された手段。
それは息子であるアルヴァンを中心に新しくファルスティンとの関係を、
作り上げる事しか出来なかった。
自分がダメなら誰かを間に挟んでの交渉。
幸運な事にアネスは息子に爵位を譲り領内に新体制を築く、
ならこれ以上アネス・ファルスティンにこだわる必要はない。
息子である王太子アルヴァンを中心に物事を進めればいい。
ファルスティンとの繋がりは「学友?」だった事にして第一王子である、
アルヴァン・オースヴァインをライセラス・ファルスティンと友好関係を作る。
アルヴァンを使ってファルスティンをどうにかする事だけしか、
手法が残されていなかったのである。
「アルヴァンよ。ライセラスとは上手くやっているか?」
「父上…いえ国王陛下。
その様な些細な事を気にする必要はないのです。
ライセラスと私は学友だったのです。
その私が求めればライセラスは動かないではいられないのですよ。
そしてかの者の妻となったターシャなる者は学園時代に、
献身的に私の「可愛い人」を守った者なのです。
二人の忠誠心は疑う必要はありません。
私の継ぐこのオースヴァイン王国に多大なる貢献をしなくてはいけないのです。
それはこの国の貴族となった者の義務と責任でしょう?」
「彼奴等は本当にワシ達のいう事を聞くと思うのか?」
「…弟より報告は受けております。
ですが、凍土で苦しく生きる辺境の一領地が私達に及ぼせる被害など、
考え付いたとしても大した事は出来ませんよ」
「そう、だと良いのだがな」
結局王太子の認識はこの程度。
そしてその認識で動いたからこそ王太子と連携した動いた第2王子レヴァンズも、
エルゼリアを人形に仕立て上げると意気込む。
「美しいドレス」を送り第1王子であるアルヴァンは訪れた食料危機という、
状況を深く考えられない。
国民を食わせられなくなれば「魔法」で吹き飛ばせばいい。
そしてその吹き飛ばす「作業」をするのは王家の人間ではないのだから、
恨まれるのは当然現場の貴族となる。
地方に住まう統治者となっている者達「貴族」なのである。
減った分は地方から小麦を強制的に回収。
喰えなくなり反乱を起こした領民は領主の魔法で簡単に吹き飛ばされる。
そして吸い上げ切って小麦を拠出出来なかった貴族は「処断」してその領地には、
新しい貴族の一家が王都から移り住むのだ。
王国は弱体化しつつもその「仕上げられたシステム」によって、
健全?に管理され運営し続けている。
けれど…
今回は王国全体が小麦不足となっている。
一部の地域を除いて高騰した小麦は当然王都へと運ばれ、
食べる物が無くなった領地が多すぎる。
それは長い長い領主と領民の対立の始まりでしかないのだった。
たとえ領民を鎮圧できたとしても、畑から人が生えてくる世界ではないのだ。
減り過ぎればそのまま絶滅するしかなく…
王国の他国に隣接する見栄を張らなければならない領地を除き、
内側に広がる「王都」と「国境」の間にある小さな領地は人知れず絶滅し、
その第一を耕す者はいなくなっていたのである。
そして「食べ物を求め」王都へ来てスラム街へと落ちて行った者は例外なく、
ファルスティン行きの馬車へと詰め込まれ運び出されるまでが一つの区切り。
口や紙で開拓者を送らないなどと都合の良い文書を並べていたとしても、
送る理由を変えてやるだけで実態は何も変わらない。
変える必要が王国にはないのだ。
ファルスティンの領民になりたいと言っているから届けてやった。
「開拓者」を「未来の領民」と言い変えてオースヴァインは要らない領民を、
ファルスティンに送る事を辞められない。
オースヴァインの王都は美しく綺麗な場所でなければいけないのだから。
あらゆる善意で舗装された「ファルスティン」と「オースヴァイン」の関係は、
ライセラスと学友と言う事になったアルヴァンの頼もしい友情関係によって、
作られていく事になる。
故に今日も届けられる「訳の解らない学友」の手紙を、
ライセラスは領内の執務室で読み続けなくてはならないのだった。
―やぁライセラス。少し不味い事になっていてねー
―余っているのなら小麦を融通してもらえないだろうかー
―私達は学友だった事を忘れていない君は義理堅い男だったはずだー
―奥方のターシャ殿の事も私の「可愛い人」が心配しているんだー
―色々手紙では意思疎通に時間がかかってしまうからー
―近いうちに王都に来てくれないかな?ー
―そうすれば話もスムーズに進むと思うのだー
「たかる気満々の手紙だな…」
「そうですね。こっちの「可愛い人」も似たような物です。
御菓子を食べたいそうですよ」
ー久しぶりねターシャー
ー色々と忠義を尽くしてくれたあなたの事は忘れる事が出来ませんー
ー私の事を心配するあまり森に危険がないか確認しに行ってしまうほどー
ー心配性なあなたの事をよく覚えていますー
ーそれでね?王国は少しばかり困ってしまっているのー
ー心配性だったあなたの事だからきっとー
ー今も私の事を思っていてくれているでしょう?ー
ーいま王国は食糧が足りないみたいなのよー
ーだから心配性だったあなたの事だからー
ー私が食べ物に困っていると思っていると思うー
ー大丈夫よ心配しないでー
ーけれど甘味は少なくなってきていると思うのー
ーだから献上したいだろうから受け取ってあげるわー
―私達の関係は不滅よ―
ターシャと二人で王子と「可愛い人」の手紙に目を通すライセラスは、
手紙を交換しあって内容を二人で共有するしかなかった。
季節は夏が終わり収穫の秋か来る。
ともなれば、全体的に穀物の収穫が進むわけで、
その収穫を狙った献上品を持って王都に頭を下げに来いと言った、
内容に他ならないのである。
結局王国は王子が指揮を取ろうと国王が指揮を取ろうと、
食料不足を解消する手段が未だに見つからない。
今年足りなくなっているのであれば来年はもっと厳しくなる。
何とか収穫の帳尻を合わせて「豊かな王国」を演出して、
国外の貴族や文官武官に見栄を張らなければいけないオースヴァイン王国は、
正念場に立たされているという事でもあるのだった。
だが需要と供給のバランスが崩れてしまった現在、
食料の輸入をする事は隣国から受ける圧が苦しくなる事となる。
そして一番物が溢れていなくてはいけない収穫の時期に食料が足りないなんて、
「国家存亡」の危機と騒ぎ立てられる事にもなる。
それは決して認められない。
王国内では「調整」が続き素晴らしい間引きも横行するだろう。
それを少しでも下手すためには、
オースヴァイン王国は何としてでもファルスティンの作る小麦を、
必要としてしまっているのだった…
あればあるだけ絞り出したい。
そんな思惑が透けて見える。
だからこそライセラスもターシャも愉快な手紙をみて状況を探るのだ。
同時にターシャの生家であるルクレインの状況にも気を配る。
「ルクレインから何か言って来ているか?」
「特には…。
未だに新しい作物の使い方が決まらないと、
お兄様から見当違いの手紙が来ています…」
「…大丈夫そうだな」
「はい」
ファルスティンにとってルクレインは特別である。
その理由は超単純でターシャの産まれた故郷だからに他ならない。
その為にルクレイン領には特別に領民が食べるに困らない程度に絞って、
出荷を繰り返していた。
在庫が溜められるほどの量は放出していないが、
領内は安定して近隣の領地の様に阿鼻叫喚な状態になりつづあるらしい。
状況によっては考えなければいけない。
ライセラスも王国内で唯一見捨てるつもりが無い事から、
色々と隠しながらあの手この手での繋がりを作り支援はしているが…
どうにも温度差を感じずにはいられない。
ルクレインも周囲から助けをもとめられる事もしばしばあるようだが、
分け与えるだけの量はないので治安が悪化しないギリギリのラインで、
予断を許さない状態が続いて行くのである。
領主が魔法で領民を吹き飛ばす事態には今の所なっていないのであった。
けれどその時は決して遠くない。
王国早急な対策を講じなくてはいけないのだった。
豊かさと自立の為に「利益」を得られるはずだった交易と言う方法を、
国の威信とプライドの為に制限しなくてはいけないのだった。
複数の隣国に国境を接するオースヴァインは、
文字通り交通の要所ではあった。
それがこの国の利益の源の一つであり豊かさの源泉であるはずだったのだ。
それが今ではプライドの為に空腹に耐える事に他ならない。
秘密裏に輸入されてしまった物には信じられない位の高値が付く。
国家のプライドを守らなければオースヴァインに未来はない。
ただプライドに固執し続ければ国民は飢えて死ぬのである。
ファルスティンから安い小麦が国中に配られている事が前提の国家運営と、
知らず知らずの内に切り替わっていったのだ。
王家がどうあがこうと足りなくなった「小麦」を入手する手段は、
ファルスティンか交易しかない。
交易と言う手段を使わない様に制限したオースヴァインの王子アルヴァンは、
今日もファルスティンのライセラスに手紙を書くのだ。
小麦を献上させる為に。
王都へと出て来るように手紙を書き続ける。
けれどその返答は決まっているのだ。
―王太子も忙しそうですねー
―忙しい王子を邪魔する訳には参りませんー
―全力で課題(食料危機)に取り組まれると宜しいでしょうー
―私も自身の領地で全力で課題に取り組みますー
―王都へ行っている時間が残念ながら作れそうもありませんー
―妻共々領地で精一杯努力しますー
同じ文書を書いて王都へと送り返すのだ。
そしてその代わり映えのない返答が届くまで、
またゼファード・バルダーが残していった課題を整理するのである。
今現在天災は寮内にはいない。
それはこれ以上の厄介事が舞い込まない事を意味し、
このチャンスに溜まっていた問題を処理するのに有効に使われていた。
天災が何を持って帰って来るのか解らない。
解らないが…
帰って来た時に厄介事が増える事だけは確かなのだ。
早くしないとゼファードが戻って来て今度は別の「問題」の処理に、
終れることになるのだから。
補足説明。
ファルスティン領には全てをひっくり返した化け物である「天才」がいます。
ゼファード・バルダー
アネス・ファルスティンの実弟であり父親が持っていた男爵位を受け継いでいます。
元は国から「ごみ溜め」と言われていた北の不毛の領地であったファルスティンを、
豊かな土地にしてしまいました。
膨大な魔力と錬金チートの結果です。
しかしその結果の影響は凄まじく災害の様にファルスティンに降りかかる為に、
「天才」というよりも「天災」と言った方が正しい存在です。




