悪化し続ける一領地と王国の関係
オースヴァイン王国第2王子レヴァンズ・オースヴァインは問題を抱えていた。
オースヴァイン王国に留学し王国学園に通っていた、
デルフィナス王家の王女であるセルディア・デルフィナス。
レヴァンズは彼女と結婚する予定であった。
婚約も済み王国学園で花嫁修業を行っていたセルディアであったが、
卒業を間近に控えて身内で不幸が起こったと言う知らせを受け帰国。
そのままセルディア姫は行方不明になってしまったらしく、
レヴァンズ王子の元に戻って来られなくなってしまったのである。
捜索の甲斐も空しく発見されることは無く…
見つからない彼女の為に婚礼の準備をするのかしないのか。
一時期オースヴァイン王国内で問題になっていたのである。
しかし…その空白の時間は王国にとっては最良の状態となったのだ。
国王オルディオスにはボルフォード以上に良い結婚相手をエルゼリアに、
用意できる事に気付いてしまったのである。
捜索は続けるが「仮の妃」としてでもエルゼリアは最適だと思ったのである。
第2王子であるレヴァンズ・オースヴァインの正妻の座が開いたのだ。
そこにエルゼリアを捻じ込むべく王国は動き出したのだ。
王国にとっては戯れ。
レヴァンズ王子にとってはただの玩具みたいな価値しか示せなかった、
セルディア姫。
セルディア姫は「儚かない事」にされる寸前だっだのだ。
それは王国の用意する「ドレス」を着られないと言う意味でもあった。
姫を送り出す側であるデルフィナス王家からすれば、
もちろん「人質」としてオースヴァイン王国に連れて来られる予定だった。
けれどオースヴァイン王国王家の王子妃になると言う事がとういう事なのかを、
留学し「修行」して理解してしまったセルディア姫は、
反旗を翻して兵士に守られたまま港から船団を率いて国外へと脱出したのだった。
愛されていた姫だったからなのか…
外洋への調査船団を急遽組織され、
15隻と言う大艦隊を率いてデルフィナス王国から出港。
セルディア姫は秘密裏に調査船団に乗せられ脱出に成功したのだ。
…勿論その事実は、オースヴァイン王国も把握していた。
だが、既にオースヴァイン王国にとって「デルフィナス」との関係は、
大したことではない。
それよりも「セルディア姫が逃げて帰ってこない事」が重要だったのだ。
行方不明による婚約の解消。
オースヴァインが得られるはずだったデルフィナスからの権益は吹き飛んだが、
それ以上に美味しいファルスティンの「姫」を手に入れさえすれば、
むしろその方が都合がいいとさえオルディオスは考えてしまったのだ。
けれど学園卒業後、取り付く隙もなくエルゼリアは、
ファルスティンに戻ってしまう。
そこで仕方なく、第2王子のレヴァンズを任命式に送り込んで、
エルゼリアと愛を育んだと言いう事にして、
無理矢理ドレスを着せて花嫁に仕立て上げる事にしたのだった。
けれど…
任命式で拒絶され送ったドレスは着てもらえない。
その現実にレヴァンズは困惑する事になるのである。
「どういう事なのか…説明してもらおうか?」
「じ、実は輸送中に馬車が崖から転落してしまって…
ドレスが台無しになってしまいました」
「ほう?」
「そ、それで何とかファルスティンの領地で修復を試みたのですが、
エルゼリア伯爵令嬢にはお気に召さなかった様でして…」
「…」
「なんとか修復を試みた物を持ち帰りました…」
「そうか、よく努力してくれた」
「!ありがとうございます」
「では、次のドレスを送る準備をせよ」
「は、はい!」
レヴァンズが別に使者を怒る事は無く寛大な心で、
第2王子としての偉大さを見せていたのである。
「アレは急いで作らせたからな。
私の心が足りなかった所為もあるだろう」
「左様でございますね。
レヴァンズ様の姫に衣装としてはいささか出来が悪うございました」
「やはりか…
彼女は気高かったからな。
それすら見透かされてしまったのだろう」
「えぇ…
次は必ずご納得して自らがお召しになりたいと思う物をお送りいたします」
「頼む」
傍仕えの侍女はギュッと拳を握りしめてその苛立ちを隠さない。
辺境の伯爵令嬢ごときが何を言うのかという思いでいっぱいであるが。
それを表に出す事は無かった。
まぁ、エルゼリアの周囲の面々がどんな装具を送ってこようと、
王国の物を着せる訳ないのだが…
オースヴァインの国王であるオルディオスが実行した事ほぼすべてが、
ファルスティンを怒らせるような事しかしていないのだからたまらない。
溜まりに溜まった不満をぶつけられたオルディオスが、
エルゼリアの婚約破棄が確定的になった時、
当時のファルスティン領主であったアネス・ファルスティンが、
国王にブチ切れ寸前でオルディオスに迫った事はただ一つ。
「我らの邪魔をするな。
そして我らの「宝」を返せ。
これ以上干渉するな。干渉しなくともよい権限を全て寄こせ。
でなければあらゆる事をしてオースヴァイン王国を削り取る。
両方生き延びるか。
両方死ぬか。
好きな方を選ばせて差し上げる」
もちろん謁見の会場でオルディオスの隣にいる側近や、
有力貴族はその「アネス」の要求を鼻で笑う。
けれどその場で「小麦を放出している」と言う事実と、
アネスが身に纏う「礼服」を地領内で賄っていて、ボルフォード製の物に、
見劣りする所かそれ以上に立派な服装をしているアネス。
立場は既に対等であったのだ。
力関係で押さえつけられる段階をとうに過ぎているとオルディオスが、
理解するのに時間はかからない。
複数の情報筋を持つ国王はファルスティンの内情を調べる事を怠っていなかった。
側近達・貴族からの陳情・王国の諜報機関からの情報は、
正確にオルディオスには伝えられている。
オルディオスはファルスティンの変わり様とその底知れない得体の知れなさ。
正しく理解しているからこそ要求を全て受け入れるほかなかったのだ。
しかし交渉の場である所では強い言葉を選ぶほかない。
「よく言う物だ。
なら、全て受け入れてやろう。
その代わり支援をこれまで通り受けられると思うな。
何処まで出来るのか高みから見物さえて貰おう」
虚勢だった。
完全に虚勢だった。
周囲の貴族達は笑っていたが、その中でファルスティンの事実を見て来た、
影と国王。
それから本当に傍で相談し合う側近以外は笑うしかない対応だった。
ファルスティンを怒らせても有力貴族を敵に回す事は、
既にこの時の王国には出来なかったのである。
次代と王太子となる自らの息子と結ばれる「可愛い人」の実家と、
王国に直接仕える騎士達を合わせてやっと国営が上手くいく程度にまで、
王家の力も弱体化していたという事なのだ。
けれど虚像の王国の上で高らかに笑いながら豪華な暮らしを続ける、
高貴なる貴族達にとってアネスの言葉は「バカ犬の遠吠え」でしかない。
後日正式に書類として文面化した内容には、
国王に楯突いた処罰として「アネス・ファルスティン」は爵位を、
息子であるライセラス・ファルスティンへ移譲し、
その領主と言う立場から降りろと言う条件も追加されてしまっていたのだった。
けれどれはアネスにとっては望む所でしかなく、
一領民となればその先に起こる不都合な事は全て領民の暴走という言い訳で、
終らせてしまえるのだ。
なにより…
王国と戦いたいのはアネス・ファルスティンなのであり、
責任ある立場から退いてしまう事ほど、
弟である領地の大変革を引き起こしてしまった天災ともいえるゼファード。
その影響を受けまくったアネスは「暴走」出来てしまうのだ。
ファルスティンに生まれた天災アネスの弟である、
現ゼファード・バルダーの暴走は苛烈であり、
それは国境を接する砦が可笑しな強化が施されると言う形へと昇華する。
未だ食料問題が解決しない王国。
ですが、ファルスティンからお恵みが無ければ、
この冬が越せない王国民が大量に出てしまいます。
なんとか支援してほしいオースヴァイン王国。
ですが未だに「支援させてやる」なのでした。
もはや体面を気にしてこれ以上へりくだれない王室は、
命令をするしかないのです。
これで譲歩しまくった結果なのです。




