準備は怠れない事態は確実に動き始める
ライセラスとターシャのエルゼリアに対する期待はとても大きい。
既にその鱗片としてゼファード・バルダーが後回しにしていた、
食文化で「缶詰」の様な物を見せつけられている。
工業技術と食文化の合作はゼファードにはなかった発想で、
「出来るが作ろうとしなかった」典型的な一例なのである。
同時に果実畑の育成とそれに伴う地酒の生産も可能性の目を出してくれている。
ゼファード・バルダーが用意した技術がまた一つ開花し、
その後を継ぐようにギネヴィアで形を変え新しい物が作り出されたのだ。
そしてエルゼリアがファルスティンの夢と文化を深くする。
その夢をエルゼリアは確実に役に立つ形で「領民」に見せはじめていた。
エルゼリアが育てる夢を生み出した権利と豊かさをライセラスとターシャが守る。
それが見えているから領民達はファルスティンとバルダーを命がけて守る。
守らなくてはいけないと思えるのだ。
セルディアとメロディアに対する視線は厳しい。
厳しいがそれを表に出す事がないのはそう言った絶対の信頼を、
ライセラスとエルゼリアが見せているからである。
デルフィナス王家の姫様方はファルスティンが最後に送り出す、
手切れ金のような物であり、
その手切れとして渡す物は今のファルスティンにとっては惜しくない物なのだ。
ここでその手切れ金をケチって未来に、
ケチが付けられる事だけは許されない。
そう考えれば領都の成熟したライセラスとターシャが判断した政の近くいる、
領民達にとって二人の姫君はただの玩具となるのだ。
デルフィナスの姫君に達にとって楽しい楽しい時間は残念ながら続かない。
終りを迎えてしまうのである。
お迎えはじっくりと時間をかけて仕上げられた王家に嫁ぐ、
花嫁が身に付けるドレスを伴ってやってくるのだから。
二着の素敵なドレスは当然姫君の達の為に用意され、
袖を通さないなんて許されない。
当然着込んでしまったら婚儀が終わるまで脱ぐことは一切許されず、
反抗的な行動を取れば直ぐに御仕置きが待っている。
そう…
セルディア・オースヴァインとなってしまったら王族である事なんて、
忘れさせられるほど苦しい日常が待っているのだ。
可愛そうな姫君達の都市ライセラスの生活になれたと言う名の我儘な生活は、
唐突に終える事になるのだ。
その日の朝は特別な朝でターシャ・ファルスティンは、
絶対にしなければいけない事があった。
エルゼリアとギネヴィアにお手紙を届けさせるという大切なお仕事なのだが。
その手紙を届けるのは一人の使用人の女の子なのである。
彼女はファルスティンに来てまだ日も浅い。
けれど、彼女以外にこの役を任せる訳にはいかないのだから仕方がない。
少女の名はファルシェル・ゼフィラ。
ターシャ・ファルスティンが後見人となりリリー・ゼフィラの、
直轄の部下の1人として教育を受けている最中の子なのである。
ゼフィラの性を名乗る事になった経緯は紆余屈折してあったのだが、
ファルスティンでは数少ない強い魔力持ちであった事。
そしてここに来た時に瀕死の重傷であった事から、
ブラッティーローゼの下で治療を受けて無事に回復した事から、
生きる場所と強さを欲した少女の想いを汲み取る形で、
ゼフィラから新しい名前と性を与えられ使用人として迎え入れられた少女だった。
育ちも良く礼儀正しい事から特に問題もなく初期教育を終えたファルシェルは、
リリーの補佐としても優秀でよく目が効く所からも、
ゼフィラの持つ裏方として動く事になりそうだったのであるが、
何より深手を負っても生き延びたと言う彼女の生きる強さに惚れたターシャが、
目の届く範囲に置いて見守り強くしたいと望んだために未来の女騎士の様な、
騎士見習いの立ち位置に納まる事になったのだった。
だがファルスティンの騎士が行きつく先は、
グラファイスやアルフィンの様な人間を卒業する事になる事にファルシェルは、
まだ気づいていない。
それが良い事なのか悪い事なのかはわからないが、
元気になったファルシェルは今日もリリーの後を付いて他の侍女達に混ざり、
リリーのお使いや課題を熟す充実した毎日なのだ。
けれどその日ファルシェルは敬愛するターシャによって、
特別なお使いする事になってしまったのだった。
それは一人の使用人の女の子に心細いかも知れないが、小旅行となるのである。
一礼をして執務室の扉を潜れば、ライセラスとターシャは相談しながら、
書類の整理をしている所であったのだが、
ライセラスはそのままにターシャはリリーと一緒に来たファルシェルを、
窓際にある椅子に座るように指示するのだ。
「ファルシェル。
今日は貴女に届け物をして貰います。
重要な要望書と言ってもいいかも知れません。
都市ギネヴィアにいる私の可愛い妹達に手紙を届けてほしいの」
「はい。
リリー様よりそう聞き及んでおります。
既に長期の旅行の準備も出来ております」
「宜しい。では手渡す手紙はコレです。
そして急ぎではないのだけれど返事を書いて貰うのと、
要望の品の完成も待って、受け取って来て頂戴ね」
「え?はい」
それは簡単な仕事なのだけれど、
時間を少しかけなければいけない物だったのだ。
手紙を無くした時の為にその内容も口頭で伝えられたのだ。
指定の絵柄を入れた焼き物を作ってもらいその完成品を持って帰ってくる。
量産の可能性とコスト計算をしてほしいという、
エルゼリアとギネヴィアへのお願い。
この程度ならファルシェル自身が行かなくともいい様な気もしないでもない。
けれどターシャは言うのだ。食器は現物を出来るだけ見て判断したいと。
なので出来上がった物を直ぐに持って帰ってきてほしい。
「私のちょっとした我儘なのよ。
許してね」
「い、いえ!そんな。
頑張ってお役目を果たします!」
ファルシェルはターシャの「ちょっとした我儘」という言葉を信じたのだ。
伯爵夫人ともなれば少しぐらい我儘を言っても要望を通したいと思う事も、
あるのだろうと勝手に納得してしまったのである。
現にリリーに付き従ってから何度か間接的にターシャからのお願いは、
聞いてきた、どれもこれも些細な我儘と言うかお願いごとであり、
お使いついでに用意される待ちの時間は自由にしていいから、
見分を広げるには良いチャンスなのだ。
「それじゃあ、ちょっとした旅行のような事になるけれど、
頑張って頂戴ね」
それだけ言い残すとターシャはまたライセラスの手伝いに戻ってしまうのだった。
リリーはテーブルの上の手紙をファルシェルに持たせると、
そのまま執務室を後にする。
近くにある控室の様な所に案内されると、
ファルシェルは用意しておいた手紙を入れる為に革袋に手紙を入れ、
首から下げると胸元を開いてその革袋をメイド服の下へと仕舞い込んだ。
一般的な機密文書の運び方であり、
今回のお使いはそう言った文書の取り扱い方の練習でもある。
同時に外出用のメイド服を着るとリリーと一緒に馬車に乗り、
用意されていたエルゼリアとギネヴィア用の特別列車のへと乗るのだ。
数日間の鉄馬の旅。
鉄馬の特別列車に連結される使用人専用に作られた車両は、
特別な傍付きが同乗する事も想定された物なので。
使用人であっても1人部屋であったりもする上に、
今回のファルシェルは「ターシャ」が頼んだ特別なお使い。
建前とは言え機密文書(お手紙)も持たされているから当然個室が宛がわれ、
ファルシェルも鉄馬で移動している間はお客様として扱われるのだ。
なのでその一室に案内されると窓の外にはりりーの姿が見えたので、
慌ててその開閉機能の付いた窓枠を開けたのだ。
「言い忘れていました。
大したことではないですが都市ギネヴィアにいる間は、
私の妹達どちらかに指示を仰ぎなさい。
リチェルチェかリラーナに一言いえば指示をくれるでしょう」
「はい!行ってまいります!」
元気に返事をしたファルシェルが乗る鉄馬が発車したのを手を振って見送ると、
リリーは足早に屋敷に戻る事にしたのだった。
当然向かう先は執務室である。
報告相手はライセラスとターシャの二人である。
もちろんライゼンはその過保護っぷりにため息をつきたくなる事を耐えていた。
「ファルシェルが鉄馬に乗って都市ギネヴィアに向かうのを確認致しました」
「ありがとう。
あの子、カンが良いからちゃんと乗せないと何かに気付いて
きっと確認しに来てしまいそうだからね」
「その用心さがあったからこそ、生き延びたのだと思いますが」
「そうね。
でも見る必要のない物を見せる必要はないし、気がふれて倒れられてもね」
「それはないと思いますが」
「そうね。
でも怒って使者に襲い掛かるのは「今」は駄目よ。
次の機会まではね」
「はい」
ファルシェルと王国は根深い因縁を持つ中なのだ。
その因縁の所為で嫁入りが失敗する事は避けたいのだ。
ないとは思うが使者として来るのが前回と同じ人物であるかどうかわからない。
ファルシェルを救い出した事によってそれを思い出して、
「あの「娘」は私達のだ」
と、王国の使者に言われるのも癪に障る。
下手すれば「エルゼリアの代りに寄こせよ」なんて言われるのも困るのだ。
なので、今回の嫁入りが終わるまでファルシェルには都市ギネヴィアに、
いて貰うのである。
好きに使ってもらって構わない。
けれどきっと騎士としての立ち振る舞いが知りたいだろうとも、
手紙には添えて書いてある。
あとはエルゼリアが気を聞かせて頼むだけなのだ。
用意するべき食器は汎用品決して難しものではないから完成しない事もない。
けれどその注文を頼む事によってしばらく足止めしてほしいと言う事を、
エルゼリアが察せない訳はなく色々あるだろうけれど、
同年代の侍女とメイドがたくさんいる場所で生活するのもまた経験であり、
ギネヴィアとエルゼリアの周囲を気に入ってくれたらそれはそれで良い方向に、
ファルシェルも成長できるしどちらかを主として使えると言ってくれたら、
それでもかまわないのだ。
都市ライセラスとファルスティンの面々は、
ファルシェルの出立を持ってオースヴァイン王国から、
嫁入り用のドレスを運んでくる使者達を迎え入れる準備が出来たのである。
それはデルフィナスの姫君にとって最悪となる日の始まりなのだった。
日が昇り優雅なティータイムをデルフィナス王国の姫君達が満喫している時、
王国の格式にあった格好をしたライセラスと、
同じようにドレスを着たターシャが王国の使者を領地の王族を着替える場所として、
用意しておいた「御召し変えスペース」に案内して歓迎の言葉をかけるのである。
「ようこそ、おいで下さいました」
さて…
デルフィナスの姫君にとっての悪夢の始まりです。
楽しい時間は終わりました。
キャラクター解説
ファルシェル・ゼフィラ
初登場は悪役令嬢は何もしない。
「ep.71 私が見たのは…?」
です。
第2王子がエルゼリアに王国ボルフォード製婚姻用ドレスとして、
送りつけたドレスを着せられていた少女です。
エルゼリア用のドレスを脱がされた後ファルスティンで治療を受け、
そのまま使用人・メイドとしてゼフィラに迎え入れられました。
彼女に与えられた役割は寒いファルスティン領でも、
ドレスを温めて置けばすぐに着換えられるようにという、
第2王子様からの心のこもった配慮の結果でした。
勿論彼女は使い捨てのよていでしたね。
ドレスが無事に届けられればいい。
その為の人形ですから。
ですが想像以上にファルシェルは才能豊かな子でした。
リリーの下に付けても問題のない優秀な良い子です。
成長した後ターシャとしては裏方の人間より凛々しい女性騎士として、
エルゼリアかギネヴィアを守らせたいでしょうが本人的には…
どうなるでしょう?
ファルシェルは自身を救ってくれたターシャを敬愛していますから。
ターシャの下を離れないでしょう。
あの地獄から救い出して、行く所のなかった少女に名前を与え、
居場所を与えたのはターシャですから。
元は国境線沿いの領地の娘で家はもうありません。
使い潰された貴族の娘ですね。
学園で「高貴なる遊び」をされて強制退学で行き場も完全に失いました。
卒業していないので貴族位も当然なくて平民になるしかない所で、
たまたま容姿が似ていて「使えそうだった」から行き場を無くした彼女は、
箱詰めされてファルスティンに来たわけです。
勿論王国への恨みもそれなりに。
なので、使者とトラブルを起こす前にエルゼリアの下に送りました。
彼女が帰って来た時には花嫁は領都にいない筈です。




