姫君達は踊る。望むままに与えられる。求められるままに与えられる。
勿論都市ギネヴィアで発注したセルディア姫とメロディア姫のドレスは、
領都ライセラスへと届けられてそのままリリーの手に渡り、
ターシャの針子さんとデザイナーに仕上げを任される事になる。
本人達にとっては「遠慮がち」に作られたドレスであったが、
それでもギネヴィアからアルフィンを奪い取るために作り上げたドレスの出来は、
当然あの時ギネヴィアが着せられていた「ごーしゃすドレス」が、
基準となって作りこまれている。
それはターシャとライセラスが来ていた出迎え用のドレスよりは、
劣る事になるのだがそれがまた姫と言う立場が許されていると、
勘違いしてしまっている二人の姫…
と言うよりメロディア姫が積極的に許せないと態度に出してしまっていた。
「わたくし達は一国の姫なのよ!
そのプライドは捨てる訳にはいきませんわ!」
「そうねメロディアの言う通りね。
何を遠慮がちにしていたのかしら…」
「姉さましっかりしてくださいまし!」
「ええ!大丈夫よメロディア!」
「はい」
周囲から見れば何が大丈夫なのか解らない。
馬車の中でその悔しさを隠そうともしないメロディア姫はそのまま、
自身の立場を間違え加速させていくのだった。
領都のデザイナーは都市ギネヴィアから届いた、
姫君達が作る様に命じたドレスを見て、
ターシャの着ているドレスより見劣りする事を解りつつ、
それでも何処で使うのか解らない豪奢?に作り上げられたドレスの草案に、
うんざりしながらもリテイクがかかると分かっていながら、
仕方なく要望通りに仕上げるのだった。
それもまた一つの作戦なのだ。
駅から屋敷に届くまでの僅かな間で見た街並み。
それ以上に目の前に座るファルスティン伯爵夫妻の着ている物が、
メロディア・デルフィナスには許せないのだった。
「姉さまは最高の美姫であらねばならないのよっ!
姉さまがが望むなら、
領民はそれを差し出す事が礼儀でしょ?
生まれが違うのよっ!
姉さまは価値を大国に認めさせたのだから!」
思考は自然歪み誰に教えられることなくそう考えていたのである。
姉がオースヴァインの王家に嫁ぐ事になった時は喜び、
そして学園に通う事になった時にも喜んだものだ。
私の姉は大国に嫁ぐ。
しかもその王家だ。
その姉がどうして嫁ぐ前になって逃げだそうとしたのか、
その真意を妹のメロディアは解らないし解るつもりもない。
メロディアにとって重要なのは姉が大国を相手に主導権を握り、
王子様を翻弄出来ていると言う事がじゅうようなのだ。
それを取りやめてまでの行動。
艦隊を引き連れて出港をする事を父が秘密裏に許し、
船団を指揮する司令官すら随伴させたその船出は当然希望溢れる物だと、
信じて疑っていなかった。
長い船旅の果てに突然訪れた戦いの場、周囲は高揚し大声を上げて、
戦いと言う物を始めた事も理解はしている。
いう事を聞かない現地住民を躾けるのは高貴な私達の役目…
誰を相手に何の戦闘を仕掛けた理由も解らず、
気付けば艦隊はほぼ壊滅。
そして自分達は征伐させられる側だと気付いたのは、
ほぼ敗北が決まる寸前だった。
やっと司令官から権限を奪いいう事を聞かせ、
堅苦しい 母船から下船出来て姉様と一緒に酷い目にあいましたと、
報告した後の待遇は今までと同じを勿論要求した。
一国の「姫君」として立ち振る舞っても文句を言う物はいないし。
言えるほどの立場の人間に出会わなかったのだから。
戦いがあって負けた事なんてメロディアには関係ない。
負けた軍は酷い目に合うかもしれないけれど。
それは私達とは関係のない話でなくてはいけない。
責任を取るのは戦争を仕掛けた奴等であってメロディア達ではない。
それに…
姉は色々と酷い目にあって来たからそれ相応の待遇を受けるのが当たり前だし、
その待遇を受けられないのはおかしいと、
次第に判断するようになって来ていたのだった。
それは周囲の侍女やメイド達に自然と伝わって。
周囲で何時もお世話をしているメイド達も次第に本国と同じ立ち振る舞いを、
する様になって来ていたのだった。
それはこの国で「姫」として認められたと言う証拠。
メロディアはその対応に一応は満足した。
けれどそう考えるとおかしい。
私達は姫なのだと言うのに「目の前のたかが一領主の夫妻」が、
自身が来ているドレスより華やいで豪奢な物を着るなんて、
許される訳が無いし許す訳にはいかないのである。
それが王族のプライドと言う物であり失ってはいけない尊い意志なのだと、
メロディア・デルフィナス姫は再確認し続けているのだった…
メロディアが調子づいていくのを横から見ていたセルディア。
誰も妹の行動を咎める事をしない。
それは権威を恐れてなのか。
他国と軋轢を作りたくないからなのかと思い納得しかかっていた。
けれど素直にその考えを肯定できない。
セルディア姫は何かしらの引っかかりを覚え始めていた。
「…私達はその知識を買われて優遇されているのよ…ね?
煌びやかな衣装を作る為のアイディアを。
王族としての在り方を教えて差し上げているのだから。
そしてその立ち振る舞いを認めて貰えているのだから。
大丈夫…なのよね?」
専用列車に乗って領都ライセラスに届けられた時点で既に逃げ道はない。
逃げる方法も、そして逃げ方も当然解らない彼女にとって未開の地である。
涙を流しながら「最悪」の王家に嫁がされそうになっていた悲劇の「姫」として、
亡命を成功させたと片方で思いつつ、
本当にセルディア姫は亡命で来ているのか疑問に思う部分も当然あったのだ。
けれど妹のメロディアがその不安を払拭してしまっていた。
彼女が都市ギネヴィアでしたちょっとした我儘。
「専用のドレスを用意してちょうだい」
「専用…で、ございますか?」
「そうよ。セルディア・デルフィナス姫の為だけのドレスを作るの。
私達一国の代表たる「姫」は専用品である事が当然なの。
理解して下さるわよね?」
「仰ることは解りました。
誠心誠意い努力させていただきます」
「そうよ。
それでいいの」
それは当然亡命者と言う立場が成立しているのであれば作ってもらえる訳がない。
ただメロディアは思考が幼かった。
一つの要求が通ればもう一つの要求も通る。
その連鎖に身を委ね際限なく要求し続けてしまっていた。
その要求に全力で答える都市ギネヴィアの面々。
その時点でオースヴァイン王家に連絡を取り内定を進めていたので、
自由にされていただけなのだが。
心の中にあったわだかまり。
けれどセルディアは楽になりたかった。
気付いていたその違和感も気付かないふりをする。
「容認」してみなかった事にしてしまったのだ。
姫としての在り方だけを代価に、
何も用意できない自身にこれほど手を焼く理由が出て来ない。
不用意な遭遇戦で船舶を撃沈してしまった謝罪と思えば納得できなくはない。
だが実際はどうだ?
ちゃんと使者を受け入れてしかもその戦闘を仕掛けたのもこちらが先であり、
一方的に叩きのめされたのだ。
それは容認できる事なのか?
解らないし解りたくもないのだが。
ただ妹の我儘はそのまま受け入れられ、
そして自身の要求もすんなり通り続ける事と、
ターシャ・ファルスティンが着ているドレスより劣った物を着る事は、
認める訳にはいかないのだった。
そして姫君達の怒涛の我儘攻勢は幕を上げ、
王都のメイドや使用人達はそれに応えるべく動き始めるのである。