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見える物だけが事実ではなく完成品がその場にあるとは限らない。

デルフィナス王家の姫君達は丁寧に迎え入れられて…

そしてその立場は姫君として、ファルスティンで暮らす事になったのだった。

ほぼライセラスとターシャの思惑通りの展開であり、

その展開であるからこそ彼女達姫君の傍若無人の態度は許されるのだ。

亡命してきたことを忘れ僅か数日間都市ギネヴィアでもてなしを受ける間に、

その態度を亡命者から姫君に置き換え始める辺り、

その立場が何故許されるのかを考えると言う思慮はデルフィナスの姫君達には、

当然考えつかなかったのだろう。

はたまた…苦しい船旅をして来た姫君達には相応しい「ご褒美」として、

迎え入れる国は当然配慮するべきものなのだと、

勝手に思い込んでいたのかもしれない。

少なくとも「常識的価値観」の下行動すると言う自制心が無かった事だけは、

確かだった。

そしてその意思が根底にあったからこそ、

ライセラスとターシャが用意する未来へと繋がる列車に乗せられたまま、

二人の姫君はそのつれて行かれる列車から下車すると言う考えに至れない。

唯一現状に気付いているとしたら、

あの破滅的な要求をして来ていた交渉人だけだったのかもしれない。


彼等は腐っても国の思考を司る人間達だった。

叔父様が強制的に発展させた「ファルスティン」でなければ、

高圧的な態度に出たとしても「勝てる戦力」であった、

艦隊を持っていたのだから。

強気な交渉はその地を制圧できると言う武力があったからこそ出来た事で、

そこにまさか一瞬に外洋船を粉みじんに出来る戦力が…

自身の艦隊が持つ砲撃の弾をキャッチポールの様に受け止める異常な騎士が、

いるだなんて考えつかないし思えない。

どう考えたって外洋船である巨大船舶が訪れたら、

普通の村や町、ちょとした王家を誇る海洋国家であったらその建造力に、

ビビり、大人しく要求を受け入れようと考えるものだ。

所が例外的に発展したこの世界においてはアリエナイ一足飛びの、

船を作る場所が都市ギネヴィアなのである。

叔父様がロマンと実用性を兼ねて完成させてしまった船は、

当然デルフィナスの帰還が小さな「小舟」にみえるほどであり、

小型船舶としては叔父様がこれまた用意していた動力付きの物なのである。


「こんな巨大な船舶を見せつけられたら、ビビって何もできんだろう!」


と見せつけられた船は…


「はぁ?天才ゼファード様が作り上げた船は、

この船の4倍ほどの大きさがありますが?」


なのである。

交渉人は直ぐにこの地の異常性に気付くべきだったのだが、

勿論外洋から訪れる船から町の全容が見えない様に作るのは当たり前であり、

可愛い愛娘の町が海賊に見つかって襲われる事になるなんて当然、

ゼファードは許さない。

見せられる物。そして語られる口調。

そのほとんどが偽装され脅威に見えないそぶりをされれば、

勝手に格下認定した交渉人の失敗であったがしかたが無い事でもあった。

そんな彼等であったがあの船ごと木っ端みじんにされる恐怖から解放され、

ファルスティンの海側から見えなかった「内面」を見て、

更に鉄馬に揺られ馬よりも早く移動できる移動手段を使っても、

何日もかけて移動したこのファルスティンの「領都」と、

その上に出迎えた「姫君達が着ている物よりも上質なお召し物」を見れば、

姫君達の振る舞いのまずさと何故その我儘が許されるかが解るはずだった。

けれど自暴自棄になって「みんなで滅びましょう」的な交渉に、

舵を切ってしまった時点で姫君達からの信頼を失い、

そして今進言しなければまずい事になると分かっていながら、

何もできずにいたのだった…

彼等の滅びの美学とかなんとかも解らないではない。

既に外洋に出る為に艦隊を組まなければ損失はでかくなる。

そして旗艦に乗っていた乗員をその半分の大きさしかない随伴艦に詰め込まれ、

更に少量でほとんど補給させてもらえないでデルフィナス王国への帰路。

成功したとしても飢餓に震えながら何日も飲まず食わずで帰る事になれば、

船の中は地獄絵図だ。

更にここに来るまでに危険な岩礁地帯だってあった。

それを考えると無事にたどり着く前に船内は「内乱」で、

沈む事位簡単に想像できてしまう。

その内乱の犠牲になるのは「交渉人」として乗船させられている、

操船には役に立たない「自分達」だと分かっているのだから。

飢えと渇きに苦しんで死ぬ未来しか見えないのだ。

みんな一緒に死にましょうともなるしデルフィナス王家の姫君として、

迎え入れられるのであれば「当然」生き残った船は、

船内が地獄絵図となる航海に就航させられるであろう事も想像できていた。

彼が役に立てるのは「領都ライセラス」についてからだったのだ。

けれどそのライセラスに到着する時に姫君達から信用を失ってしまった、

交渉人がそのアドバイスを口にする事も当然許されずただついて歩くだけ。

ここで「交渉人」を参加させてライセラスやターシャと話す事が出来たら、

姫君にとって最悪の未来はもしかしたらなかったのかもしれない。

だが既に時は過ぎ去った。

二人の姫は何も考えず考える事を忘れて要求を続けるのだ。

更にセルディア・デルフィナス姫として最悪だったのは、

良かれとして連れて来た妹のメロディア・デルフィナスの存在だった。

国に残せば代わりに結婚させられる事は明白であり、

結婚すると言う事はオースヴァンにデルフィナス王国は隷属国家となる事を、

認める書類にサインする事になるために連れ出したのだ。

デルフィナスとオースヴァインには明確な力関係がこの婚姻によって作られる。

そこから逃がすための大逃亡劇としてデルフィナス王国の国王はセルディアと、

メロディアを逃がしたのだが、その意味すら二人の姫は理解していなかった。

理解していたのは交渉人だけだったのである。

デルフィナス王国としては何処かの集落を占拠して現地民を労働奴隷にしながら、

その随伴させた艦隊の乗組員を使ってその一帯を占拠し、

新しい国を作るつもりであり地盤が安定したらその地を第2の故郷として、

交易を開始母国の増えすぎた国民を移住させると言うごく自然の計画だったのだ。

そしてその果てに見つけてしまったのが都市ギネヴィアだった事は、

不幸としか言えないが…

大逆転を狙った移民計画は崩れ去り隷属国家となる証としてセルディアを、

オースヴァイン王国第2王子である、

レヴァンズ・オースヴァインの正室と言う名の奴隷小屋に収められた時点で、

目先の材木に捕らわれその輸入した木材の代りを育てると言う仕事を、

熟す事を「オースヴァイン王国2等市民」として行わなくてはいけない、

デルフィナス王国に明るい未来など無い。

オースヴァイン王国にある魔物が徘徊する森の中で材木を切り出し、

育てる作業を木材を輸入する必要がなくなるまで、国から送り出し、

その森にデルフィナス王国人の屍を積み上げ続ける未来しかないのだ。

垂らされた細い糸に縋ったデルフィナス王国は、

オースヴァイン王国の好きなタイミングで「糸」が切られ落とされる。

ただしその糸は何度でも垂らされるのだ。

デルフィナス王国の国民が吐き出せなくなるまで。

そして吐き出す事を躊躇う事は、

「容赦なく王子の正室という奴隷小屋に捕らわれる姫君達が泣き叫ぶ所を、

デルフィナス王家は見る事になる」のだ。

間違った契約だったとしても姫君はもう取り返せず、

そしてその契約を反故にする事は出来ないのだ。

背筋に冷たいものが近づいてきている事にセルディアは気付くべきだった。

だが、その目を更に曇らせる原因はセルディアの真後ろにいたのである。


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