4−3 出会いのイベント
ギルバート殿下が、青白くなっているエルナに顔を向けた。
「この者が言っていることは真実か?」
彼の一言で、この場が怖いくらいに静まり返った。
私のことを完全に疑っている彼は、エルナにジャッジをさせるわけか…。
王族に嘘をつけば処罰されるのだから、当然真実を述べるはず。
誤魔化しもここまでかと覚悟し、ぎゅっと目を瞑る──。
「は、はい……わ、私は侍女でございます」
エルナの震える声が聞こえ、驚いた私は目をぱちくりさせながら彼女に顔を向けた。
だが、私の視線をものともしない彼女は、まっすぐ前を見据えていた。
エルナってば、信じられない。
あなたのことを助けたことは、間違っていなかったのね。私の計画はうまくいくかもしれない。
まだまだ窮地だというのに、思わず口角が上がった。
それを聞き終えたギルバート殿下は「なるほどな」と小さく呟き、歩兵を見やる。
「問題はなかったようだな。彼女にナイフを返してやれ」
「で、ですが、パレード中に刃物を鞘から出した行為を、不問というわけには……」
納得がいかない歩兵がギルバート殿下に物申した。
その言葉に顔色一つ変えないギルバート殿下は、私の胸元をまじまじと見つめている。
何かしらと思う私も、彼の視線の先を見てみた。
そうすれば、ヘイゼルから借りたブローチが着いているではないか!
よりによってバークリー伯爵家の家紋付きのもの。
嘘でしょう……。
部屋への無断侵入ごまかそうと借用し、意味もなく着けているブローチで、名前を証明しているわよね……。
何をやっているのよ、私ってば!
身元を特定された今となっては、この先ずっと付きまとうじゃない!
こんなブローチを着けて、間抜けすぎるわ。
ゲームの世界に転生した初日に処刑エンドになるかもしれない。そんな予感がひしひしと感じる。
前世で観たエンドロールを思い出し、血の気が失せた私は、そっと胸元に手を置いた。
ひとまずブローチを隠してみた。今さらながらに。
姑息な抵抗を示す私をよそに、ギルバート殿下が歩兵たちへ鋭い視線を向けた。
「お前たちは、バークリー伯爵家の令嬢の話を疑うのか?」
「その方は伯爵令嬢でございましたか。存じ上げず大変失礼いたしました」
彼らが気づかないのは、無理もない。
そもそも令嬢としての気品も振る舞いも乏しい私を、誰が貴族だと思うものか。
家紋で判別できるのは、貴族を知り尽くしているギルバート殿下だからできること。
とりあえず、ここは安心してもよいのかしら?
そう思った直後、ギルバート殿下が自身の胸ポケットから何かを取り出した。
「渡したいものがある」
えっ! 何この展開⁉︎
ゲームではそんな設定はないけれど、もしかして、イベントの報酬がもらえるのかしら──⁉
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