4-2 出会いのイベント
私の推しとはいえ、このゲームのヒーローは冷酷王子だ。
攻略が難しい俺様キャラの心を溶かしていく乙女ゲームを作ったのは自分なのに、私ってば彼に向かって何を言っているのよ……!
横槍を入れた私に、ギルバート殿下が顔を動かす。
そうすれば周囲の人々を氷らせそうな冷気を放ち、私を睨んできた。
今さら、前言撤回は無理だろうと覚悟し、真剣な目を向けると、そのまま貫く。
「この者は私の侍女でございます。誤って護衛用のナイフを落としただけです」
その言葉を信じていない素ぶりの彼は、私を試すように質問を返てきた。
「ほう……お前はこの者を自分の侍女だと言うのか?」
「はい。そうでございます」
「彼女は侍女に見えないな?」
「エルナはまだ、侍女になったばかりでして、いろいろと不慣れなため、ご容赦ください」
顎を上げてあおってくるギルバート殿下が、念押しする。
「王族への虚偽の申し立ては、処罰の対象だとわかっているのだろうな」
私の言葉を一切信じていない口ぶりに、肩をすくめる。
エルナが私の侍女ではないことに気づかれているのか……。
まあそうだろう。
ここはパレード会場だ。
観衆一同が右側に顔を向けるタイミングで、警護を兼ねた従者が左側に立ち、主に背中を向けるわけがない。
私たちの立ち位置は、そもそも主従関係としてあり得ないのだ。
この状況を冷静な彼が見逃すわけがないか……。
従属の秘薬といい、出会いのイベントといい、この世界に転生してから、失敗続きじゃない。
ここを切り抜けるアイディアはないかしらと、エルナに助け船を求めるがは、目をぱちくりしているだけ。
これはもう、自分でなんとかするしかないか……。
推して駄目なら引くしかないと考えた私は、体を半歩前に出し手を伸ばすと、微笑んだ。
「私ってば、ギルバート殿下を見てはしゃぎすぎてしまいましたね。急に動いたから、お乗りの馬を驚かせてしまい、申し訳ございません」
彼の白馬を驚かせないよう、艶やかな毛並みを優しく撫でた。
すると、私の行動を見たギルバート殿下が、目を見開いている。
あれ? 勝手に馬に触れたから、やはりまずかったかしら……。
そう思っていると、気の抜けた声が聞こえた。
「そなたは馬に触れるのか?」
「はい、動物全般が大好きですから」
祖父が牧場を経営していたため、小さいころから馬に慣れ親しんでいるし、動物は好きだ。
久々に触れた馬の感触が嬉しくなり、自然と笑みがこぼれる。
「おびえた目をしているわね。ごめんね。ナイフを落として不快な音を立てて」
そう言葉にすると、馬が私の顔に擦り寄るように、首を上下させた。かわいい子ねと思う私の表情が、ますます緩む。
「警戒心が強いこの馬が、知らない人物に触れられて喜ぶなんて、信じられんな」
「かわいくて従順な子に見えますが?」
初対面でこれだけ従順に触れさせてくれているのだから、賢くていい子だと思うけど?
こてんと小首を傾げると、彼は豪快に笑った。
「ははは! 勇ましい女だ。堂々と嘘をついたかと思えば、話をすり替えたか」
あはは。やはり嘘だとバレていたのかと状況を理解し、馬に触れていた手を引っ込め一歩後退した。
お読みいただきありがとうございます。
やっとギルバートが出てきました!
引き続きよろしくお願いします。