表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/46

4-1 出会いのイベント

 意を決したエルナを止めようと、静かに腕を伸ばした。


 そうすれば、驚いた彼女の手から滑り落ちるようにナイフが落下していく。


 そのまま石畳にぶつかったナイフは、ガシャーンという音を周囲に響かせてしまう。

 とはいえ周囲も騒々しいため気づかれていないかと考え、エルナに注視する。


 エルナが私の方に顔を向けたため、彼女の手首を掴んだまま、ささやき声を出す。


「やめなさい。この戦争を恨んでいる気持ちはわかるけど、あなたがその感情をぶつけても、大切な人は帰ってこないから」

 真顔で言うと、震える声が返ってきた。


「あ、あなたも……?」

「戦争じゃないけど、家族と会えなくなったから、その辛さはわかるわ」


 家族どころか友だちも、知り合いさえいない孤独を、只今、身をもって体験中だ。

 まあ、そんな嘘みたいな話は言えるはずもないけど。


 私ときたら、第1王子との出会いの機会さえも、たった今、自らの手でぶっ潰したし、ますますこの世界に馴染めなくなったわね……。


 あははと泣けてくるが、こうするのが最善のような気がしたのだ。


『冷酷王子の烙印』のヒーローと結ばれるためには、イベントを遂行するのが最優先だろう。

 エルナに事件を起こしてもらうのが自分のためだ。普通は。


 どうせ重症者は出ない。


 被害といえば、ギルバート殿下の乗っている白馬と処刑されるエルナだけ。


 イベントを攻略したい気持ちは、最後まで迷うくらいあった。


 彼との好感度もそうだけど、この機会で得られるアイテムも魅力的だから……。


 できることならギルバート殿下の傍にいられる夢を見たかったけど、妹に従属の秘薬を奪われた以上、私の味方が欲しい。その感情が勝ったのだ。


 案の定、私がエルナを制止したせいで、イベントは発生しなくなった。


 ギルバート殿下が乗っている白馬は暴れることなく、私たちの前でピタリと静止しているし、完全にゲームのストーリーを変えてしまった。


 ピタリと静止──?


 え……。どうして止まっているのかしら?

 てっきりそのまま通過すると思っていたため、不思議に感じながら頭を上げる。


 そうすれば、眉間に深い皺を刻んでいるギルバート殿下と目が合ってしまい、頭の中がミュートを起こす。


 ゆっくりと視線の先を変えたギルバート殿下は、地面に落ちたナイフを見ているではないか!


 彼の好感度を上げるどころか、とんでもない窮地ではなかろうか……。この状況は……。


 ナイフを拾いあげた歩兵が、ギルバート殿下が我々に下す命令を待っている。


 周囲が静まり返る中、ギルバート殿下がエルナに指を差して命じた。


「そこの金髪の女を捕らえよ」


 嘘だ。駄目よ。そうはさせないわ。

 私の従者になってもらいたくて、危険を承知で彼女を止めたのに、処刑されてなるものか!


「待ってください!」

 一歩も引けない私は真剣な声を出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ