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26 決着①

 予期せぬプロポーズをされてから1週間が経った──。


 彼に私の事情を打ち明けたが、明確な答えはもらえないままだ。


 だが、なぜかわからないが、彼はまるで婚約者のような態度で接してくるのだ。


 殿下という権力に抗えもせず、今のところ彼のペースに流されている。


 そうして今、ギルバートが私を呼んでいるとルシオから聞いたため、彼の執務室を訪ねた。


「何かありましたか?」


「アンドレアの顔が見たかった」

 彼が真顔で言った。


「冗談ばっかり言わないでください。少し前に一緒に朝食を摂ったばかりですよ」


「少しというが、あれからもう1時間も経っているだろう。それに、私としては大いに読み誤ったことがあるから、気になって仕方なくて呼び出したんだ」


 今度は真顔なうえ、真剣な口調でもある。

 大きな問題をはらんでいるのかと気になり、こちらも真剣に尋ねた。


「いつも完璧に仕事をこなしているギルバートが間違えるなんて、一体何があったんですか?」


「アンドレアの机は、私の部屋に準備すべきだった」

 やや俯き加減の彼は、重々しい口調で告げた。


 もしや、コンラートとヘイゼルが仕組んだあの事件のことを、ギルバートが責任を感じて悩んでいるのではなかろうか?


 今の会話からは、そうとしか思えず、申し訳なさが募る私は、それまで呑気に身構えていた自分の心情を引き締めた。


「ギルバートが心配することなんて、何もありませんよ」


「それはわかっているんだが、ルシオだって男だからな。それに馬車の一件でアンドレアに助けられてから、やけに慕っているだろう。彼とアンドレアが2人きりで部屋にいると思うと、気になって仕事が手につかない」


 彼の斜め上の返答に目が点になる。

「はえ?」

 咄嗟に何か言おうと思ったが、情けない声が漏れた。


「こんな複雑な気持ちになるとは、今回は失敗した。今すぐにでも、私が毎日見えるところにアンドレアを置いておきたいからそのつもりでいてくれ」


 艶っぽい声で言う彼は、私をじっと見つめてきた。


「ずっと一緒にいると、私の身が持たなそうなので、きっぱりとお断りいたします」


「くくっ、相変わらずアンドレアらしい回答だな。それでこそ私の見込んだ女性だ。今夜の終戦記念式典も、それくらい強気で参加しろよ」


「それを言うためにわざわざ呼び出したのですか?」


「いいや、私がアンドレアに会いたいというのが最大の理由だが、今すぐ読んでおいて欲しい本を渡したくてな」


 そう言ったギルバートから渡された本は、貴婦人の挨拶の基本というタイトルが書かれている。


「あのう……これを読んだ方がいいのですか?」


「ああ、そうだ」

「はぁ~、わかりました」

 不思議に感じながらも、受け取って来た。


 ◇◇◇


 コンラートの処刑判決が出たあの日。


 ギルバートに連れられて行った屋上で、私に関する秘密を打ち明けた。


 バークリー伯爵の籍に入っていないことと、死刑となったコンラートから聞かされたことを。


 バークリー伯爵は、敵対する貴族の力を削ごうとしており、帝国から幻覚作用のある薬物を取り寄せ、密かに拡散させようと考えているらしい。


 この国では所有も売買も固く禁じられている薬草の入手ルートとして、目を付けた先が帝国。


 とはいえ伯爵は帝国語がわからないため、帝国との文書のやり取りの通訳にコンラートを使っていたみたいだ。


 コンラートの机には伯爵がこの国の言語で書いた手紙を全て保管しており、その事実を死ぬ間際のコンラートから打ち明けられた。


 バークリー伯爵家に戻れば、今度は私が伯爵に利用されたかもしれない。


 だが私はコンラートと違い、バークリー伯爵家に対するこだわりも、父親への想いもないため、素直に手を貸すとは思えないが、犯罪の情報を一度聞かされて協力しないとなれば、身の危険しかない話。


 もはや私の手に収まる問題ではないため、ギルバートに託した。


 これでバークリー伯爵家は取り潰しだろう。間違いなく。

 私の身分は庶民のまま。父親を説得して伯爵家の籍に入る可能性は、完全に潰えた。


 はぁ~、まったく……。


 どうせ転生するなら、壊れていない世界が良かったのに。

 そうすれば今ごろ、前世の知識で無双とかいう展開になっていたはずなのに……。うまくいかないことばかり。


 知らないことばかり出てくる自作ゲームって、一体……。


 私にヘイゼルへの復讐を押し付けた彼の亡骸は、コンドルの餌食になり、あっという間に見る影もなくなったと聞かされた。


 呪われたら嫌だし、死んだ人間を悪く言いたくないため、ざまぁみろとは言わないが、気分は複雑だ。


 そんなことを考えている私は、今夜の終戦記念式典の身支度をエルナに整えてもらっていたのだが、ぼんやりしていた私を心配した彼女が尋ねてきた。


「そんなに緊張しなくても、アンドレアお嬢様が今日の主役で間違いございませんよ」


「え──?」


 王城に呼び寄せたエルナが自信満々に言うため、わけもわからず訝しむ。


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