3-2 もう一人のヒロイン
【イベント発生! 彼に自分の存在を印象づけよう(※成功アイテムあり)】
というメッセージがゆっくり消えると、次に違う言葉へ変わる。
【どちらに向かう?】
「何よこれ……。リアルにゲームを進めていけっていうの……?」
ぼやく私の心情をよそに、次の選択肢が頭に浮かんだ。
【行先選択:橋・城門】
よし! ゲームと一緒だ。
ここは迷わず『橋』を選択する。
どちらを答えるかで、好感度の上昇が違う。
ギルバート第一王子を落とせるとは、ゆめゆめ思っていないが、より難しい方を選択してみた。
凱旋パレードとあり、馬車の侵入が制限されているため、適当な場所で降ろしてもらい、御者とは別れた。
幸いにも、警護なしでパレード会場に辿り着けたということだ。
こうなれば、私の好きにさせてもらう。
キョロキョロと見回し、目的の人物を探す。
「いたわね」
ゲームと同じ展開に胸をなでおろし、金髪の髪を一つにまとめた、うら若い女性の元へと向かう。
そうして何食わぬ顔で彼女の横に立つ。
黒い瞳の彼女は、これから姿を見せるギルバート殿下を探すのに夢中で、隣に並んだ私のことなど、微塵も気にしていない。
祝福ムード一色のこの場で、冴えない表情を見せる彼女は、夫を3週間前に戦地で亡くしたばかり。
両国間での和平条約を結ぶ決断がもう少し早ければ、元侯爵令嬢の彼女が未亡人になることもなく、今日の日を胸躍らせて歓迎していただろう。
別にギルバート殿下が悪いわけではない。
だが元侯爵令嬢のエルナは彼を強く恨み、ナイフを隠し持ってこの場にいる。イベントの原因となる人物だ。
これから起きるイベントに意気込んでいると、白い馬に乗ったギルバート殿下が見えてきた。
自分が作ったゲームのヒーローだから、最推しの存在であることは間違いない。
あぁ……。やっぱり彼は尊い。
離れていても、23歳の彼はキラキラ輝いて見えるもの。
「ぁっ!」
じっと見つめていると、私と視線がバチッと重なったと思ったが、気のせいだろうか。
一瞬、ドギマギしてしまったが、気を取り直してエルナに視線を戻す。
彼女は殿下が乗る白馬にナイフを刺すつもりでいる。
突き立てられたナイフの痛みに驚いた馬が暴走し、沿道の観衆たちに突進して橋から落ちていくのだ。
幸い、ギルバート殿下は、馬が河に落ちる直前に飛び降り怪我もないが、突進された庶民に負傷者が何人も発生してしまう。
負傷者たちを救助することで、ギルバート殿下に強烈なインパクトを与え、出会いのイベントが完了する。
そろそろ時間が迫ってきたと思うが、ピロンというゲームの音は聞こえない。
頭の中にゲームのコマンドが表示されないため、勝手にやれということだと納得した。
いよいよ、ギルバート殿下がエルナの前に差し掛かろうとしている。
観衆は皆、大きな声援とともにギルバート殿下に釘付けだ。
そんな状況で今、エルナが包丁を握ったことなんて気づくわけもない。私以外は……。
緊張が最高潮に高まったとき、エルナがすっと一歩前へ足を踏み出した──。
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