21-1 ラムネ
コンラードが立ち去りどれくらい時間が経っただろうか……。
私にできることは、彼を信じることだけ。
そうなれば、立っていても仕方ない。
通り抜けられそうな鉄格子から顔を背け、冷たい地面にゆっくりと腰を下ろし、膝を抱えた。
「せっかく官僚になれたと思っていたのに、どうしてこんなことになったのよ……」
薄暗い牢の中で、独語がこだまする。
あのラムネがゲームの報酬ではなく、誰かに仕込まれたものなら、犯人はあの子しかいない。
もう一人のヒロイン……ヘイゼル。
初めからアンドレアの存在を毛嫌っていたのに、私が官僚になったせいで、悠長に構えていられなくなった。そういうことだろう。
舐めていた存在が、脅威に変わってきた。
そのタイミングで、バークリー伯爵が王都にいないのだ。罠を仕掛ける、絶好の機会のはずだ。
今、領地にいるバークリー伯爵がこの事件を知り、王都へ戻って来たときには裁判で決着がついているかもしれない。
この国の裁判のチャンスは一度きり。
有罪判決を受けてしまえば、処刑エンドを覆せないのである。
これ以上ないくらい気分がどんよりしたときだ──。
固い靴底で、じゃりっと砂を踏む音が聞こえた。
誰か来たのかもしれないと、流し目で気配を確認する。
そうすれば、眩しいくらい艶やかな革の靴が目に飛び込んできた。
近衛兵が履くには高級すぎる上等の靴に、ゾクッとする──。
コンラートが再び訪ねてきたと、真っ先に考え、腕の隙間から覗くように視線を向けた。
その瞬間、心臓がドキッと跳ねた。
「ギルバート殿下!」
反射的に大きな声を出し、すくっと立ち上がる。
「アンドレア……来るのが遅くなってすまない」
「ギルバート殿下が気にすることはございません。私の方こそ、このような事態になってしまい、なんて言ったらよいか……」
落ち込む姿を見せたくないため、笑顔を作ってみたが、いまいちしっくりこない。
そんな私の気持ちを察したように、穏やかな笑顔を見せる彼が言った。
「アンドレアのことは、必ず助けるから気落ちするな」
「どうしてそんな優しい言葉を仰ってくださるのですか?」
どういうわけか即答しない彼との間に、重苦しいほどの沈黙が広がる。
うつむきがちに考えていた彼が、私の目を見ておもむろに口を開く。
「辛気臭い場所で伝えるのは情緒がないから、今は我慢しておくが……私を信じて欲しい」
投稿が遅くなりました。すみません。
今日はここまでですが、明日、また投稿します。
引き続きよろしくお願いします。




