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18 簡単すぎたイベント

 私の所まで、ルシオの唾が飛んできそうな勢いで質問された。


「アンドレア卿‼ それは本当ですか!」

 その様子に引け腰しになったのは、私だけではなかった。


「落ち着けよルシオ。アンドレアが驚いているだろう」


「ですが、今の情報だけで解決できるって言うんですよ! これが落ち着いていられますか? ギルバート殿下は私の苦労をわかっていないのですよ」


「あはは、なんだか大変だったんですね」

 同情の言葉に「ええ、まあ」と口にしたルシオが続けた。


「それで、どうすればいいんですか?」


「営業許可制にすればいいんですよ。許可証を発行して乗客の目のつく所に貼っておくよう命じるんです。身元がすぐに特定されるとなれば、詐欺まがいのこともしなくなるでしょう」


 日本のタクシー制度を思い出し、提案した。


 一刻も早く解決してもらわなければ、ギルバート殿下の右腕であるルシオが不在がちのまま。

 それは大きな問題になる気がするのだ。

 ……何かが胸をざわつかせる。


「アンドレア卿の仰るとおりです。国民にも営業許可のない馬車に乗らないよう通達すれば、市井で問題を起こしている馬車は消えていくはずです」


「そうなるといいですね」


「アンドレア卿はすごいですね。営業許可なんて、この国の発想にありませんから思い浮かびませんでした」


「いい案だ。早く動くべきだろう」

 そうギルバート殿下が告げると、ルシオが時計を見た。


「そ、そうでした。僕は早速関係する部門に仕事を下ろしてきます」


 ガタッと椅子の音を出して立ち上がったルシオは、忙しなく退席していった。

 彼は喋ってばかりだった気もしたが、いつの間にか食べ終えていたため、こちらの方が、凄いなと笑ってしまう。


「ルシオが騒がしくて申し訳ないな。彼はアンドレアに迷惑をかけてないか?」


「朝からとても親切にしていただいていますよ」

「それなら良かった」

 と小さな声を最後に、この場がシーンとする。


 急に2人きりになったせいで緊張してきた。

 というのも、次にギルバート殿下に会えたときのために、用意していたものがあるのだ。


 今が絶好のチャンスだろうと考える私は、ポケットに手を当てる。

 手のひらに膨らみを感じ、部屋に忘れてきてはいない。


 今一度、彼の機嫌を確認しようと顔を見れば、澄んだ水色の瞳と視線が重なった。


 勇気を振り絞りポケットから袋を取り出す。


「ギルバート殿下に渡したいものがあって、お持ちしたのですが?」


「アンドレアが私に?」


「以前、市井でお会いしたときに、次はもっと上手に刺繍したハンカチを渡すとお伝えしたので……」


 あの場の彼は、社交辞令で言ったのかもしれないが、ギルバート殿下と一度約束した以上、渡さないという選択肢もなかった。


 そのため、官僚試験の勉強の合間にエルナから教えてもらったのだ。


 恥ずかしさ半分で、控えめに差し出すと、彼の顔は一気に華やかさを増し、私の手元を凝視している。


「アンドレアが私のために縫ってくれたのか?」


「勉強についてもアドバイスをもらいましたから、そのお礼も兼ねて用意しました。受け取ってもらえると嬉しいのですが」


「まさか、本当にハンカチをもらえるとは思っていなかったから、凄く嬉しいのだが」


 目を輝かせる彼が、私の手から奪うように持っていった。

 ハンカチを手にした彼は早速、待ちきれないといわんばかりに袋から取り出し、広げて見ている。


「凄いな! 前回とは比べものにならないくらい上達しているじゃないか!」

 そう言った彼が、胸ポケットから白い布をおもむろに取り出した。


 嘘でしょう……?

 見覚えのある糸がついている布が目に飛び込み、顔が引きつっていく。

 今となっては刺繍と呼ぶのもおこがましい絵が描かれおり、見間違うことなく、私が刺した刺繍だ。


「使わないでくださいとお願いしたはずですが、持ち歩いていたんですか?」


「ははっ、私は大変気に入っているからな」


「それは恥ずかしいので、返してくれませんか?」

 負の歴史は、早急に回収しようと思う私が手を伸ばす。


「アンドレアが初めて描いた刺繍というのは、この世に2つと存在しない貴重なものだろう。それを偶然手にできたのは光栄だし、返す気はない」

 真剣な口調で咎められたが、その最後に私の心まで和む笑顔を向けられてしまえば、それ以上何も言えなかった。


 ふわふわと夢心地のような感覚に襲われていると、時間を気にした彼が、「そろそろ仕事に戻ろうか」と言ったため、自分の執務室に戻って来た。


 未だにドキドキが止まらないが、顔が赤くなっていないだろうか?


 そう思う私は、手鏡を取り出そうと引き出しを開けた。

 すると見慣れないものが入っており、引き寄せられるように、手に取った。


「なにこれ?」

 午前中までは確かに存在しなかったはずのものが入っている。

「お菓子かしら?」

 パステルカラーの球体が、いくつも瓶に詰まっており、質感がラムネのように見える。


「どこかで見た覚えが……」

 シルバーの平たい蓋で、手のひらサイズの透明な瓶。


 たぶん前世での記憶だろうと考えていれば、繋がった。

 ゲームの報酬で用意した、未来が見えるラムネだ。


 とはいえ特典に近いアイテムであり、正直言ってあまり使い道はない。予告ムービーが流れるだけである。


「な~んだ映像特典かぁ。今回のイベントは、随分と簡単だったわね」


【キャラと協力して問題を解決しよう】というイベントのため、相当警戒をしたが、少しラッキーだったかもしれない。


 前世の知識があれば、馬車の問題なんて簡単だったもの。


 毎回この調子で進めばいいのに、と思う私はにんまりしながら、そのガラス瓶を見つめていた。


 ◇◇◇


(SIDE ヘイゼル)


 日傘をさしているというのに、地面から反射する太陽の熱で、我慢ならないくらいに熱い。


 早く戻って来ないかしらと待っていれば、ようやく姿が見えてきた。


 ムッとした表情に気づいたようで、慌てて駆け寄って来る。


「ちゃんと置いてきたかしら?」


「はい、ご指示のとおりに」

 その言葉を聞いた私は、すでに笑い転げそうなほど気持ちは昂っているが、喜ぶのはもう少し先にしておこうと、堪えておいた。


お読みいただきありがとうございます!!

二人の距離が徐々に近づき、作者も、にんまりしてます。

引き続き、よろしくお願いします。

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