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17 ゲームのイベント?

 ギルバート殿下とルシオに案内された食堂は、私たち以外の姿はない。


 もしやとは思うが、王族専用の場所に連れて来られたのではなかろうか……。場違いにもほどがある。


 正直なところテーブルマナーにあまり自信のない私としては、逃げ帰りたい。

 そう思って扉に顔を向けると、満面の笑みのギルバート殿下と目が合った。


「さあさあ、席へ着いて」

「いや……でも……」


 高そうな花瓶に生けられた花や豪華なシャンデリア。縦長のテーブルが1台だけ置かれているところをみると、どう見ても庶民が踏み込んでいい場所には思えない。


「どうかしたのか?」


「私がこの場所で、食事をご一緒してもよいのですか?」


「構わないさ。この場所を使うのは、私のほかにフェリクスだけだ。緊張する必要はないから、普段どおりにしてくれ」


 その会話にルシオが続けた。


「官僚用の食堂は人が多いので、むしろ緊張するかもしれませんよ。ギルバート殿下と行動を共にする者の特権ですから、ご遠慮なさらず」


「そうですか……」

 言われてみれば、官僚たちが私の噂話をしていたっけ。

 そんな私が彼らの目に晒されたら、余計な噂話が増えるだけかもしれない。


 2人の様子から察するに、私のことを心配してくれたのだろう。

 その気持ちをありがたく受け取り、ギルバート殿下を囲うように食卓についた。


 ちなみにギルバート殿下が口にした、フェリクスとは、ダルクート王国の第2王子のことだ。


 前世の私は、第2妃の子を設定していたが、プログラムに組めなかったため、名前だけの存在である。


 おそらく会うことはないという感情が、真っ先に浮かんでしまう、顔も知らない人物だ。


 私たち3人が着席してほどなく、食事が運ばれてきた。

 焼き上がったばかりの白身魚にソースがかけられ、カラフルな野菜が添えられている。


 その皿を見たルシオが興奮した声をあげた。


「24時間ぶりの食事にありつける~。今日からアンドレア卿もいるのですから、3食きちんと摂りましょうね」


「ああ、そうだな」

 ギルバート殿下はそっけなく返したが、思わず追及する。


「この仕事は、食事も摂れないほど忙しいのですか?」


「いや、普段はそんなことはない。ルシオが大げさなだけだ」


「ええぇ〜、大げさじゃないですよ〜。ギルバート殿下が早急に解決しろって言うから、毎日飛び回っているんですから」


 ルシオが口にした、問題という言葉に、今朝の記憶が蘇る。

 攻略キャラと一緒に問題を解決するようにと、緊急イベントが発動しているのだ。


 なんだろう。変な違和感がある。

 やけに私のアンテナに引っかかるため、口を挟んだ。


「問題と言いますと、何があったのですか?」


「市井の馬車の中で、降車時に度の過ぎた金銭を要求する者が出現して困っているんですよ。まあ、個人の設定した料金なので、金額について咎めることはできないのですが」


「それをどうして、ギルバート殿下とルシオ卿が直々に動いているのですか?」


「その詐欺行為が、戦地から兵士たちが戻って来たあとから発生したため、元兵士たちの仕業だと噂されているんです。殿下の指揮下にあった者かを確かめたくて」


 疲労の色を隠す気のないルシオが、大きなため息をつく。


「ギルバート殿下ってば、人遣いが荒いんですよ!」

 ルシオが冗談まじりに言っているところを見ると、2人は本当に気心の知れた関係みたいだ。


「はぁ! 任せていても解決する気配がないから、手伝っていただろう」


「よく言いますよ。街へ状況を確認しに行くと言って、お忍びでデートをして帰ってきただけじゃないですか」


 楽しそうな2人の会話を笑っていた私は、表情を失った。

 ギルバート殿下は、意中の女性がいるのか……。

 いないわけがないか、と投げやりになったところで、意外な答えが返ってくる。

 

「たまたまアンドレアと遭遇しただけだろう」


 それを聞き、なるほどねと笑ってしまった。

「ふふ、だからあの場にいたんですね」


 それを茶化されてデートと言われては、赤くなって怒る理由に納得する。


 だが、笑っている私とは裏腹に、疲れきった雰囲気のルシオがぼやく。


「馬車なんて、なんの特徴もないから、加害者は『普通の馬車』としか言わないので、しばらく解決できそうにないですね」


 そうだろうか。簡単なことだろうと思う私は、ルシオにぽつりと呟く。


「あの~、それならすぐに解決できると思いますよ」


「え⁉」

 ルシオは目を大きく瞬かせながら私を見てきているが、ギルバート殿下は「ほう」と一言だけ発し、嬉しそうにしていた。


 やはり、胸がざわざわする。

 何かが引っかかる。

 どうして違和感があるのか、このときは気づかなかった。

 それは、馬車の問題がすぐに解けた高揚感のせいだったのかもしれない。


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