表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/46

3-1 もう一人のヒロイン

 恐る恐る部屋の入り口に視線を向ければ、一気に力が抜けた。


「あれ? お姉様ってばどうしたんですか?」


 無邪気な表情で、こてんと首を傾げるヘイゼルが愛らしい声を出した。

 事情を知っている私から見ると嘘くさくてしょうがない。


 自分の部屋に無断で入っている私に対し、その反応か……。

 いら立ちを覚えたが、落ちつけ自分。


 ひとまず、この現状をごまかすのが先決だ。

 大袈裟なくらい、ほうっと息をはき、安堵した表情を見せた。


「実は……バークリー伯爵家の家紋が入ったブローチを付けるようにお父様から言われたのですが、持っていなくて。どうしたらいいか、困っていたんです」


「なんだ、そうだったのね。お姉様のお顔を存じない方が多いから、今日のパレードは着けた方がよろしいですわね」


「そうみたいで」


「私は持っているから、待ってくださいね」


 助かった……。

 前世の記憶でヘイゼルの所有品を知っていたから、一か八かで適当なことを言ってみたけど、なんとかなったようだ。


 私の言葉を信じたヘイゼルは、スタスタと歩き始め鏡台に向かう。


「どこにしまったかな~」

 と呟きながら、大きな木箱のアクセサリーケースの中を探している。


「ちゃんとありましたわ」


 そう言ったヘイゼルは、ブローチを私の元まで持ってきて、優しく手のひらに置いた。


「これですわ」

「あ、ありがとう」


「お姉様ってば遠慮しないでくださいね。何かあればいつでも言ってください」


 にっこりと笑うヘイゼルが顔を傾けると、しなやかな金髪がふわりと揺れた。

 さながらゲームのヒロインらしい愛嬌だ。


 こうしてヒロインが2人並んでいるのだから、バグが起きている世界なのは間違いない。


 だけど素直なこの子が、私を陥れる最悪なキャラなのか……?


 一見、性悪な印象なんて、これっぽっちも感じさせない。

 裏の顔を隠しているのなら、相当に面倒な存在ね。最悪だ。


 形式ばかりの微笑みを返した私は、部屋を出るため扉へ向かう。


 背中に彼女の視線を感じる。これはチャンスね。

 せっかくだから試してみるか。

 部屋を出る直前に、不意打ちでぐるんと振り返ってみた。


 そうすればヘイゼルの笑顔はすでに消え去り、私を睨んでいるではないか。


 はいビンゴ!

 私が初期設定で作った、かわいいキャラクターではないことは確か。


「あれ? ヘイゼルは今、何か言わなかった?」


「いいえ、何も言ってませんわ。だけど時間が迫ってきましたから、お姉様も早く出発なさった方がよろしいですわよ」


「そうね、急いで準備するわ」

 当たり障りのない会話を交わし、ピンクや白を基調とした、愛らしい家具が揃った部屋をあとにした。


 ◇◇◇


 自室へ戻り、胸の位置にブローチを着けた私は、深いため息をつく。


『従属の媚薬』は、私のためのアイテムなのに、手に入らなかった。


 ヘイゼルが誰かに従属の秘薬を使っているとすれば、厄介ね。


 あの子に殺されるわけにはいかないから!

 そう意気込むが、できることは思いつかないため、パレードへ向かおうとした、そのときだ──!


 頭の中で「ピロン」という音が聞こえたと思えば、ゲームウィンドウが浮かんできた。


【イベント発生! 彼に自分の存在を印象づけよう(※成功アイテムあり)】


 忘れかけていたが、私には絶対に攻略できない王子との婚約を目指すゲームだった。


 私なんかがギルバート殿下と結ばれないのは、重々承知だけど、行ってみるしかないわね。


 ◇◇◇



お読みいただきありがとうございます。

少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。

皆さんから届く気持ちが、投稿と執筆活動の励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ