13-1 官僚試験
ギルバート殿下が私の手元を見て顔を歪める。
何に驚かれているのかわからないが、私が読んでいた本は、部外者閲覧禁止の蔵書だったのかもしれない。
そんな焦りが募るも、あとの祭りだ。
書いていることを粗々読み終えた今ごろ、処罰に問われてもかなわない。
誰でも見られるところに保管しないで欲しいと思うが、先手必勝で謝ろうとしたとき、彼の目尻が優しく下がった。
「アンドレアには、かなわないな」
「……ぇ? といいますと……」
ギルバート殿下の真意がわからず、首を傾げる。
「毎回、私の想像を超える姿を見せてくれるんだから、一緒にいれば飽きる暇がないな」
「本を読みながら、おかしな独り言でも言ってましたか?」
「ははは、そうきたか。それは謙遜か? 独り言の内容は聞き取れなかったが、アンドレアは帝国語まで読めるんだな」
「そちらの話でしたか」
彼に合わせて、私もはははと小さく笑う。
全く違う心配をして、彼の視界から隠すようにしていた本を、私と彼の間に表紙が見えるように動かした。
そうして自分が持っている本をまじまじと見つめる。
これが帝国語で書かれていることを、今知った。
ギルバート殿下の態度から察するに、帝国語を読めることは、ダルクート王国では珍しいのだろう。
だが私にとってはダルクートの言語だろうが、諸外国の言葉だろうが、読めないことには変わらないのだ。
全て私の手首に嵌る魔道具のおかげで、あなたからいただいたものですけど……と思いながら彼を見つめる。
「もしもアンドレアが官僚になれば、毎日会えるのか。それは嬉しいな。だから受かれよ。ここまで期待させて落ちたら許さんぞ」
にこっと笑うギルバート殿下が、脅しのように言ってきた。
なるほど。
帝国語を読める人材は貴重なのだろうと、彼の言葉の意味を理解するが、試験の難易度についてはコンラートに脅されたほどだ。
期待に応えられるとは言い切れないため、弱々しい声が出る。
「ギルバート殿下……簡単に仰いますが、王城官僚試験は難しいと伺いましたわ」
「まあな。合格者の平均受験回数は4回と聞いたな」
「そこまで難しいのですか……」
「国家予算を扱ったり、諸外国との交渉に携わる仕事をしたりするわけだから、基準が厳しいからな」
「そうですか……」
と、肩を落とす。
「でもアンドレアなら大丈夫だろう。兄のコンラートは一度で合格していたからな」
「ははは、お兄様は別格ですから一緒にしないでください」
私のことを毛嫌いしている兄は、ギルバート殿下が一目おくほどに有能ということか。
屋敷にいる姿を見ていると、ヘイゼルに甘いせいで、いまいち有能さを感じられないから残念な存在だと感じてしまう私は、適当に愛想笑いをしておいた。
「私よりもコンラートに教えてもらう方がいいのだろうが、試験を受けると言うのなら、これは読んでおくといいさ」
そう言った彼が本棚から「これだろう」、「これもだな」と何冊もの本を選んで抱えていく。
彼が選んだ本は、1度手に取り読むのをやめたものだ。
私には難しいと思い、背表紙を見ただけで読むのを止めた本ばかりである。
自分に覚えきれるだろうかと弱気になるが、これくらいの知識を持っていないと、王城官僚にはなれない。
彼はそう言いたいのだろう。
「ギルバート殿下が勧めてくださった本は、隅々まで読み込みますわ」
「あんまり無理はするなよ」
「嫌です。無理はします。ここで頑張らないと、ギルバート殿下のお側にいられないので、絶対に合格したいんです。だから読むべきだと思う本は全て教えてください」
「……アンドレア、本当に私の想像以上のことを言うな。今勧めた本だって、難しいのがわかっているだろうに」
そう言った彼は手の甲を鼻先に当て、照れた表情を見せている。
「ギルバート殿下……?」
しばらく固まって動かない彼を急かすように声をかけた。
「悪い。アンドレアが官僚になったときに、どこへ配置しようか考えていたんだ。他にも目を通すべき蔵書が置いてある部屋に案内するか」
彼がそう言った直後、ピロンという音と同時にゲームウィンドウが開いた。
【イベント成功! 報酬の極秘情報を入手】
あれ? 成功報酬⁉
そうか。私が帝国語を読めることに、彼は感心していたからか。
帝国語が読み書きできるのは、私の実力ではないため、少し狡い気がして、神妙な顔をしてしまう。
「迷惑だったろうか?」
「いいえ、そんなことはありません。ギルバート殿下に教えていただいた本は、必ず読み込んでおきますね」
図書室の奥へと歩みを進めると、これまでと系統の違う、重々しい本が並べられた空間があった。
彼に案内されなければ、入室してよいのか判断に迷う部屋だ。
「この棚の一番上の段だけでいいから目を通しておくといい。禁書ばかりで持ち出しができないから大変だろうが、大事な知識しか載ってない」
「とりあえず、試験に合格できるように頑張ります」
「ああ、応援してるよ」
口角を上げる彼は、公務へと戻っていった。
◇◇◇
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