12-1 2人目のヒロイン
「官僚試験を受けるだと‼︎」
目を見開くコンラートが大きな声を上げたが、堅物の彼ならそんな反応をするだろうと知っていたため、そのテンションにのまれることなく、ひょうひょうと答えた。
「はい、そのつもりですわ」
「私が伝えたことをお前は理解していないのか⁉」
「確か、誰でも受験できる試験だと仰っていましたよね」
しれっと言い返すと、怒りの形相に拍車がかかった。
「100人受けて、1人も受からないときだってあるんだ。受験基準にいたっていないような成績をとられては我が家の恥だ! 絶対にやめるんだ!」
コンラートは王城官僚の一人だし、冷やかしで受験する身内がいるのは死活問題なのだろう。
その気持ちは理解できなくもないが、私は合格するつもりでいるから挑戦するのだ。
反応するのが面倒に思え、パンをちぎっていれば、コンラートが続けた。
「お前が合格するわけがないからやめておけ」
「やってみないと結果はわかりませんわ」
「お前には無理に決まってる!」
勝手に言っていればいいわと白けた私は、反論を止めた。
すると、眉根を下げおろおろするヘイゼルが、コンラートをなだめ始める。
「お兄様、落ち着いてください」
「まともな教育も受けてきていない人間が王城官僚になれると思っているんだ。許せるわけがないだろう。そんな馬鹿なことを許可してしまえば、我が家の評価が下がるだけだ」
「お姉様だって自信がおありだから受験するのでしょう」
微笑んでそう言った。
こうして見ていれば、ヘイゼルの裏の性格なんて、ちっともわからないわね。
前世でゲームのエンドロールを観ていなければ、危なく信用するところだった。
アンドレアの存在を心底毛嫌いしているくせに、毛ほどその本性を見せてこない。
どうせヘイゼルも、私が合格するはずないと思っているくせに、笑顔でよく言えたものだと感心する。
妹が説得しようとも、同調しないコンラートが反論した。
「アンドレアは何も知らないから、受験するなど無謀なことを言えるんだ。私の立場も考えろ!」
その言葉を聞いたヘイゼルが私の手首をまじまじと見つめている。
何かしらと思い自分でも確認すれば、翻訳ブレスレットを嵌めたままだった。
それもそうだ。ここに来る直前まで本を読んでいたのだから。
「確かに……。お姉様……その子どもじみたブレスレットは、バークリー伯爵家の品位を落としかねないですから、着けるのをおやめになった方がよろしいですわよ」
本当だ。これが貴族の価値観なのか。
お祭りで売られているようなブレスレットについて、ギルバート殿下が懸念していたとおりのことを言い出した。
それがおかしく思えて、ふふふと笑いながら告げた。
「このブレスレットは、ギルバート殿下が私に買ってくださったのよ。ですから外すつもりはございませんわ」
「え……?」
理解の追いつかないヘイゼルが、小さく口を開けて固まった。
一方で、私の言葉を間に受けないコンラートが食いついた。
「ギルバート殿下がお前に贈り物なんてするはずないだろう」
「嘘とお思いでしたら、直接殿下に確認ください。ですが、偶然殿下が頬にお怪我されたところに出くわして、私の持っていたハンカチを差し上げたんですの。安物にお礼をしたいなんて殿下仰るから、その場で見つけたブレスレットを買っていただいたのですわ」
「お姉様、それって本当ですか⁉︎ ギルバート殿下は、そのとき私の話をなさっていませんでしたか?」
照れくさそうに確認しているヘイゼルだが、ご愁傷様。どういうわけか、身代わりのネックレスを贈ったくせに、何も言っていない。
「ヘイゼルのことは何も仰っていなかったわね」
「なーんだ。お姉様ってば、ギルバート殿下にお会いしたなんて安易に口にすると、不敬罪になりますわよ」
くすくすと笑われた。
「本当ですわよ。一緒に露店街を歩いて、殿下の馬車で送っていただきましたもの。昔、自分の石を捨てられたと、嘆いておられましたわね」
その話を聞いて、青くなったのはコンラートだ。
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