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2 ゲームのお助けアイテム

 

 ワンピースを2つに引き裂くと、握った両手同時に開く。


 そうすれば2つの布が揺れながら落ち、パサリという小さな音を立て床に広がった。


 お嬢様とはいえ、アンドレアは肩身の狭い私生児のはず。

 受け取った服を破くなんて、とんでもないご乱心だろう。

 今までのアンドレアであれば、絶対にしないわね。


 私の変貌っぷりに理解が追いつかないメイドは、汗を流して私を見てくる。


 くだらない。焦るくらいならやらなきゃいいのに。


 こちらは命がかかっているのだ。

 しょうもないお遊びに付き合っている暇はない。


 2度目はないからと威圧すべく、メイドを睨みつけた。

 そうすれば彼女は数歩後退していく。


 ギルバート第1王子の凱旋パレードから、乙女ゲームは始まる。


 そう……。

 ゲームのアンドレアが凱旋パレードで着用するワンピースは、緑色だ。


 今渡されたものとは違う。


 それに妹のヘイゼルが、こんな安物のワンピースを着ているわけがない。

 この服を用意したのは、このメイドだろう。


 私が粗末な服で凱旋パレードに参加したことを、バークリー伯爵家の人間に見つかれば、こっぴどく叱られるはず。


 このメイドは、隠れて泣く私を見て楽しむつもりでいたのかもしれない。


 このメイドの思いどおりになんか、してやるものか。

 許す気のない私は、冷たい言葉を投げ捨てた。


「嘘ね」

「え、あ……めっ滅相もない……嘘など申しておりません」


 おろおろと否定する彼女の言葉を遮り、ぴしゃりと言った。


「こんな安物のワンピースを伯爵家の人間が着るわけないわ。あなたが伯爵から受け取った本物の服を出しなさい」


「そ、そのようなものはございません」


「そう。じゃあ結構よ。お父様が以前仰っていた緑色のワンピースを、私が直接受け取って来るわね」


 流し目で見つめると、真っ青になったメイドは深々と頭を下げると、震えた声を出す。


「た、大変申し訳ございません。つい出来心でこのような真似をしてしまいました。どうかお許しください。すぐにアンドレアお嬢様のワンピースをお持ちいたします」


「許すかどうかは、今後のあなた次第ね」


 そのあとで、本来のワンピースを違うメイドが運んできたため、彼女に身支度を整えてもらった。


 ◇◇◇


 部屋にある大きな窓の外から、王城のファンファーレが聞こえてきた。


 今日は予定通り、帰城パレードを行うから参集せよという合図だ。


 そのファンファーレを聞いた直後、頭の中にゲームウィンドウが浮かぶ。


【冷酷王子の烙印 ゲームスタート】

 今からメインストーリーに突入したのか。


 まったく嫌になるわね。


 アンドレアが逃げ出した屋敷で、ハードモードのヒロインとして暮らしていくのか……。


 相当に分が悪い状況だが、私は死にたくない。

 処刑なんてまっぴらごめんだ。


 殺されない道をなんとしても見つけ出してやる。


 そう思う私は部屋を出て、ヘイゼルの私室へ向かった。


 おそらく伯爵家の人間たちは、殿下を迎え入れるため城に向かっているはず。


 なんといっても私は、このゲームの制作者だ。

 バグが起きたとはいえ、このゲームを誰よりも熟知している。それだけが唯一の救いか。


 ハードモードのときだけ『入室ボーナスアイテム』がある。


 屋敷になじめず悲嘆したアンドレアが、亡くなったヘイゼルの部屋に入ったときにゲットできる、お助けアイテム。


 これがないと、そもそも次に進めない重要なアイテムともいえる。


 本来なら空き部屋だが、今は妹のヘイゼルが使っている部屋だろう。


 無断侵入に気が引ける私は、目的の本棚へと一直線に向かう。

 アイテムは本にまぎれて隠されているため、記憶にある青い本型の箱を探す。


「あったわ。ここはゲームどおりね」


 私の頭の中にはアイテムの取得を祝福するかのように紙吹雪が舞うゲームウィンドウが現れた。


【従属の秘薬をゲットしたよ。※ただし、攻略キャラには使えないよ】


 やったわねと思う私は、期待を高めながら箱を開いた──。

 それなのに中身は空っぽだ!

「はぁ! どういうこと⁉」


 これはハードモードのヒロインが使えるように用意したものなのに、なぜか空瓶だけで薬が入っていない。


「待って……」

 そう呟いた私の背筋が凍る。

 秘薬が入っていないってことは、すでに誰かに使われたのかもしれない。


 そう確信させる理由は、瓶に文字が書かれているからだ。

 私にはまるで読めない言葉だが、この国の人間なら理解できるはず。


 おそらくこの文面は、ゲームウィンドウと同じ言葉だろう。それなら使用された理由に説明がつく。


 最悪だ……。


 言葉を失った私は、しばしの間、固まってしまったがヘイゼルの部屋に長居は無用だ。

 手に取った箱を急いで元の位置に戻した直後──。


 カチャッと、ドアノブを回す音が聞こえたかと思えば、部屋の扉がゆっくりと開く。


 え……嘘でしょう! 誰か入ってきたというのか⁉


 踏んだり蹴ったりとはまさにこういう状況だ。

 アイテムはゲットできず、妹の部屋に不法侵入しているところを見つかるなんて……。


 バクバクと騒ぎ狂う心臓の音が、すでに処刑に向かっている予感を加速する。


 ゲーム開始早々、とんだ窮地じゃない‼


お読みいただきありがとうございます!!

窮地続きのアンドレアがこの先どうなるのか、ぜひとも応援をお願いします。

ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると、単純な作者は小躍りして喜びます。

何卒、よろしくお願いします。

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