表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/46

10-1 翻訳ブレスレット

 周囲の音が聞こえないくらい、自分の心臓の音が耳に響く。


 動くなという言葉をただ信じた私は、次に感じるのが激痛ならば、何も考えずに身を委ねた私が悪い。

 そう腹を括り、ぎゅっと瞑る瞼に一層力を入れた。


 そうすると、心地よい温かさに包まれ、海を思わせる爽やかな香りが鼻腔をつく。


 動揺の中で目を開けば、たくましいい腕の中で体が宙に舞っていた。


 前世の記憶でも、一度も経験したことのない横抱きをされている。

 それも眉目秀麗の王子の腕で……。

 夢……じゃないわよね……。


 ああああぁあぁぁ──‼︎

 どういうこと⁉︎ この状況は!


 ギルバート殿下に近づきたいとは思っていたけど、密着しようとは考えていない。パニックを起こし、身をよじると、彼がボソッと呟く。


「危ないから動くな」

「……ぁ」

 てっきり最高潮だと思っていた心拍だが、もう一段上のレベルがあったらしく、全身がドクドクと煩い。


 きっと今の私の顔は、とんでもなく真っ赤になっているはず。


 前世では、周囲がドン引きするくらい、彼について語っていた私だ。いろんな意味で愛おしい彼が目の前にいる。

 緊張と嬉しさで、どんな顔をしていいのか、わからなくなってきた。


 どこかのタイミングで地面に着地したはずなのに、少しの衝撃も感じなかったのは、彼が全て吸収してくれたからだろう。


 温もりに包まれたまま、ギルバート殿下と目が合う。

 口を小さく開いた私は、何か伝えようとしているのに、体が追いつかない。


 それまで感じていた恐怖と、このシチュエーションにドギマギしてしまい、喉の奥で張り付いた声を出す。


「あっ……ありがとうございます」


「間に合って良かった。痛いところはないか?」

「ギルバート殿下のおかげで、どこも……」


 それを聞いた彼が安堵の息を漏らすと、彼の額が私のおでこにコツンと触れる。


 一瞬、彼は本気で私を心配してくれたかと思ったが、そうではないようだ。ゲームにある言葉を口にした。


「私に心配をかけさせるな。寿命が縮んだかと思っただろう」

「殿下が私を心配してくださるなんて」

「まだまだ伯爵令嬢のことを知りたいからな」


 なるほど。攻略キャラとヒロインの関係は、出会いのイベントに失敗しても健在のようだ。


 あなたは王族で、私は偽りの伯爵令嬢だから…結ばれることはない。

 それはわかっているけど、少しの間だけ夢を見てもいいだろうか。


 もう少しこのままでいたい。そんな欲もあるが、自分の感情を押し殺し彼に伝えた。


「あの~」

「なんだ?」

「恥ずかしいので、そろそろ下ろしてくれませんか?」


「あ~、悪い悪い」


 そう言った彼の丁寧な動きに合わせ、ゆっくりと地面に足を着ける。


 好感度を上げていないのに、不思議だ。


 前回よりも、ギルバート殿下が優しい気がする。


 そんなことを考えていれば、彼の右頬にできた一直線の切り傷から、じわりと血がにじむ。


「も、申し訳ございません。私のせいでギルバート殿下の顔にお怪我が……」


「鎖がかすっただけだ。大したことはないから気にするな」

 途中で私が動いたからだろう。申し訳ない……。

 幸い、見せるには忍びないハンカチなら持っている。


 赤く伝う血を見て、慌ててハンカチを取り出すと、彼の頬に優しく触れた。


「そんなことをしては、バークリー伯爵令嬢のハンカチが汚れるだろう」

 彼が申し訳なさげに目を見開いた。


「汚れても構いませんよ」

「だが……」


「これは、私が練習用に刺繍したハンカチですから、このまま捨てるだけですし」

「へぇー」

 それを聞いた彼は、企んだような笑みを見せる。


 粗末なものを彼の顔に当てたことを怒っているのかしら?

 そう思った次の瞬間──。

 彼が私からハンカチを取り上げるように奪っていったかと思えば、ひらりと広げた。


「ははは、確かに子どもみたいに酷い刺繍だな」

 愉快なものを見つけたと喜ぶ彼が、声に出して笑う。


 馬鹿にされるくらいなら、使わなければよかったと感じた私は、拗ねるように言い訳をした。


「もう……。仕方ないじゃないですか。それは私が初めて刺繍したハンカチですから」


 それを聞いたギルバート殿下が真顔になると、少し照れたように刺繍に目をやり、伝えた言葉を繰り返した。


「これは……そなたが初めて刺繍したものなのか」

 未だ、ハンカチを見つめている。


「そうです。不器用なのでうまくできなくて。恥ずかしいので、返してくださいませんか」

 そう言って、手を出した。


お読みいただきありがとうございます。

お礼が遅れましたが、ブックマーク登録、星での応援、いいねを送ってくださり、ありがとうございます!

皆さまが思っている以上に、作家にとっては栄養で励みになります。

また、手を止めてくださり誤字報告を送っていただき、ありがとうございます!

毎日投稿するのは根気作業ですので、ちまちま作業を続けていますが、今後もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ