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8-1 彼に近づくチャンス

 拗ねたように口を尖らすヘイゼルが、まったりとした話し方をする。


「ギルバート殿下と一緒にいられるなら、私だって挑戦してみたいですけど、お兄様と違って私では合格なんて無理ですわ」


「合格者の平均受験回数は4回と言われているし、試験の感覚を掴むために、試しに受けてみたらいいだろう」


「酷いですわ。私はお兄様のように秀才ではありませんから、たとえ5回受験しても、受かる気がしませんわ」


 カチャンという音がヘイゼルの手元で鳴り、皿にカトラリーが八の字に置かれていた。


 その皿には、最後にとっていたと思しきトマトが残っている。

 コンラートは冗談で言ったのだろうが、間に受けて肩を落とすヘイゼルを見て、彼が動揺する。


「悪かった。冗談だ。王城官僚試験なんてヘイゼルは受ける必要もないんだし、気にするなよ」


 その言葉にヘイゼルが反応するより先に、横から会話を遮った。


「あの~、聞いてもいいですか」

 この場の空気を読まない言動に腹を立てたコンラートが睨んでくる。


 とはいえ無視はされず、ボソッと低い声がした。

「何が聞きたい」


「その王城官僚試験というのは、私も受験してよいものですか?」


「は? 何を言ってる」


「ですから、推薦状が必要ですか?」


「それはどういう意味だ?」

 どすの効いた声が返ってきた。


 眉間に皺を寄せるコンラートは、私の言葉を十分理解しているうえで、言い返しているようだ。

 私の口から決定的な一言を言わせない、という防衛心が丸わかりである。


「王城官僚試験を受けてみたいので、確認してみたんです」


「お前は今の会話を聞いていなかったのか? 試験を受けたいと望むものなら誰でも受験できるが、合格者がゼロの年もあるくらい、難しい試験なんだ」


「まぁ! 合格できたら嬉しい話ですね」


「受かるわけがないだろう」


「ですが、誰でも受験できるなら、私にもチャンスがあるということですね。考えておきます」


 淡々と答えると、睨みつけてくるコンラートがムキになる。


「恥ずかしい点数を取られては、我が家の恥になるからやめておけ」


「そうですか。善処いたしますわ」


 涼しい顔で答えると、食事を終えた私はナプキンで口元を拭う。


「ごちそうさまでした。私は部屋に戻ります。おやすみなさいませ」

 俄然やる気が出てきた私は、彼らの反応を見る前に席をたった。


 ◇◇◇


 翌朝、目を覚ますと頭の中でピロンという音が鳴った。


 またかという疲労半分と、やる気半分の私は、見慣れてきたゲームウィンドウに意識を集中する。


【令嬢度を上げて自分をアピールしよう】


 はぁ……と、力ない息が漏れる。


「随分と簡単に言ってくれるわね。どうやったら令嬢になれるのよ。わからないからゲームオーバーを繰り返していたのに……」


 ぼやく私は打つ手なしだが、待てよ。

 最高の味方がいる……。


 ゲームでは既に存在しないエルナが、今回に限って侍女になっているのだ。

 これは絶好のチャンスのような気がして、部屋の扉を凝視する。



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