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7-2 成功報酬の行方(※ギルバート殿下視点含む)

 すっかり陽が沈んだというのに、未だ、早とちりで私を呼びにきたことを引きずっているエルナが、部屋に来た。食事の時間らしい。


 当然、私一人で食堂へ行けると考えていたエルナに、しゅんとした仕草で一緒についてきてと頼めば、丁寧に案内してくれた。


 たった半日足らずで屋敷の状況を把握しているなんて、さすがエルナだ。


 有能な侍女を見つけたことだけは、自分を褒めてあげられそうである。


 ほぉぅっと一息吐いてから、開いてもらった扉の先へと進む。

 なんだ。まだ誰もいない。

 今の緊張を返してくれと思う私は、エルナに引かれた椅子に腰掛け、他の家族が来るのを待つ。


 そうすればすぐに、ギルバート殿下から受け取ったネックレスを、これ見よがしに着けているヘイゼルがやって来た。


「殿下からいただいたネックレスですが、似合っていますか……?」


「ええ、ヘイゼルの金色の髪と、瞳の青を合わせたような緑が、あなたにぴったりだと思うわ」


 私としては皮肉っぽく言ったつもりだが、間に受けたヘイゼルは、頬に手を当てふふふと笑った。


 たぶん今の反応が、本来の彼女の姿だろう。

 17歳のヘイゼルは優しくて、愛らしい子だったから。

 性悪な性格がわかりにくくて、本当に質が悪い。


 身代わりのネックレスから目を逸らせば、兄のコンラートが入ってきた。

 22歳の知能派の長男は、王城で官僚として働いているはずだ。


 最後にバークリー伯爵が食卓に着き、家族全員揃った。

 バークリー伯爵は、私とヘイゼルの実の父親だ。


『冷酷王子の烙印』で、アンドレアがどうしてハードモードかというと、私は貴族籍に入っていないからだ。


 前世の私は、伯爵を「狸おやじ」と呼んでいたが……相当な曲者である。

 屋敷の人間には、実の子を自分の籍に入れたと伝えているが、実際はそうではない。


 対外的にそう見せているだけで、戸籍の正式な届け出はしていないまま。それがハードモードの由来である。


 ハードモードのヒロインだけに存在する試練が、伯爵を説得して貴族籍に入ること。


 貴族になれなければ、平民との結婚が認められない殿下は攻略できない。

 挙句、子どもを自分の籍に入れられる期限は、18歳の成人を迎えるまで。私には3か月しか猶予がない。


 そう……。

 ギルバート殿下との距離が縮まったあとに、籍に入れてくれと頼んでも、タイムオーバーなのだ。


 母親とそっくりな私のことを、自分の妾にするつもりでいる伯爵に頼んだところで、簡単に伯爵令嬢になれるわけがない。


 我ながら、めんどうなゲームを作ってしまったものだと、今さらになって反省する。


 食事が運ばれてきた直後、コンラートがヘイゼルにサラダを差し出した。


「ヘイゼルはトマトが好きだから、俺の分も食べていいぞ」


「まあ、嬉しいですわ」


 遠慮なく彼女はそれを受け取り、頬張っている。

 随分と微笑ましい光景だ。


 コンラートはヘイゼルと随分仲がいいようで、私へ向ける態度とは大違いである。まあ当然だろうけど。


 2人の関係を冷ややかに観察していれば、ヘイゼルとコンラートの会話が盛り上がっていく。


「お兄様はこれから頻回にギルバート殿下と会えるのね。羨ましいわ」


「ははは、そんなことを言うなら、王城官僚試験を受けるといいだろう。これから出願を受けつけるころだし」


 それを聞いたヘイゼルが、ぷぅっと頬を膨らます。

 その意味はわからないが、続きを聞き漏らさないよう耳をそばだてる。


 王城官僚試験……?

 ゲームではそんな設定まで作っていなかったけど、これはチャンスかもしれないと感じる私の胸が、ドキンと大きく跳ねた。


 ◇◇◇

(SIDE ギルバート殿下)


 側近のルシオが私の部屋を訪ねてきたため、先ほどから気になって仕方ないことを確認した。


「バークリー伯爵令嬢に、ネックレスを届けてくれたか?」


「ええ、使者に頼んで届けさせました」


「それはよかった。侍女にだけネックレスを渡したままでは、かわいそうだからな」

 今ごろどんな反応をしているだろうかと、彼女の顔を想像する。

 予想外の反応を示す彼女は、怒っていないだろうかと、不安にもなるが。大丈夫だろう。

 

「戦場から戻って来て、いの一番に依頼する仕事が、ご令嬢へのプレゼントなんて。殿下もやっと女性に関心を持つようになったんですね」

 私の性格を熟知しているルシオが、ニヤニヤしながら茶化してくる。


「別に深い意味はないんだが……」

 パレードのナイフの一件は、相当強引な形で不問にした出来事だ。

 あまり知られたくない気持ちが勝り、うやむやな返答でごまかした。


 バークリー伯爵令嬢か──。


 あのタイミングでナイフを握っていた夫人が、何も企んでいない。

 そんな言葉を信じるわけがないだろう。


 ましてや3週間前に夫を亡くしたばかりで、すでに伯爵家の従者として働いていることにも無理があるというのに、彼女は堂々と私を騙してきたのだから。


 私に怯まず言い返してくる令嬢は、初めて見たな。


「殿下は何を笑っているんですか?」

「彼女からどんな反応が返ってくるか、楽しみだなと考えていたんだよ」


 彼女が機転を利かせてルース夫人を止めてくれたおかげで無益な処刑が回避できたのだ。

 彼女には、プレゼントの意味が伝わるだろう。


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