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6-2 イベントの成功報酬

 自分がもたらした情報に自信を持っているエルナが、この状況を不審がる私に力説を始めた。


「怪しい商人ではありませんよ! 王城の遣いが小さい箱を持って来ているので、きっとあれはアクセサリーですよ。このタイミングですし、アンドレアお嬢様への贈り物で間違いないと思います!」


 それを聞いた私が想像したのは、ただ1つ。

 イベントの成功報酬である『身代わりのペンダント』だ。


 届くタイミングもドンピシャでゲームと合致している。

 諦めていたというのに、こんなこともあるのかしらと、感動で震える。


「さあさあ行きましょう」

 興奮気味のエルナが、動揺で固まる私の腕を引く。


「どうして私に贈り物が届いているのかしら」


「アンドレアお嬢様のことが、よほど気に入ったのでしょうね。ギルバート殿下は王家主催の場所しか顔を出しませんから、何か受け取った令嬢なんて聞いたことがありませんわ」


「そうだと凄く嬉しいわ」


 浮かれ気味のエルナと期待の高まった私がエントランスへ到着すると、身なりの良い高齢男性が1人で立っていた。ゲームどおりの王城の使者だ。


 彼は私たちの姿を確認するや否や、丁寧な会釈をしてきた。これは間違いない。


 エルナの興奮が私にまで伝播してきた。

 その昂る感情を必死にこらえ、冷静に声をかける。


「私に届け物があると伺いましたが、何かしら?」


「ギルバート殿下からの贈り物です。直接お渡しするよう厳命を受けておりますため、わざわざ足を運ばせてしまい申し訳ございません」


「それは気にしないでちょうだい」


「では、こちらがヘイゼルお嬢様へお渡しするよう仰せつかっている品です。お納めください」


「ヘイゼル……?」

 妹の名前が飛び出し、その場が瞬時に凍り付く。


 嘘……。

 攻略対象からのプレゼントが、ヘイゼルに届いたなんて、信じられない。


 それまでの笑顔が掻き消え真顔に変わる。

 どうしていいか困惑し、エルナに受け取ってもらおうと考えた私は、ちらりと横を向く。


 そうすればエルナと目が合い、彼女も真っ青になって、こちらを見ていた。


 絶句する私たちの背後から、軽やかな声が響く。私たちの心情を逆なでするような、楽しそうで、愛らしい声だ。


「今、私の名前が聞こえたのですが、何かありましたか?」


「ああこれは失礼いたしました。あなた様がヘイゼルお嬢様でしたか」

 穏やかな使者がヘイゼルに姿勢を正すと、改めてヘイゼルの名前を口にした。


「どうかしましたか……」

 我々の会話の冒頭を聞いていなかったのだろう。状況を理解していないヘイゼルが、きょとんと返す。


「こちらの品は、ギルバート殿下から預かってきたものでございます。何卒お納めください」


 そう告げると、恭しく両腕を前に出し、金色のリボンが巻かれた小さな箱をヘイゼルに差し出す。


 そうすればこの場の空気が一瞬で華やいだ。

 プレゼントに歓喜し、満面の笑みを見せるヘイゼルが、弾んだ声を出した。


「私宛にギルバート殿下からのプレゼントですか⁉ これはなんて素晴らしいことでしょう。嬉しいですわ」


 小さな箱を握りしめたヘイゼルが、私たちの方を向いて言った。


 はぁ? どうして攻略キャラからのプレゼントが、ヘイゼルに届いたのだ? 納得がいかない。


 成功報酬はキャラの好感度が上がったときにもらえるものだ。

 私の知らぬ間に、ヘイゼルはイベントに参加していたのか?


 もう1つのイベント会場である、城門にいたというのか?

 いや、それはない。


 父親と兄と一緒に帰ってきたヘイゼルは、城の中にいたはずだ。


 言葉を失った私は、口唇をぎゅっと結ぶ。悔しい。


 その感情がヘイゼルに伝わったのか?

 使者から箱を受け取ったヘイゼルは、私の元にやってきて、自慢げに中を見せようとしている。


 ひたすら感情を押し殺し、静かにただヘイゼルの手の中を見ていれば、ひゅっと冷たい息を吸い込んだ。



お読みくださりありがとうございます。

せっかく届いた報酬が、まさかのヘイゼル行き……⁉

引き続き、この先をお楽しみいただけると嬉しいです。

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