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「エミリア様の病状を耳にしたので心配しておりましたの」
「エミリアの病状ですか?」
「普段は車いすを利用し、淑女教育も終えられない程だと。そうとは知らず、お茶会に招待してほしいと手紙を頂いたので招待してしまいました」
「エミリアの方からお茶会の招待を願ったのですか? 」
「はい。今までは体調不良を理由にお茶会に参加出来なかったので、是非参加させていただけないかと手紙を頂いたので」
高位貴族にお茶会に招待するよう強請るなんて……
「それは大変失礼な行為を。妹が申し訳ありませんでした」
「いえ。病弱でお茶会に参加できない過去があると聞いていましたし、頂いた手紙の内容にも『健康的なお姉様がお茶会に向かう姿を部屋から眺めていた』という文面もあり招待いたしました。少々の無作法もありましたが、楽しそうにする姿に目を瞑っておりました」
自身が病弱であるのと、私を貶す言葉を認めていたエミリア。
もしかしたら、エミリアのお茶会が解禁されてから私への招待が減少したのはそれが関係しているのかもしれない。
目を瞑るということは、エミリアは度重なる粗相をしていたらしい。
「エミリアの不手際を寛大に受け止めて頂き、ありがとうございます」
「いえ。パーティーでの様子からこれからは淑女教育を中心に生活された方がよろしいかと思い、今後はお茶会の招待を控えさせていただこうと思いますの」
「配慮までして頂き、なんと言ったらいいか……」
「エミリア様が淑女教育を終えられるのをお待ちしておりますとお伝えください」
「ありがとうございます。ポーリック公爵令嬢のお言葉は、エミリアの励みになると思います」
エミリアがお茶会に招待されなくなったのは令嬢達の配慮。
お茶会を終え、本日のお茶会での会話をエミリアに告げる。
「エミリア、今日ポーリック公爵令嬢にお会いしたの」
「どうしてお姉様が? 」
エミリアは私がポーリックのお茶会に招待された事が気に入らない様子。
「エミリアの体調を心配していたわ」
「公爵令嬢が私の体調を?」
「回復傾向にあるのであれば、淑女教育を優先すべきと判断しお茶会の誘いは今後は控えるそうよ」
「招待を控える? お姉様が何か仰ったのではありませんか? 」
「私は何も話していないわ。皆さんエミリアの事を気に掛けてくれていたのよ」
「気に掛けて、とは? 」
「今までは、病弱ということであらゆる粗相に目を瞑っていたけど、王族主催のパーティーでダンスが出来る程回復したのであれば淑女教育を優先するべきだと」
「……ポーリック公爵令嬢がですか? 」
「えぇ。令嬢だけでなく本日お茶会に招待されていた方皆さん、エミリアを心配してくれていたわ」
「皆さん……」
「エミリアが淑女教育を終えるのを待ってくれているわ」
淑女教育から逃げていた影響が出始めている。
不機嫌になるもエミリアは黙って部屋へ戻って行った。
「これから真面目に淑女教育を受けてくれたらいいけど……」
あれからサルヴィーノは私ではなくエミリアに直接会うようになった。
そのおかげもあり、エミリアは静かに過ごしている……
「お姉様っ、私がお茶会に参加できないのにお茶会を主催するだなんて……どうしてそんなに意地悪なのですか? 」
人生で初めて、私の名前でお茶会を主催した。
それを、開始早々エミリアが乱入。
淑女教育と自身が何処からもお茶会の招待状が届かないことにストレスが溜まっていたエミリア。
「エミリア、落ち着いて」
「私は落ち着いてます」
「貴方は今の時間、家庭教師の時間でしょ? どうしてここにいるの? 」
「授業に集中できない程騒がしいのを注意しに来ただけです」
「騒がしいって、まだお茶会は始まってもいないのに? それに、ここからエミリアの部屋までかなりの距離よ。声が届くはずないわ」
「それでも聞こえたんです」
エミリアは授業を抜け出したか、授業さえ受けずに逃げていたか。
招待客も会話はしていたが、別の部屋に響くほど声を出した覚えはない。
貴族として恥じぬ振る舞いを心がけていた令嬢達にとって、淑女教育も終えていないエミリアに侮辱され矜持が許さない。
「エミリア、いい加減にしなさい。お客様に失礼でしょ」
「私はまだ、体調が万全でないんです。家庭教師からの授業を受けるのも辛い時だってあるんです。お茶会に参加も出来ず気分転換も我慢している私に……お姉様は見せつけるようにお茶会を開催するではありませんか」
「今回のお茶会は順番で開催してるもので、今日は私の番というだけよ」
「そうだとしても、私の事を思えば断るべきだったのでは? お姉様は自分勝手で、私が苦しむ事が好きなんですよね」
「そんな事するわけないでしょ」
「私が、お姉様の婚約者候補だったサルヴィーノ様と親しくしているのが気に入らず嫌がらせをしているのでしょ」
「サルヴィーノ様は最初からエミリアの婚約者よ。私の婚約者候補ではなかったわ」
「嘘ばかり。サルヴィーノ様から聞きましたよ。お姉様の婚約者候補として会う予定だったと」
「確かにグレディス伯爵と父が婚約の話をしていたのは事実よ。だけど、相手は私ではないわ」
「……サルヴィーノ様は、『相手はお姉様』だと」
「サルヴィーノ様が訪問された時、私が出掛けていたのは覚えてない? 」
「……お姉様は出掛けていたわ。その間、私がサルヴィーノ様と一緒にいたんですもの」
勝ち誇った様子のエミリア。
「それが答えよ」
「どういう意味? 」
「お父様は私が出掛けても止めなかったわ。サルヴィーノ様が私の婚約者候補として訪れたのであれば外出を止めたはず」
「……サルヴィーノ様は……私の……婚約者候補だったのですか?」
「お父様は、いつも私よりエミリアを優先していたわ。それはエミリアも知っているでしょ……」
私の言葉にエミリアは何も答えない。
「エミリア。冷静になったのなら、家庭教師がお待ちよ」
エミリアに付き添い退出させる。
その様子を招待客も見ていた。
「皆様、お騒がせ致しました」
「エミリア様は、とても追い込まれているようですね」
ミルーチェの言葉は嫌味にも取れるが、心配しているのは付き合いで分かるようになった。
「……そうなのです。遅れを取り戻そうと必死になるあまり焦っているんです。家族だけでなく、皆様にもご迷惑をかけるだなんて……申し訳ありません」
「アクリナ様が謝罪する事はありません」
「いえ。お客様に挨拶もなく気分を害するようなまねをして、謝罪もせず立ち去るなんて……淑女教育は当分終えられなそうです」
「……エミリア様がこの機会に学ばれれば、私達としても令嬢に今回の事を追及するような事はありませんよ」
「ありがとうございます」
私主催のお茶会は始まりこそ気まずい雰囲気だったが、その後は招待客の協力もあり無事に終えられた。
「アクリナお嬢様、旦那様がお話があるようで執務室へ来るようにと」
「はい」
父のいる執務室へ向かう。
「お父様」
「アクリナ、婚約の申し込みが届いた」
「……私にでしょうか? 」
申し込み……
今まで私に婚約の申し込みは無かった。
親しい令息もいないし、父が新たに事業を始めている動きもない。
思い当たるのは、予知夢での相手……
「あぁ。それで、婚約の相手としては問題ない。だが、もし婚約すればアクリナは相手へと嫁ぐことになる」
「……そうですか」
予知夢では父からシオニス侯爵に申し込んでいたが、あちらから申し込みがあったよう。
現実を変えようと動いても、結局は夢の通りになってしまった。
「最近エミリアも淑女教育を再開し、サルヴィーノ君とも関係が良好と聞く。アクリナが嫁ぎ、モンテジールはエミリアに任せてもいいと思っている」
エミリアを更生させる為に淑女教育を再開させ、婚約解消させられるくらいならと最初からサルヴィーノをエミリアに押し付けた。
私の行動を変えても、予知夢と同じ結果に向かう。
予知夢は単なる夢ではなく、私に必ず起こる未来だった。
「分かりました」
「婚約を受け入れてくれるんだな」
「はい」
「相手側に了承の返事をする。それと、グレディス伯爵家にもエミリアとの婚約の打診をする。いいな? 」
「……はい。構いません」
サルヴィーノとエミリアの婚約が纏まれば、後戻りはできない。
送り出されてしまえば、モンテジール家での私は価値がなくなるどころか邪魔でしかない。
だからと言って、この家族から解放されるわけではない。
いつまでも私はエミリアが幸せになる為の存在。
抗ってみたが、人生は決まっていた。
受け入れるしかない。
「エミリア。グレディス伯爵から手紙が届き、サルヴィーノ君との婚約が決定した」
「私とサルヴィーノ様のですか? 」
「あぁ」
「やったぁ。お父様ありがとうございます」
「エミリアの努力だ」
「そんなぁ。私は何もしてません」
「いや。家庭教師に再びお願いしたことで、あちらもエミリアとの婚約を了承してくれたよ」
「えっ……家庭教師ですか? 」
「あぁ。以前お茶会でのエミリアの振る舞いを伯爵も耳にしていたようで懸念していたそうだが、教育を再開した事実を伝えたところ了承してくれたよ」
「……そう……ですか」
「再開したばかりで手間取っているようだが、婚約も決まった事だ。更に精進しなさい」
「……はい」
エミリアはサルヴィーノと婚約が決定し喜ぶも、家庭教師の話になると途端に歯切れが悪くなる。
その後、正式に二人は婚約。
エミリアがモンテジール家を継ぐ事を発表。
我が家にサルヴィーノが婿入りする為、二人の婚約パーティーは我が家で開催。
『……招待状が届いているのに、私は参加できないの? 』
『どうして、私の席があれの隣なの? 』
『私、ワインは飲めないと伝えたはずよ』
婚約パーティーの総責任者はエミリア。
貴族達に家庭教師の成果を見せる為にも、私は一切関与せずエミリア一人で全てを取り仕切った。
その結果、参加者の管理から席順、招待客の好みの把握で失態を犯し、それ以外にも不手際が目立ち貴族達は始まる前から不満を露わに。
エミリア主催のパーティーは失態の連続、終始会場は不穏な空気。
そのパーティーにはグレディス夫妻も参加。
「本日は私、エミリア・モンテジールとサルヴィーノ・グレディスの婚約パーティーに参加していただき嬉しいわ」
サルヴィーノと私の両親はエミリアの犯す失態の謝罪に翻弄されているというのに、当の本人は周囲の様子を気にすることなく振る舞い続ける。
グレディス夫妻はエミリアを鋭い視線で追い掛けていた。
長い時間拘束されたパーティーが終わると、招待客は我先にと去って行く。
「サルヴィーノ様、今日は素敵な日でしたね」
サルヴィーノはエミリアのあまりの感想に言葉を失う。
エミリアの感想に誰もが苛立ちを滲ませる。
「エミリア、明日から家庭教師の授業の時間を増やす」
「お父様っ、急にどうしたのですか? 」
楽しい空気から一変、エミリアは突然の父の発言に困惑していた。
「今日のパーティーの感想が『素敵な日でした』などと良く言えたな」
「私の婚約発表が素敵じゃないはずないではありませんか。お父様、変よ」
「エミリア様、よろしいかな」
「グレディス伯爵様」
父には厳しくいわれたが、グレディス伯爵には褒めてもらえるとエミリアは期待した眼差しを向ける。
「私も、今回のパーティーは時期尚早だと感じました」
「……それはどういう意味ですか? 」
どうして皆が初めて全てを取り仕切ったパーティーを褒めてくれないのか、エミリアは理解できないでいた。
「家庭教師をつけられたそうですね。学ぶうちに今日と言う日のあなたの行動がどれ程のものだったか理解してくれることを願います」
グレディス伯爵は怒りを滲ませ、夫人は潤んだ瞳で首を振って去って行った。
「どういうことですか? サルヴィーノ様? 」
エミリアはグレディス伯爵が何を言っているのか分からないので、サルヴィーノに答えを求めた。
「……エミリア、これからは真面目に授業を受けるんだ」
「サルヴィーノ様まで幸せな気分だったのに、どうしてそんな事を言うの? 」
「……もういい、エミリア。今日はもう休みなさい。サルヴィーノ君、今後は我が家で当主補佐として学びエミリアを傍で支えてもらう」
エミリアには伝わらないと理解した父が折れ、話を終わらせる。
「……分かりました」
納得していないエミリア。
それぞれ自身が落ち着ける場所へ向かう。
「……疲れたパーティーだったわ……」
パーティー後、エミリアの家庭教師の授業時間は今までの倍に。
それでも伯爵家を受け継ぐ為に私が学んでいた時間より短い。
増えた授業数だが、病弱だった過去のあるエミリアを考慮して決められた。
散々なパーティーだったにも拘らず、両親はまだエミリアに厳しく出来ないでいる。
今の私はあの頃とは違って、エミリアを羨ましいとさえ思っていない。
家族の監視が少しでも私から外れるのなら、それでいい。
「アクリナ様」
「……サルヴィーノ様、なんでしょう? 」
「正直エミリア様との婚約は不安だったんです。エミリア様のお茶会での評判は我が家でも何度も話題に上がっていました。父は僕とアクリナ様の婚約を望んでいたんです。それは今でもです。だけど、今後もアクリナ様が伯爵家を支えてくれるという事で安心しました」
「私が支える? なんの話ですか? 」
「エミリア様から、アクリナ様が今後は支援や援助してくださると……違うのですか? 」
「そんな話はありません。私も婚約が決まりましたので、支援も援助も不可能です。エミリアが家庭教師から逃れる口実です。私は今後エミリアを助ける事はできません」
「……では、僕を助けてくれませんか? 」
何故私がサルヴィーノを助けなければならないの?
ようやくこの二人から解放されるのに、繋がりを持つわけないだろうが。
「サルヴィーノ様を? 優秀だと聞いていますよ? 私の助けなど必要ないでしょう」
「僕は、初めて出会った時からアクリナ様に心を奪われていました。婚約は父からの提案でしたが、アクリナ様に出会って本気で婚約したいと思ったんです。アクリナ様には信じてもらえないでしょうが、本当にモンテジール家を訪れていた理由はアクリナ様です」
心を奪われた……
私と婚約したい?
息をするように嘘を吐く男だったのね。
「サルヴィーノ様の気持ちが正しいのかは、私には判断がつきません。喩えあの頃はそうだったとしても、今サルヴィーノ様はエミリアの婚約者です。二度とそのような話はしないでください」
私ははっきりと拒絶の態度を見せる。
私に期待してほしくないから。
「アクリナ様っ」
「もう一度言いますが、私はこれからエミリアの手助けをするつもりはありません。あの子を支えるのは婚約者である、サルヴィーノ様です。その事を忘れないでください」
サルヴィーノと一緒にいるのが嫌で、足早に去る。
彼に今後手助けはしないと告げれば今後どうなるか分かっていた。
「お姉様っ、モンテジール家を見捨てるとはどういうことですかっ」
エミリアが突撃してきた。
「見捨てるとはどういうこと? 」
「サルヴィーノ様から聞きました。伯爵家を継げなかったので、今後我が家がどうなろうとどうでもいいと」
「そんな風には、言っていないわ」
「なら、手助けしてくれるんですね」
「いえ、手助けはしないわ」
「どうしてですかっ」
「今後はエミリアがモンテジール家を守るの。私ではなく、エミリアが。モンテジール伯爵夫人になるのはエミリア、貴方なのよ」
「えぇ。私です。私がモンテジール家を継ぎますが、お姉様はモンテジール家の長女ではありませんか。我が家が存続・繁栄する為に協力するのは当然でしょ」
「私がモンテジール家の手助けしてしまえば、私とエミリアのどちらがモンテジール家で影響力があるのか周囲は不審に思うわ」
「そんな事にはなりません」
「いえ、そのように噂を立てるのが貴族なのよ。分かるでしょ?」
「……では、隠れて手助けしてくれたらいいじゃないですか」
「隠れていても秘密は何処からか漏れるわ。エミリアとサルヴィーノ様が婚約前から親しい関係であったのも社交界では噂になっていたの忘れた? 」
「それは……」
「どんなに隠しても重大な秘密であればある程、人は誰かに話したくなるものなの。秘密は作らないのが一番よ」
「……では、誰が私を助けてくれるのですか? 」
「それはサルヴィーノ様。彼だけでは不安だったら……」
「不安だったら? 」
「グレディス伯爵夫妻よ」
「グレディス伯爵夫妻……」
エミリアには私に助けを求めず、サルヴィーノの実家であるグレディス夫妻に助けを求めるよう言い聞かせる。
そして私は予知夢の通り婚約者の元へ移り住む。
「アクリナ、お前なら心配ないと信じている」
「はい、お父様」
「アクリナ、貴方がいなくなると思うと寂しくなるわ」
「お母様……」
「私はお姉様がいなくなっても寂しくないわ。私にはサルヴィーノ様やグレディス伯爵夫妻がいますから」
私に助けを求めることをせず、グレディス伯爵夫妻に助けを求めるよう話してからエミリアはさっさと私を追い出したい様子。
「そうね。私も今後は何も出来ないから、グレディス伯爵夫妻と仲良くね」
「心配など必要ありませんわ。私はお姉様と違って皆に愛される存在ですから」
「……そう」
別れの挨拶を終え、婚約者の待つ屋敷へと向かう。
「お相手に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「はい」
その後もエミリアは社交界を騒がせ続け、モンテジール家の評価はガタ落ち。
火消しにグレディス伯爵夫妻や両親が走り回るも、それ以上の問題が次々に発生。
次第にエミリアのウワサだけが残り、エミリアの姿を目撃する者はいなくなった。
事業の方も契約打ち切りが相次いでいるとか……
自分達ではどうにもできなくなったと判断した母から手紙が届く。
『最近のエミリアは以前とは違ってマナーもちゃんとしているわ。練習も兼ねて高位貴族を誘って貴方主催のお茶会やパーティーに招待してあげて』
社交界から見放されたエミリアの名誉回復のお膳立てしてほしいという内容。
わざわざ『高位貴族』と限定するところを見ると、相当追い詰められているのだろう。
手紙の文面に私の様子を窺う内容は一言もない。
婚約者の元へ一人向かった私も彼らの家族のはずなのに……
心配されないことに悲しいという感情は無い。
「私にお願いするのであれば、私の機嫌を窺うとかするでしょ……」
手紙を読んで愚痴をこぼしてしまった。
そんな状況だと知り家族であれば手助けするのだろうが……私は
『私が主催するより、お母様が主催しお母様のご友人達にエミリアの成長を評価して頂いた方がよろしいのではありませんか? 私などより社交界に精通しているお母様主催の方が説得力があると思います』
やんわりと断りの返事をするも、母からの催促は止まず。
攻防が続く。
どんなに続いても、私が主催するお茶会にエミリアを招待するつもりは無い。
母と私は互いにエミリアを押し付け合っている。
私が母の言葉を信じていないのは、あるパーティーでサルヴィーノに偶然出会った時の会話にある。
パーティーで私を見つけた途端、彼は近付く。
「アクリナ」
「……なんでしょうか」
振り向くことなく声を聞いただけで相手が分かり、気分が滅入る。
会話する気はないが、無視する事も出来ず返答。
振り向くと予想通りの人物……サルヴィーノ。
なんだか痩せた? 疲れているようにも見える。
彼の体調などどうでもいい。
今は隙を附いてどうにか逃げられないかを考えないと……
「凄く綺麗だね……あの頃の僕は何を見ていたんだか……」
「……そうですか……それで……は……」
「あの時の僕はどうかしていた。アクリナとの幸せな未来が恋しい……君も望めば婚約者変更も可能。僕は君の事を……」
弱さを見せ私の気を引きたかったのだろう。
そんなような事を言っていたような気がしたが彼が私から視線を外した瞬間、彼の言葉を聞き終えることなく素早く私は立ち去った。
彼といるのは不快でしかなく、時間も無駄にしたくない。
「アクリナ様」
「あっはい」
人が違えば、名前を呼ばれるだけでときめいてしまう。
私の婚約者はてっきりシオニス侯爵かと思っていたが、違っていた。
まさかあの方が私を推薦し、婚約者として迎え入れてくれるとは……
さて、私の婚約者となったのは一体誰でしょう?