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 ポーリック公爵令嬢のお茶会。


「アクリナ様。本日は私のお茶会に参加して頂きありがとう」


「カンデラス様、お茶会に招待して頂きありがとうございます」


 カンデラス・ポーリックのお茶会には数回招待された事がある。

 私も高位貴族だが、公爵令嬢のカンデラスのお茶会に毎回招待されているわけではない。

 過去の私はエミリア中心の世界で生きていたので、カンデラスのお茶会を断った事があった。

 私の意思ではあるが、エミリアが強く懇願し両親にまで訴えたので私は彼女のお茶会を断るしかなかった。

 断ったのは当日ではないが、直前にカンデラスに欠席の連絡を入れた。

 それからは、彼女の気まぐれでしかお茶会に招待されない。

 招待されても、私は存在していなかった。


「最近耳にしたのだけど、妹様は病弱なの? 」


「はい。エミリアは幼い頃から病弱で、今も体調を崩すことが多いもので皆様にご迷惑をかけていたら姉の私が謝罪します」


「いえ。謝罪が欲しいのではなく、確認したかったのです」


「確認ですか? 」


「妹様が病弱なのを」


「それは……」


「私が以前アクリナ様を招待した時、お茶会を欠席したわよね? もしかして、その時も? 」


「その節は大変申し訳ありませんでした」


「謝罪は結構よ。既に許しているもの。それに家族が倒れたのにお茶会への参加を選択していればその方がアクリナ様に幻滅していたわ。それよりも妹さんの事を話してくれていたら、私の貴方への印象は違ったわ」


「構いません。私がカンデラス様のお茶会を欠席したのは事実です」


「そういうところ、兄にそっくりね」


「兄とは、コーウェン様ですか? 」


「えぇ。私も幼い頃、体が弱く兄を犠牲にしていたのよ」


「犠牲だなんて思っていないと思いますよ」


「いえ、私は兄が友人達と約束するのが羨ましく、病弱を利用していました。本当に体調が悪い日もありましたが……演技の時も……今思うとあんな事、しなければ良かったと……」


「その事をコーウェン様には? 」


「話していません。これ以上、兄に嫌われたくないですもの」


「それは過去の事です。そんな事で嫌いにはなりませんよ」


「……そうかしら? 」


「家族ですもの」


「……ありがとう。アクリナ様と話せて良かったわ」


 カンデラスへの言葉は半分は本当。

 反省しているカンデラスであれば、許されるだろう。

 反省していないエミリアを私が許すことは無いし、家族だとも思えない。

 エミリアとカンデラスは違う。

 彼女は過去は確かに病弱だったかもしれないが今は健康で、過去の自分を反省している。

 そんな彼女だから、私からあの言葉を引き出した。

 以前お茶会を欠席してから、私達の距離は遠く離れていたが、ほんの少し近付いた気がする。 

 次に会った時は、また私達の関係は戻っているかもしれない。

 それでもいい。 

 カンデラスとの関係は歩み寄りを見せた……

 面倒なのは家族だけで十分。

 ……家族以外に一人、面倒な人物を忘れていた。


「これをアクリナ様に」


 私達の婚約はなくなったというのに、サルヴィーノは定期的に我が家を訪れる。

 ただ訪れるのではなく、毎回何かしらを手土産を準備している。

 花だったり小説だったり芸術品。

 今日は……


「このアクセサリーは私がアクリナ様をイメージして依頼しました。受け取って頂けますか? 」


 サルヴィーノはネックレスとピアス、ブレスレットの三点セットを見せる。

 全てがサルヴィーノの瞳と同色。


「このような高価な物はいただけません」


「いえ、そこまで高価な物ではありませんので。それに、アクリナ様をイメージしているので他の者には似合いません」


「ですが……」


「今は、友人として受け取ってください」


「……では、友人として受け取らせていただきます」


 受け入れたのではなく、面倒なので受け取っただけ。

 使用するつもりは無い。


「ありがとう」


「本日のサルヴィーノ様の用件は何でしょうか? 父でしたら、今はおりませんが」


「今日も、アクリナ様に会いに伺いました」


「では、もう用はすみましたね」


「アクリナ様は今日つれないのですね」


「私と話していても面白くないですよ」


「面白いかどうかは人ぞれぞれです。私はアクリナ様といると癒されます」


 どんなに好意的な言葉だろうが、私が彼の言葉に絆されることはない。

 あんな死に方、したくないもの。


「サルヴィーノ様っ」


 部屋にいる者の許可なく入室するのはエミリアの性質。

 両親が甘やかした結果、『他人の許可を得る』という事を知らない。

 教えても、実行に移せない。

 前回は何度も注意したが、今回は受け入れる。

 サルヴィーノとの時間を邪魔してくれるのであれば、喜んでエミリアを受け入れる。


「……エミリア様、今日も元気そうですね」


「はい。サルヴィーノ様に会えると思うと体調が良くなるのです」


「そうですか」


「サルヴィーノ様はどうしてお姉様ばかりで、私を呼んでくれないの? 」


「エミリア様は体調が優れない事が多いと聞くので遠慮していました」


「お姉様、どうしてそんな嘘を話すのですか? 酷いです。私が以前より健康なのは、お姉様が一番分かっているはずです」


「私は彼に何も告げていないわ」


「はい。僕もアクリナ様から聞いたのではありません。お茶会に参加できない程、病弱だと人伝いに聞いたもので」


「それは……誤解です。日程があわず、参加を断念していたんです。これからは参加します」


「そうなのですね。それは良かった」


「この宝石は何ですか? 」


「これは、僕からアクリナ様への気持ちです」


「サルヴィーノ様から……お姉様へ? 」


 私に新たな贈り物ですら癇癪を起すのに、それがサルヴィーノからとなれば尚更エミリアは気に入らない。


「アクリナ様、是非今度のパーティーで身に着けてはいただけませんか? 」


 エミリアの不機嫌など気にする事のない、サルヴィーノ。


「……その日の気分で決めますので、お約束はできません」


「ふふ。そうですね。当日、楽しみにしております」


 サルヴィーノは訪問を終え帰って行く。

 彼が去っても、面倒な人物はまだ残っている。


「お姉様。サルヴィーノ様がいらっしゃるなら私に伝えるべきではありませんか? やはり、お姉様もサルヴィーノ様との婚約を狙っているのではありませんか? 」


「彼と約束した事は無いわ。今日も突然訪問してきたのよ。何度も言うけど、彼と婚約するつもりは無いわ」


「どうだか。今のお姉様は信用できませんわ」


「エミリアがお茶会に参加できるようになれば、彼もエミリアに会いに来るわ」


「お姉様が確り謝罪できていないのが原因でしょ」


「エミリアが直接皆さんに事実を伝えればいいのよ」


「どうしてそんな面倒な事を私がしなければならないのです? 」


「それだといつまで経ってもお茶会に参加できず、サルヴィーノ様も遠慮するわよ」


「各家門を訪問して謝罪なんて……嫌です」


「なら、我が家でお茶会を開催し皆さんを招待し誤解を解けばいいのよ」


「我が家に招待ですか? 」


「そうよ。それが一番よ。何かあれば私が対処するわ」


「……分かりました。ですが、お姉様が全部準備してくださいね」


「えぇ」


「私主催なのですから、失態の無いようにしてよね」


「努力するわ」


 私はエミリアの為に、確りと準備を進める。

 両親にも我が家主催のお茶会を開催する事を報告。


「そうね。皆さんにはエミリアが病弱であった為にお茶会を欠席した事を伝えた方が良いわね」


「はい。それでなのですが、エミリアは最近当日体調を崩す事があるので、これも準備しておいた方がと思いました」


 一枚の設計図を両親に見せる。


「アクリナ、これは……」


「エミリアは頑張り屋です。無理してしまうのではないかと私は心配で仕方がないのです。万が一倒れた時に、これがあれば安心ではありませんか」


「そうだけど……」


「それにお茶会当日、皆様に事情を説明する際、エミリアが伝えずとも見ただけで分かるではありませんか」


「いい案かもしれないな」


 私の提案に父が同意する。


「あなた……そうね……これは、エミリアの為なのよね……」


 躊躇いを見せた母だが、父が受け入れた事で納得。


「では、準備しておきます」


 お茶会に必要な準備を勧めつつ、エミリアにも準備をさせた。


「なんです? お姉様」


「明日から家庭教師が付くわ」


「家庭教師? 誰にです? 」


「エミリアによ」


「私に? 必要ありません」


「今度皆さんの前で事実を伝えるのに、礼儀作法を学び直した方が良いと思ったのよ」


「私には必要ありません」


「必要ない事を確かめる為に、一度先生に確認してもらってほしいの」


「それすらも必要ありません」


「礼儀作法は十歳の時に教わり、途中で終わっているのが心配なのよ」


「お姉様に心配される必要はありません」


「私もだけど、お父様もお母様も不安なのよ。貴方がこれ以上おかしな噂の的になるのではないかと。一度確認してもらって、問題ないと安心したいの。あの頃とは違った作法も生まれているから、招待客に『時代遅れ』と、恥をかくことがないようにしたいのよ。貴方も下位貴族の前で恥をかきたくないでしょ」


 言葉を選んで、エミリアを導く。


「……そこまで言うなら一度だけ確認してもらいます」


「良かった。ありがとう」


 エミリアに礼儀作法の確認する約束を得る事に成功。

 そして、授業初日。


「エミリア様。もう一度……もう一度……もう一度」


 立ち姿から注意を受け、歩き方にカーテシー。

 エミリアは家庭教師に何度も注意を受ける。


「ちゃんとやっています」


「いえ、まだ軸足がブレているせいで体が揺れています。もう一度」


 今まで甘やかされてきたエミリアにとって、家庭教師はとても厳しく感じている。


「……はぁはぁはぁ……先生……ごほっ……もぅ……ごほっごほっ」


「少し休憩しましょう」


「……は……ぃ……」


 呼吸を荒くするエミリア。

 その様子を無言で見つめる教師。

 十分な休憩を取った後。


「では、続きを行いましょう」


「……はぃっ……キャッ……」


「大丈夫ですか? 」


「申し訳ありません……貧血が……」


「もうしばらく休みますか? 」


「……先生、すみません。今日はもう……」


「……それはどういう意味ですか? 」


「……休ませてください。後は体調のいい日に自己練習します」


「……それがあなたの意思でよろしいですね? 」


「はい。すみません、先生。私が病弱で最後まで授業を受けられず……先生の授業受けたかったです」


「そうですか。分かりました。では、今日の続きはいつでも構いませんのでご連絡ください」


「……はい」


 エミリアの授業時間は一時間もせずに終わる。

 その後、体調不良という事で部屋で休み夕食には……


「お父様……私の家庭教師ですが、お断りできませんか? 」


「どうしてだ? 」


「授業を受けたいのですが、また体力が追い付かず先生にご迷惑をかけてしまって……申し訳なくて……ひっく」


「エミリア、泣くことない。家庭教師は少し早すぎた。体調がいい時に先生を呼ぶことにしよう。私の方から先生には連絡しておくから安心しなさい」


「ありがとうございます。お父様……」


 どんな授業を受けどのくらい成果を得たのかを知ろうとせず、エミリアの言葉のみで判断を下す父。

 結局エミリアの家庭教師はたった一日、一時間足らずで終わった。

 こうなる事は予想できた。

 

「お姉様、お茶会の準備は順調ですか? 」


 エミリアはいつものように許可なく私の部屋を訪れる。


「えぇ、滞りなく」


「そうっ。私に恥をかかせないでくださいね」


「……それは、エミリアの方じゃないかしら? 」


「それはどういう意味ですか? 」


「家庭教師の先生を断ったのでしょ? 」


「それは体調が悪く、仕方がなかったのです。受けたくても受けられない私の気持ちなど、お姉様には分かりません。お姉様は生まれた時から健康なのですもの」


「伯爵家だろうと、粗相をすれば一瞬で失態は広まり見下されるのよ」


「その時はお姉様がなんとかしてください」


「なんとか? 」


「私より酷い粗相をするとか」


「どうして私がそこまでしなければならないの? 」


「お姉様が私の姉だからです。当然ではありませんか。姉は妹に尽くすものです」


「姉は妹に尽くす……エミリアは私をそんな風に思っていたのね」


「私がではなく、周囲がそのように見ているのです」


「それはエミリアが幼い頃、本当に病弱だったからよ」


「私は今でも病弱です」


「……そう」


「準備、怠らないでくださいねっ」


 エミリアは病弱とは思えない足取りで部屋へと戻る。


「病弱ね……」


 エミリア本人は自身を病弱と言うが、最後に医師の検診を受けたのは四年も前。

 原因不明で倒れた以降は一度も受けていない。

 両親は今でもエミリアを病弱だと信じている。

 使用人は両親が病弱だというので、その意向に従っている。


「なら次は……」


 次の事は考えている。

 家族全員での食事。

 両親と私は同じものが配膳される。

 病弱なエミリアには、特別メニュー。

 前菜と野菜たっぷりスープ。


「何これ? 」


 配膳され、自身のだけ違うメニューに不満を口にするエミリア。

 それもそうだ、彼女のスープだけ真緑のスープ。

 ほとんど、エミリアの苦手な野菜が使用されている。


「エミリアの為に、お医者様が考案してくださったメニューよ」


 その後もエミリア一人にだけ別の物が届く。

 優しい味付けの僅かな魚料理に、ソルベは体を冷やす為に無し。


「なんなんですか、私だけ。こんなの食べられませんっ」


「エミリア、これも病弱なあなたの為なのよ」


「私はもう健康です」


「だけど、家庭教師の先生から貧血で倒れたと聞いたわ。この料理は貧血改善に良いのよ」


「何っ、エミリア。貧血で倒れたのか?」


 私の訴えに父が過剰に心配する。


「お父様、心配しないでください。今は大丈夫です、あの時だけです」


「健康になる為の食事よ。確り食べるのよエミリア」


 母の言葉。


「……はい」


 父だけでなく母にも勧められ、渋々頷くエミリア。

 甘やかされて育ったエミリアは好き嫌いが激しく、野菜はほぼ全般苦手。

 誰も知らないが、普段の食事ではスープやサラダは家族と比べ三分の一程しかない。

 だが、今日は違う。

 量もだが、野菜の種類も豊富。

 一口サイズの魚料理の後に、たっぷりサラダ。

 その後のワインは勿論、チーズもデザートも無し。

 食後のコーヒーも、体調に悪いので無し。

 代わりにハーブティーを差し出すも、エミリアはハーブティーが好きではない。

 好き嫌いの無い人間からすれば何ともないが、エミリアにとっては匂いすら我慢できなかった。


「……うっ……」


 突然口元を押さえ席を立つエミリア」


「どうしたの、エミリアッ」


「気分が……すみません。部屋で休みます」


 スープを一口飲んだだけで下げさせ、魚だけ食べ他は一切手を付けない。

 サラダは、二口。

 ハーブティーは香りはいいが、口に含んだ瞬間表情を歪める。

 ほとんど食べることなく、エミリアは去って行った。


「エミリアは大丈夫かしら? 」


「心配でしたら、使用人に命じて食べやすいスープだけでも部屋に運んでは如何でしょう? あれだけでは体に悪いですから」


「そうね」


 母は私の提案を受け入れ使用人に温めた新しいスープを持っていくよう指示。

 その後もエミリアにだけ特別メニューを続ける。


「お姉様、私への嫌がらせですか? 」


「嫌がらせ? 私が何を? 」


「食事の事です」


「食事? あれは病弱なエミリアの為にお医者様が考案してくださったメニューよ? 」


「私は今まで通りのメニューで問題ありません」


「だけど、今も家庭教師を受けられない程体調が悪いのでしょ? 」


「それはっ……体調が悪いのと、食事は関係ありません」


「お医者様は、私生活から改善すべきだと。まずは食事療法からだと教えてくださったわ」


「……私の事は私が一番よく分かっているので、お姉様は口出ししないでください」


 エミリアは食事を元に戻すよう訴えるが、病弱なエミリアを心配する両親の決意は固く食事が変更することはなく。

 更には、おやつも三口程の果物だけになった。

 そのせいでエミリアは苛立つことが多く、使用人に八つ当たりしている。


「サルヴィーノ様。本日は、私からお願いがあるのですが」


 本日も事前連絡なくサルヴィーノが訪れた。

 いつもなら『事前連絡を~』と小言をいうのだが、今回は省いた。

 それよりも、お願いしたいことがあったから。


「なんでしょう。アクリナ様のお役に立てるのであれば喜んでお手伝い致します」


「エミリアに食事療養を受けるよう、サルヴィーノ様からお話しして頂けないでしょうか? 」


「エミリア様の食事療法ですか? 」


「はい。今も家庭教師を受ける事が出来ないくらい、あの子は病弱なのです。食事も少量しか口にしないので家族も心配しているのです……私達がいくら言ってもあの子は頑なで……頼れるのはサルヴィーノ様だけなのです」


「……分かりました。エミリア様を説得できるか分かりませんが、アクリナ様の為にもお話だけさせていただきます」


「お願いします。これからエミリアを呼び、私は本日はこれで失礼いたします」


 私はエミリアの部屋を訪ねる。


「エミリア、少し時間いいかしら? 」


「体調が悪いので、お断りいたします」


「そうなの? サルヴィーノ様がいらっしゃって、エミリアとお会いしたいというので呼びに来たのだけど、体調が悪いのであればお断りするわね」


 勢いよく扉が開く。


「待ってください。サルヴィーノ様が私に会いたいと? 」


「えぇ。だけど、体調が悪いなら……」


「いいえ、お会いします」


 『サルヴィーノが会いに来た』と伝えれば、エミリアは足早に彼の待つ応接室へと向かう。

 私はエミリアの後ろ姿を眺めながら次の作戦の為、出掛けた。

 用事を終え夕食時にエミリアと対面すれば、お淑やかに食事に臨んでいる。

 サルヴィーノから何を言われたのか私には想像できないが、エミリアは従順に従っている。

 その様子で、お茶会が楽しみで仕方がない。


「お姉様。次のお茶会では私が主役ですので、お姉様は私の指定する服装でお願いしますね」


「エミリアの指定する服装? それは楽しいわね、招待客の皆様にもすぐにお伝えするわ」 


「違いますっ。お姉様に着てほしい服があるんです」


 突然のエミリアの提案だったので、招待客も巻き込もうとしたが失敗した。


「……お茶会に相応しい装いであれば構わないわ」


「私の主催するお茶会でお姉様に非常識な恰好を望むわけありませんよ」


「そうよね……」


 エミリア自身が嫌がらせのつもりはなくとも、彼女がどれだけ常識的なのか不安でしかない。

 そしてエミリア主催のお茶会当日。

 エミリアが指定した服装は、予想外にもお茶会に相応しい服装だった。


「お姉様にはこちらの服で参加してください」


「素敵な服ね、分かったわ」


 エミリアとお揃いというわけでも、季節外れ時代遅れでもない。

 なんの嫌がらせもない贈り物を意味深に考えてしまうのは、私の性格の問題なのだろうか?

 エミリアと私の背格好は今では変わらない。

 顔の系統も似ているので、似合わないということもない。

 部屋に戻り縫い目や汚れが無いのかを入念に確認するも、問題ない。


「本当に、この服を着てほしかっただけ? 」


 疑問に思いながら着替えを済ませお茶会に望む。

 招待客が訪れる時間が迫りエミリアの元へ向かう。


「まぁ、お姉様。その服とっても似合っているわ」


 私が贈られた服を着ている事に満足しているエミリア。


「ありがとう……エミリアは緊張している? 体調はどう? 」


「緊張するような相手ではありません」


「良かったわ、皆さんに謝罪するのに緊張していないのか心配だったの。私の方が緊張しているみたいね」


「謝罪……病弱だと言えばいいだけで、どうして私が謝罪するのですか? 」


「前もって準備していた主催者に、当日欠席した事で予定を狂わせたのは事実。謝罪するのは当然よ」


「……お姉様、お茶会まで時間ありますよね? 少し休みたいので出てってください」


「そうね。また来るわ」


 上機嫌だったエミリアだが、私が『謝罪』を強要すると途端に不満な表情を見せる。

 

「もうすぐ、お客様はいらっしゃるけど平気かしら? 」


 お茶会が予定されている会場で招待客を待つ。


「まぁ、アクリナ様が出迎えてくださるなんて」


「はい。皆様にいち早くお会いしたかったのです」


 下位貴族をお茶会に招待し、出迎える高位貴族はいない。

 本来謝罪しなければならないエミリアも、もちろん招待客の出迎えないでいる。

 続々と集まる中エミリアの姿はない。


「アクリナ様、奥様がお呼びです」


 お茶会の時間が過ぎても現れないエミリアについて尋ねるべきか、招待客がそわそわし始めるとアクリナの元へ使用人が訪れる。


「わかりました」


 使用人からは『奥様』と呼ばれたが、案内されたのはエミリアの部屋。


「どうしたの? 招待客の皆さん、全員出席されたわ」


「アクリナ、エミリアが急に貧血だというの。この状態では難しいと思うの」


 部屋には母の姿があり、エミリアはソファに座り俯いている。


「……エミリア、貧血なんて大丈夫なの? 心配だわ。そんな状態で挨拶だなんて……お母様、あれが必要ではありませんか? 」


「えぇ。アクリナの言う通り準備しておいて良かったわ」


 貧血だと訴えればお茶会に顔を出す必要がないと思っていたエミリアは自身の予想とは違う話の方向性に顔を上げる。


「お母様? 」


 不安な様子でエミリアは母に呼びかける。


「大丈夫よ、心配しないで。この日の為にちゃんと準備しておいたから」


「準備ですか? 何をですか? 」 


 自身の主催するお茶会だが、聞かされていない事に狼狽えるエミリア。

 そこへ使用人がある物を運び込む。


「それって……」


「エミリアの為に取り寄せておいたのよ」


「それは……車いす……ですか……お年寄りが使用する……」


「えぇ」


 私がこの日の為に準備していたのは、車いす。


「私にそんな物は必要ありません」


「だけど、貧血で立ち上がれないのでしょ? 」


「それは……だけど、車いすだなんて大袈裟すぎます」


「エミリア、立ち眩みや貧血を甘く見てはいけないわ。突然倒れて顔に怪我でもしたらと思うと、心配なのよ」


「大丈夫です。今日のお茶会は私は休んでいますのでお姉様が代わりに皆さんに謝罪してください」


「それでは、皆さんにまた日を改めて謝罪の機会を頂けないか聞いておくわね」


「お姉様、何度もそのような機会を予定しては皆さんにも都合があると思います。本当に申し訳ありませんが。お姉様が皆さんに謝罪してください」


 どうにか出席させたい私と、謝罪から逃れようとするエミリアの攻防。


「私が謝罪するにも、エミリア本人が少しでも顔を見せないと失礼よ。それに車いすで登場すれば、誰も貴方に強く謝罪を求める事は無いわ『私のお茶会に参加してくれてありがとう』で十分だと思うの。今回を乗り切れば、今後の謝罪は必要なくなるわ」


「……それなら……分かりました」


 頑なに謝罪したくないエミリアに、却って感心してしまう。

 エミリアは車いすでの登場に合意。

 私が後ろから押してお茶会に登場すると、予想外なエミリアの登場の仕方に先程までの空気が一変。


「皆様、お待たせいたしました。エミリア、挨拶を」


「……本日は、私のお茶会に参加して頂きありがとう」


 エミリアは先程私が言った言葉通りの挨拶をして不満を隠す事は無かった。

 だけど、招待客はエミリアの様子から『相当体調が悪い』と受け取る。


「エミリア様、本日は招待して頂き感謝いたします」

「私も、このような機会が無ければエミリア様を誤解しておりました」

「お恥ずかしい事に私も……」

「エミリア様は、そんなにも病弱な方でしたのね」

「私はそうとは知らずに、エミリア様を誤解し続けるところでした」

「私もです」

「私も……」

「「「「……はぃ。私も……」」」」


 招待客はエミリアが令嬢達のお茶会を欠席した事を謝罪する前に、申し訳なさそうに口にする。


「エミリア、良かったわね。皆さん、このような場を設けさせていただきありがとうございます。エミリアは先程も貧血を起こし、遅刻してしまったのに許してくださるなんて……」


「まぁ、先程も貧血を? 」


「そうなのです」


「それで開始が遅れたのですね」


「はい、申し訳ありません」


 私と招待客の会話に一向に発言しないエミリア。


「今後もエミリアの事をよろしくお願いします」


 結局エミリアは、お茶会を当日欠席した事を謝罪することなくこの場をやり過ごした。

 お茶会が進むにつれ、エミリアは機嫌を取り戻す。


「エミリア様とアクリナ様はとても仲がよろしいのですね。今回の事もそうですが、本日のアクリナ様の服はエミリア様とお揃いですわよね」


 一人の令嬢の言葉に疑問が生れる。

 この服はエミリアとお揃いなの? 


「私とお姉様はとても仲がいいですよ。その服も私のだったのですが、お姉様がどうしても欲しいと仰るので差し上げたのです」


 エミリアがどうしても『この服で参加してほしい』と言うので、従ったがやはり意図があったらしい。

 招待客もエミリアの言葉に対し、疑念を抱き私に視線を送る。


「お恥ずかしながら、そうなのです。お茶会に参加できるような服を持ち合わせておらず……」


 私はあえてエミリアの言葉を否定することなく、肯定した。


「アクリナ様はエミリア様から服を頂いているの? 」


「そうなのです。エミリアが病弱なので、どうしてもエミリアを優先してしまう事が多く。毎月デザイナーや宝石商の方が訪れ何十着もエミリアの希望を話していたら、自分の物を購入していなかったのです。ドレスや宝石が毎月届くもので、私自身も錯覚しておりました。気が付いたら、ここ何年も服や装飾品を自分の為に購入しておらず確認不足でした。その事もあり、急遽エミリアに服を借りたのです」


「……ご自身の分は何年も購入していない? 」


 私の言葉は令嬢達には衝撃だった様子。


「確かに、アクリナ様がお召しになる物は以前エミリア様が使用していた物が多いと噂になった事が……」


 誰かが呟く。

 私は嘘は吐いていない。

 ドレスも宝石も普段着るような服も、両親はエミリアには大量に買い与えるが私にはない。

 エミリアが選ばなかった物や、必要なくなった物が私に巡ってくるだけ。

 

「ぉおっ、お姉様っ。そうだったのですか? 私、何も知らなくて……」


 エミリアは慌てた様子で私に同情を見せる。

 自身の思いえがいた話の流れにならず、エミリアは慌てながらも知らないふりをする。

 実際は、知らないはずがない。

 エミリアが『処分して』というと、それらの物が私に回ってくるのを理解している。


「いいのよ、エミリアは病弱だもの。私の事をエミリアが気にする事は無いから」


 エミリアとしては『病弱な妹の物を強奪する姉』を周囲に印象付けたかったのだろうが、招待客は献身的過ぎる姉に同情し感動する。

 その印象を覆すことが出来ないまま、エミリア主催のお茶会は終了。 

 私達は招待客を見送る。


「……なんなんですかっ。お姉様は私を利用したのですかっ」


「利用? 何のことを言っているの? 」


「私を陥れて、お姉様が良い子のように振舞っていたではありませんかっ」


「そんな事無いわ。皆さん、病弱なエミリアを心配していたじゃない」


「どうだかっ。お姉様の計画通りだったのではありませんか? 」


「えぇ。エミリアが皆さんに受け入れられ、これからはお父様の許可なくお茶会に参加できるようになったじゃない。良かったわね」


「……本当に……お姉様は、私の為に……ですか? 」


「当たり前じゃない」


「……もう疲れました。部屋で休みます」


 エミリアは車いすから立ち上がり、自身の足で会場を去って行く。

 その日の夜。

 エミリアが無事にお茶会を終えた事を報告。


「エミリア、今回は偉かったな。これを」


 父は今までに届いたエミリア宛の招待状を全て手渡す。

 

「お茶会を終えたのですから、今後は私の意思で全て参加してもいいという事ですよね? 」


「あぁ」


 宣言通り、エミリアは届いた招待状を全て確認し高位貴族の招待状から出席の返事を送る。

 それからは、お茶会に積極的に参加している。

 病弱と聞いていた高位貴族は健康的に振る舞うエミリアを好意的に受け入れ、謝罪直後も頻繁にお茶会を欠席されても下位貴族はエミリアを非難する事は無くなった。

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