ジューシーなんちゃってタコス!
「いつからそこに立ってたんですか。驚くんで気配消すのやめてくださいよ」
「随分と機嫌良さそうな声が聞こえてきたもんでな、客になってやったまでだ」
「は、恥ずかしぃ……」
結構前から聞かれてたっぽい。
「何を歌っていたんだ? 聞いたことない歌だったが」
「あーえっと、向こうにいた時に流行ってた曲です。君が歌う曲がいつまでも忘れられないってのなんですけどね」
蒸籠から竹が蒸された良い香りが漂ってきていた。蓋を開けると、もうっと白い湯気があふれ出る。まるで玉手箱だ。湯気に掛かっても老けはしないけど。むしろ、中に入ってるもので元気になる。
ふっくらと蒸されたマントウは、ふっかりとした弾力とほどよい柔らかさがあって、焼いた時とまた違ってとっても美味しいのだ。弾力はあるけど決して固くはない。仄かに漂う小麦粉の甘い香りが食欲を刺激する。
まず、蒸し上がったマントウ達の背に切れ目を入れていく。
「皇国四家のことはもう習ったか」
「ええ、楚雄君からバッチリと。冬長官って家もすごかったんですね」
「別にすごくはないさ。事実、こうして俺は宦官なんて仕事をやってるくらいだしな」
次に、マントウに大葉やセリを挟んでいく。
セリって本当は春とかに採れるはずなんだけど、うちの兎さんには季節関係なしなんだよね。どの季節の野菜でも通年で厨房に用意されるっていう、食膳処も羨むチート厨房だ。
あの籠、どこに繋がってるんだろうか……。
「私には、宦官が仕事でどんな位置にあるかわかりませんけど、そこで一生懸命やってるんだったら、それだけで立派だと思いますけどね。私と同じ歳で、長官なんて責任重大な役についてる冬長官は、充分にすごいですよ。頑張ってきたんですね」
大葉とセリの上から、今さっき作った熱々の肉野菜味噌を詰めていく。
「いやぁ、わかりますよ~。同じ働いてるでも、事務ってだけで下に見られたり、営業が事務の分の給料も稼いできてやってるみたいな……いや、それは確かにありがとうなんですけど、事務がいなかったらとってきた契約も締結されませんよって話で。誰が裏で処理してるんだよと。どっちが上とかじゃなくて、両輪みたいなもんだと思うんですけどね――――って、わ! びっくりした」
食材を追加で取りに行こうとして振り返ったら、目の前に冬長官がいた。
「もう、冬長官! だから、気配なく背後に立たないでくださいよ! 料理中は危ないんですからね」
私は冬長官の胸を押し返して調理台との間から抜け出して、次なる作業へと移る。
棚からニラを選び取り適当な長さに切ったら、肉の塩抜きに使ったお湯と一緒に鍋に投入。しっかりと肉のうま味と塩味が出た、塩肉スープである。
「まったく……私が包丁持ってたら、今頃刺さってましたよ」
「お前のへっぽこ包丁に刺されるほど耄碌してない」
「三枚におろしてやろうか」
誰がへっぽこ包丁使いだ。
冬長官はなぜか「ハハッ」と声を上げて笑っていた。
「そんなことを俺に言うのは、お前くらいだな」
「でも、陛下は冬長官に言えますよね」
「そりゃあ陛下だからな。だが、普通は言わないだろ」
「確かに。陛下が三枚おろしできるとは思いませんしね」
「……いつも微妙にずれてるよな、お前」
何もズレてはないと思うが。
顰めっ面で首を傾げながらスープを椀によそう。
ニラを入れたことで肉の臭みも抑えられて、薬味としての味と食感もプラスされた、エコな一品だ。塩肉を使うだけで二品できるの本当賢い。
「やはり芋娘だし、都会の洗練された会話についていけないのか?」
「本気で言ってそうだから、なお腹立つ」
先ほど作っていたマントウの上から、レモンを軽く絞っていく。少し時間を置いたのは、マントウと肉味噌がしっかりと馴染むようにだ。
真っ白なマントウが大きな口を開けて、茄子やピーマン、唐辛子のカラフル肉味噌を咥えている。そこに覗いた大葉とセリの緑がよく映えること。
「ちゃららっちゃらーん! なんちゃってタコスゥ~!」
青タヌキの声真似をしながら、どうだ! と冬長官の目の前にタコスを突き出してやる。
「どうした? 声、大丈夫か」
よく考えたら、この世界でこのネタが通じるはずがなかった。
本気で心配された。恥ずかし……。




