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よく考えたら、ここって楽園過ぎん?

 風通しのため、うっすらと開けた扉の隙間から清々しい風が入ってくる。

 日本では冬の終わりかけだったが、こちらの世界では春もど真ん中だ。

 庭で鳥が鳴いているし、木の葉が揺れる音は心地好いし、もうひと眠りしたくなってくる。


「ふぁぁ……」

「大きな欠伸ですね、冬花様」


 後ろから、私の髪を梳きながらクスッと小さな笑みを漏らしたのは、白瑞宮に入った時からずっと身の回りの世話をしてくれている、宮女の(さい)(めい)だ。

 二十四歳と年も近く、良い話し相手になってくれている。どんぐり眼の細面で、薄い身体は立て板のように高く、モデルのような雰囲気がある。

 私は皇帝の奥さん――后妃ではないけれど、待遇は妃嬪クラスと同等のものを、という指示が冬長官から出されているらしい。なぜだろう。


(やっぱり、白ちゃんが連れてきたから?)


 冬長官があんなに恐縮していた相手だ。神様だし、それなりに気を遣っているのかもしれない。


(でも、待遇は丁寧でも、私に対する態度は雑なんだよね。突然訪ねてくるし……)


 しかし、目くじらを立てるほどのことでもないし、元よりただの小市民を、こんな大きな屋敷に住まわせてくれているのだから感謝こそすれだ。

 本来ならば、白瑞宮住み込みで身の回りのことをしてくれる専属の侍女がつくらしいのだが、今のところ打診した女の人達にはすべて断られているとの話。


 瑞獣である白ちゃんが連れてきた者と一緒に住み込むなんて、畏れ多くて無理なのだとか。なんでも、『そんな方に少しでも粗相をしたら即死コース』とか噂されているとかいないとか。

 私をなんだと思っているのか。


(いや、知らないからこそ、そんな噂がたってるんだろうなあ)


 高貴な人ほど理不尽という思考があるからだろうと、菜明が言っていたけど……つまり、高貴な人は即死ではないにしても、死コースを使えるってこと? 怖いって。


 そんな感じで侍女はおらず、でも、身の回りの世話をしてくれる人は必須ということで、臨時で、宮女ではあるが、菜明が宮女宿房から通いで侍女みたいなことをしてくれている。

 即死コースの噂にもめげず、来てくれてありがとう。


「ちょっと昨日は夜更かししちゃって」

「それはやはり、本日陛下とお会いになるからですか?」

「あ、あー……そうだった」


 パンのことばかり考えていて、すっかり忘れていた。


「なるほど。そこの卓に置いてあるキラキラしたものは、今日、私が身につけなきゃいけない飾りものなのね」


 こちらの衣装の着方も、髪の飾り方も分かないから、いつも身支度は菜明に任せていた。ただ、『派手でないもの』『料理しやすいもの』『三つ編みおさげ』という点だけは守ってくれるようお願いしている。


 これまでは私の希望をちゃんと聞き入れて、ほとんど菜明の宮女服と変わらない程度のものを着ていたのに、今日は使う色も重ねる上衣の数も多い。髪も、いつもは三つ編みするだけだから不満そうにしていたが、今は「どんな型に結いましょうか~」と嬉しそうだ。


「こんな格好で料理なんかしたら、一瞬で火だるまだよねえ」

「普通、后妃様方は料理などいたしませんから。冬花様は后妃ではなくとも、白瑞の巫女様なんですから。本来ならば、料理などなさらなくても良いんですよ」

「勝手にそう呼ばれてるだけで、私はそんな大層なものでもないんだけど……。料理は好きでやってることだから良いの。本当なら、三食全部自分で作りたいんだけどね」


 食事は後宮の厨房で作られたものが、宮女の手によって運ばれてくる。

 ご飯は熱々のうちに食べたい派の私にとって、湯気がまったく立っていないご飯は中々に悲しいものがある。まあ、郷に入りては郷に従えだけどさ。


「さすがに、それは体面の問題で冬長官もお許しにならないと思いますよ。後宮規則には厳しい方ですし」

「だよねー」


 菜明の話によれば、後宮の人達には鬼の長官様って言われてるくらいだし。


「それにしても、本っ当、冬花様はお美しいですね。肌はつやつやですし、髪も光の輪ができるほど輝いてますし……もったいない。せっかく整ったお顔立ちですのに、化粧もほとんどなさいませんし、衣装も髪も地味なものばかり好まれますし。ああっ、もし白澤様がお連れになった方でなければ、陛下もきっとお目に掛けていたでしょうに!」


 え、後宮ってひとりの皇帝の愛を争う場所だよね。

 やだやだ、絶対そんなギスギスネチネチした争いに参加したくない。

 私は、のほほんとお茶飲んで作った料理を「うま~」とか言いながら、明日の天気を考えるような今の生活を壊したくないから。

 よく考えたら、最高の生活じゃない?


「ちなみに、陛下っていくつくらいの人?」


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