白いトロトロもっちもち
皇后様を訪ねた翌日、私は彼女が寝込んでいる原因を陛下に伝えた。
「なるほど、鬼車という妖魔が原因だったのはわかった」と、陛下は私の報告を、険しい顔で聞いていた。
「それで……次は何をすれば良い、巫女殿?」
白瑞宮の厨房で。
「これで大丈夫だろうか?」
「あ、すごくお上手です。さすが陛下」
陛下は鍋を傾けながら、中の白いものの仕上がりを見せてきた。
鍋の側面にくっついてねっとりしている。うんうん、随分と良い感じだ。
私は、あらかじめ分割していた砂糖の、最後の分量を鍋に投入した。
「これを混ぜて、鍋肌につかないくらいまでまとまれば完成です」
実は今、陛下と一緒に私は団子を作っていた。
しかし、ただの団子ではない。
「ではあと少しだな。ははっ! 団子を作るのは、このように力が要る仕事だったのだな。粉を入れるたびに粘りが強くなるし重いし、手強いな」
「粘度がすごいので、力のある方に手伝っていただけ助かります」
「巫女殿の役に立てているのなら、私も嬉しいよ」
陛下はまた鍋底を温めては火から下ろし、全力で鍋の中身をかき混ぜるという作業に戻る。
見目の良い渋オジが、一生懸命に鍋の中の団子と格闘している姿というのは、なかなかに趣深いものがある。
鍋の中身は、団子粉と水と砂糖を数回に分けて混ぜ合わせたもの。これに熱を加えながらヘラで混ぜていると、もったりとした大きな団子になる。
しかし、ただの団子であれば、粉と水を混ぜ合わせてい湯で茹でれば良いだけ。今回、このような面倒な作り方をしているのにはわけがあった。
陛下の様子を横目でチェックしていると、隣から小突かれる。
「お前、陛下になんということをさせて……っ!」
ボソリと、耳元で冬長官からお小言をもらう。声には焦りが随分と滲んでいる。
「わ、私だって、座って待っててくださいって何度も言いましたよ! 見てましたよね!?」
そう、私だってタイミング良くやって来た二人を見て、冬長官には手伝ってもらおうと思ったが、さすがに皇帝陛下までという見境なしではない。
しかし、今から皇后様に取り憑いている妖魔を祓ってくれる神様のために、お供え物を作るのだと話せば、「ならば私にも手伝わせてくれ」と陛下のほうから言ってきたのだ。
その時の、菜明と冬長官の顔と言ったら……。
私が料理するのでもあれだけ色々と言われてきたのに、それが陛下ともなれば……二人の顔色は青を通り越して白になっていた。
白瑞宮に鬼車を連れ帰ってしまったのかと、本気で焦ったくらいだ。
私含めて、さすがにそれはあまりにも申し訳ないからと、必死に座って待っていてくれと説得したのだが、皇后のために何かしたいと言われてしまえば、それ以上は拒否できなかった。
冬長官は最後まで苦い顔をしていたが、陛下が「白瑞宮でだけだ。ここには他の者達の目もないしな」と言えば、「今回だけですからね」と唸りながらも渋々と従っていた。
「巫女殿、これで良いか? 綺麗にまとまるものだな」
先ほどまで側面にべったりとくっついていた団子が、今は鍋の中で綺麗にまとまっていた。
それを打ち粉をしたまな板の上に出してもらい、一口大に切っていく。
とろりとまな板の上でとろける生地は、手にすると柔らかくて温かくて、赤ちゃんのほっぺみたいで気持ち良い。
「じゃあ、見ててくださいね」
私は、一口大のそれを掌で押しつぶしてぺったんこに伸ばした。そこに冬長官作のあんこを塗って、菜明が切ったイチジクを置いて、団子で包む。
「これで、果物大福の完成です!」
掌に乗った、コロンとしたものに三人は目が釘付けになっていた。
そう、皇后様の妖魔を祓うために作っていたものとは、果物大福であった。
その後、陛下作の生地がなくなるまで四人でせっせと果物大福作りに励んだ。
なぜ、大福が皇后様を助けるのに必要なのか。
別に、《《鬼》》車だからって豆の代わりに大福を投げつけようというわけではない。




