表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
幕間:干からびる? それって最高じゃないですか!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/78

裏:居心地がいい……というだけだ

「長官大丈夫ですか!? ――っていや、くさ!」


 内侍省長官室から漏れ出た煙を見た瞬間、青沁は水桶片手に飛び込んだ。扉の向こうは煙によって真っ白に染められていた。


「ちょっと長官、これは何事ですか!?」

「ああ、青沁。ちょうど良かった。そろそろ焼けるから、お前も食べるか」


 煙をかき分けて進むと、窓辺の下で七輪を使っている雷宗に出くわした。


「食べる? はぁ……どうやら火事ではないようで良かったです」


 手にしていた水桶を床に置き、青沁は窓を開けた。部屋に溜まっていた煙を外へと追い出したおかげで、視界が晴れる。


「ああ、干物を焼いてたんですね」

「知っているのか?」

「漁港の街じゃ、普通に売ってますよ。そういえば、確かに王都じゃ見ないですね。それで、その干物はどうしたんですか」

「白瑞の巫女殿にもらったんだよ」

「えっ、ずるい! 僕も食べます! 巫女様からもらったものって、絶対神聖な力が宿ってますって。巫女様の肌見ました!? つやつやできめが細かくて! ほとんど化粧してなくてあの肌つやですよ!」

「お前、そんなところを見てたのか……」


 なぜだか、腹の底がもやっとした。


「……お前にはやらん」

「えぇ!? さっき食べるかって自分から聞いてきたじゃないですか」

「知らん。腹が立ったから、お前には食べさせん」

「僕、そんな悪いこと言いました!?」


 わいわいと叫ぶ青沁の声をよそに、雷宗は抱いた感情を必死に分析していた。

 この不快感は、つい最近も感じた。というより、今日の午後に感じたばかりだ。


(俺は、あの時いったい何をしようとしてたんだ……)


 思い出したのは、厨房の外で干物を焼いている時のこと。

 彼女に一緒にいる男がいると知って胸が苛ついた。しかし、子供の頃の話だと知れば、多少はその苛つきも収まった。


 その後、自分の髪に彼女が触れてきた時、驚いた。彼女の行動に驚いたのではなく、自分が髪に触れられても、嫌悪を抱かなかったことに驚いたのだ。多分、耳に髪を掛けようとしていたのだろう。何度も何度も同じ場所を指先で撫でられていたが、不思議なことに不快を覚えるよりも安らぎを感じてしまった。

 しかも、気を遣うなと……格好良さを求めてないなどと言われた。


 衝動的に、彼女の手首を握っていた。

 あの時、はたして自分はどのような顔をしていたのか。正直、自分でもよく分らない感情に苛まれ、表情にまで気を遣う余裕がなかったのだ。


 あの娘は、他の女人とは違う。

 自分に色目を使わないし、下心も政争になりそうな後ろ盾もないから、色々と面倒なことを考えずにいれる。それは、ちょうど『居心地が良い』とも言えた。


 この世は自分にとって息苦しいものでしかない。

 後宮では長官としての責務を負い、女人達の好意を上手く躱さねばならない。下手をして恨みを買ってしまえば、どのような罠を仕掛けられるかわからない。


 だったら外へとも思うだろうが、皇国四家のひとつ、冬家の長男というのもなかなかに枷が多いものだ。後宮の中も外も、自分が息をつける場所はなかった。常に気を張り詰めて、他人に弱みを握らせないようにと生きてきた。


 だから、裏やら表やらと考えずに済む彼女の隣は、居心地が良かったのだ。


 それは薄っすらと前々から感じていた。


 だが、今回はどうしてか、少し…居心地が悪かった。


 先に部屋に戻っていて良いと言われ、普段であれば最後まで付き合うのに、あの時はその言葉に素直に従った。厨房へと戻った自分は、菜明達がいる広間へは行けなかった。しばらく厨房で天を仰いでいた。


「……青沁、俺の顔色は悪いか?」

「顔色はいつもと変わりなく見えますけど、性格は悪いですね」

「一年減給な」

「いやああああああっ!」


 青沁の悲痛な雄叫びをよそに、雷宗は窓の外に見える青空を仰いだ。


「……格好良さなんて求めてない、か……」


 であれば、彼女は自分に何を求めているのだろうか。


 何を差し出せば、求めてくれるのだろうか。


 


 


面白い、続きが読みたいと思ってくだされば、ブクマや下部から★をつけていただけるととても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ