見覚えのある性質だぁ……
魃様は片眉を怪訝そうにへこませて、私を見下ろしている。腕組みする姿からは、拒絶がひしひしと伝わってくる。
「それはそうと、変な部屋じゃな。何かの儀式でもやっておったのか?」
魃様が部屋をぐるりと見回した。
この部屋は、正殿の使われていない部屋のひとつ。梅壺を置いている部屋とはまた違った空き部屋で、あちらは日光が差し込まず暗く涼しい場所だったが、ここは風通しも良く、日光もしっかりと差し込むようなところだ。
部屋の中には、たくさんの竹ざるが並べてある。それぞれに、腹開きされた魚や薄切りされた野菜が重ならないように乗っていた。また、天井に張り巡らせた糸にも、魚がぶら下がっている。言われてみれば、儀式のお札のように見えなくもない。
「どの魚も野菜も、とれたて新鮮ピッチピチですよ」
「ぴっちぴち……」
興味をそそられたのか、彼女は首を伸ばしてさらに竹ざるの中を覗き込んでいた。
並んだ魚はアジ、カマス、サバ、そして太刀魚。
帰ってきて魚籠いっぱいに詰まったアジやサバを出していった最後、魚籠の底に大きくて長い銀色の魚――太刀魚が張り付いていたのには驚いた。太刀魚なんて釣った覚えがないんだけど……。
まあ、飛んで魚籠に入る夏の魚ってことで、ありがたく食べるけどね。
野菜はというと、菜明に頼んで食膳処から持ってきてもらった南瓜、さやいんげん、人参、ごぼうだ。釣りに行く前に頼んでおいた。
「このように部屋に魚など並べて、どうしようというのだ。ハッ、妾もいるというのに、すぐに腐ってしまうぞ」
魃様は鼻で皮肉げに笑った。
確かに、魃様が部屋に現れてから気温が上がった。だけど、以前と比べ、まだ平静でいられる暑さだ。身体から発せられる熱を完全に止めることはできないのだろうが、きっとできる限り調整してくれているのだろう。
(この素直じゃない感じ……どこかで覚えがある)
白瑞宮にやって来る、とある充媛と似た波動を感じる。ツンデレという名のアレ。
「そこはご安心を。腐らないように処理済みですので」
魚は腹開きにして内臓を取り除き、一時間くらい塩水に浸けてある。塩水で身の中にある余分な水分を抜くことによって、魚が腐りにくくなるのだ。そして、水分が抜けることで魚のうま味がギュッと濃縮される。
つまり、この部屋は何かと言うと……。
「なので! 魃様には、ここで思う存分、その力を発揮していただきたいのです!」
「はぁっ!?」
そう、ここは干物作製部屋なのである!
すっとんきょうな声を上げた魃様は、目を猫のような吊り上がった目を瞬かせ、足元にいた白ちゃんに目配せをしていた。組んでいた腕は解かれ、困惑を表すように胸の前で手が何もない宙空をにぎにぎしている。
きっと『正気か、この人間は!?』って、目で言ってるんだろうなあ。隣の白ちゃんを見遣れば、重々しく頷いていた。どういった意味の頷きよ、それ……。
「つまり、魚の干物と野菜チップスを作ってほしいんです」
「魚の干物!? や、野菜ちっぷす!?」
「魃様の力って、実はとってもすごいんですよ! 超ありがたい力なんです!」
「あっ! こ、こら、お主……っ!」
私は感情を抑えられなくて、ズカズカと魃様へと近寄り、胸元で所在なさげだった彼女の手をギュッと両手で握った。
「ひぇッ」と、魃様が小さな悲鳴を上げる。
「日照りってことは、乾燥ってことですよね。その力、確かに農業とかには向かない力ですけど、場所を変えたら滅茶苦茶重宝するし、ありがたい力なんですよ」
「わ、妾のこの力がか……?」
魃様は半信半疑といった様子だった。
よく考えたら、王宮の料理で魚の干物が出たためしがない。
もしかすると、大量の魚が揚がる港町には保存方法として干物は存在するのかもしれないが、それが王都――というより、王宮までは伝わっていないと思われた。
王宮の人達には上等なものを、新鮮なものを、と考えるのが世の常だ。だとすると、魚を半日くらい干して作る干物は、王宮の食事に出ないのも頷けた。
(干物、美味しいんだけどね)
まあ、しかしそこは、これから干物の美味しさを伝えれていけばいい。そして、伝えるにためにも、まず美味しい干物が必要不可欠なのだ。
「本当は、天日干しにして作るんですけど、鳥に狙われたり、太陽の具合によっては上手く水分が抜けなかったりと、ちょっと大変なんですよ」
この世界には野鳥防護ネットとかないし。
「新鮮な魚は干物にすれば日持ちしますし、より美味しくなります。野菜チップスなんて、片手でいつでもお手軽に栄養補給できるし、小腹が空いたときのおやつにも良いんですよ。この二つが作れるだけでも、うんと食生活が豊かになります!」
野菜チップスなんて作ったら絶対手放せない。多分、袖の中に入れてずっと持ち歩く。
あ、そうだ。たくさん作ったら鵬姜様にも差し入れしよう。また、食事抜いてたら危ないし。
「これは魃様にしか頼めないことなんです」
「……妾にしか……」
チラッと魃様が白ちゃんを見た。
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