こんなの接待だ!
『岩屋の中で、魃は大人しく座っておった。魃の力ならば、岩屋など砂に変えて逃げ出せただろうに、あやつはそうせんかった。幼い魃は、自分でも力の使い方が未熟ということを知っていて、そんな自分が人間の世界にいては迷惑をかけるからと、封印されることを受け入れていた。あやつは、自分を封印した父親を少しも恨んではおらんかったのだよ』
彼女が気に掛けていたのは、きっと人間だけじゃない。だって、梅さんが白瑞宮にいるってわかった時、魃様は枯らしてしまうからと、神様にも、地面に咲く一輪の花にも愛を向けていたんだもの。
『ただの人間であった父親はとうに亡くなっていてな。ワシが魃を天上に来るようにと迎えたのじゃ』
『魃様が、白ちゃんにあんなに懐いてる理由が分かった気がする』
まるで幼い子供のように白ちゃんに甘える姿は、父親にわがままを言う娘の姿そっくりだ。きっと、助け出して新しい世界に連れてきてくれた白ちゃんは、魃様にとって望んだ父親像そのものだったのだろう。
その後、天上世界でかつて戦った神様――雨の神様である雨師と出会い、色々とあってくっついたのだとか。
「魃は根は良い子なのだ。ただ、人間との間にそういった過去があるから、どうしても距離をとろうとしてしまう。まあ、距離のとり方が下手くそすぎるがの」
「近付くなって怒るもんね」
「自分でもどうしていいかわからぬのよ。人間を嫌いだと割り切れたら楽だろうに、半分は自分にも人間の血が流れておる。だったらと人間を愛そうとしても、自分の存在は人間には害になる。生き方が未だにわからぬのだよ。長い時間で力の調整もできるようになったし、雨師と一緒になってからは随分と落ち着いたが、ワシは未だにあやつが心配でな」
コテン、と白ちゃんは座っていた姿勢のまま横に倒れ、岩場に転がった。
「だから、冬花があやつのために、こうして面白いことを思いついてくれて、ワシは嬉しいのだよ」
「任せて、白ちゃん! 誰だって絶対に誰かの支えになるんだから。それを、魃様にも教えてあげるよ」
「神に教えるとはなんと傲慢な巫女かのう」
「白ちゃんが私を選んだんだからね」
こちらに背を向けているから表情は見えないが、白ちゃんは笑っているのか、寝転がった身体は小さく揺れていた。
「それはそうと、ねえ……」
私は、その小さな背中に疑惑の声を投げかけた。
「なんか釣れすぎるんだけど……白ちゃん何かやったでしょ」
釣れるまで気長に待つ姿勢でいたのに、竿を石で固定して十秒も経たないうちに、当たりを引いた。
やった、ラッキー! だなんて喜んだのも束の間。
釣れた魚を魚籠に入れ、ミミズを再び針につけて第二投。その五秒後。竿を置く暇なく魚が釣れていた。さすが穴場だ! なんて感心していられたのもここまでだった。
針を投げたら次の瞬間には魚が食らいつく、というのが延々と続いていた。今この時も!
「さすがにこれは異常だって!」
海面を見てみると、バチャバチャと小さな飛沫が上がっている。目を凝らすと、その飛沫は餌を求める鯉のように、群れをなした魚達が海面で口をパクパクしているものだった。
魚が針を待っていた。
「嘘でしょ!? ねえ、白ちゃんってば!」
「……少し……海の神に場所を借りるぞと挨拶しただけなのだが……」
「さっきのアレか!」
何をずっと海の中を眺めているかと思えば。
「接待が過ぎるよ!」
もう魚籠には入りきらず、さっきからずっとキャッチ&リリースしまくっていた。リリースした端から、また釣り針めがけて突進してくるから手に負えない。針を海につけまいとしても、トビウオのようなジャンプで自ら食らいつきに来る。
「やー! 超常現象!?」
「ス、スマヌ……」
「もうっ、自分の立場考えてよね神様! はい、おーわりっ!」
私は魚達の隙を突いて(隙を突いてって何? 自分で言ってて意味わかんない)、糸を回収し魚籠も引き上げた。
「……釣って魚籠に入れた数より増えてる気がする……」
「おぉ……直接飛び込んだ勢がいるようじゃな」
これには白ちゃんもおののいていた。
心なしか、魚籠に入っている魚達が誇らしそうな顔をしているように見えた。
◆
「ようこそ、魃様!」
「せっかく天上へと帰ってやったというのに、わざわざ白澤様を使ってまでこの妾を呼ぶとは……。この人間は、この間の暑さで頭がやられてしまったのか」
「突拍子もないことをするのは冬花の通常だ。気にするな、魃」
釣りから帰ってきてすぐ、白ちゃんに魃様を呼んできてもらった。




