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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
五品目:梅仕事とくるくるクレープ

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大丈夫? 生きてけそう?

 新しい白瑞宮の住人となった菜明さいめい

 今まで勤めてくれていた分、屋敷内部の説明は不要で、彼女がこれから使用する私室のみを案内する。

 菜明の私室は、私が住む白瑞宮で一番大きな正殿せいでんではなく、柱廊ちゅうろうで繋がった側殿そくでん。宮女は数人で一部屋を使うものだったようで、個室を見て「このような素晴らしい部屋を……っ」と声を詰まらせていた。


 さて、問題はこの後だ。

 白瑞宮に住む上で、一番大切なことを説明しなければならない。

 部屋の案内も終え、正殿にあるいつもの広間。


 私は、菜明が淹れてくれたお茶をすすりながら、「大丈夫かな~」などと一抹の不安を抱えていた。しかし、これから毎日一緒にいるのだ。伝えなければ生活に支障が出る。

 私は足元にずっとついて回っていた白ちゃんを抱きかかえ、菜明の顔の前に白ちゃんを押し出した。


「この白ちゃんだけどね、本名は白澤はくたくって言うんだ」

「左様でござい……………はい?」


 うん。実に漫画みたいな反応をありがとう。

 口を震わせ、動揺で全身を揺らす菜明。擬音をつけるのなら『あわわ』と言ったところか。


「は、白澤という名は……あの、あの、まさか神の白澤様……ということではありませんよね? ま、まさかそんな、神様が子牛の御姿をしているわけ――」

「ワシが白澤だが」


 白ちゃんが、『よっ』とばかりに短い前足を上げる。


「しゃしゃしゃしゃ喋ったあああああ! 今、白ちゃんさんが喋りましたよね!?」


 見たこともないような取り乱し方をする菜明。

 動物が喋るというのが日常茶飯事になっている私にとって珍しいことではないが、よく考えれば動物は喋らない。初手でこの世界が地獄と思っていた私は、でっかい犬が喋ろうと気にも留めなかったが、多分これが普通の反応だ。


「神だからな」

「ぁああはえかおぃあ!? わわわ私ったら、今まで白澤様を白ちゃんさんなどと間抜けな呼び方をして、なんという無礼を! すぐに死んでお詫びいたします!」

(いさぎよ)すぎ。大げさだよ、菜明は」


 予想を超えた菜明の取り乱し方に思わず笑いが漏れる。


「笑い事ではありませんよ、冬花様!」

「うむ。今まで通り、白ちゃんさんでいいぞ」

「ッアアアアアア! 以前の私の馬鹿ァッ!」


 菜明はすっかり頭を抱えて、床でうなだれていた。






 しばらく塞ぎ込んでいた菜明だったが、やっと自分の中で状況を咀嚼できたようで、ゆっくりと立ち上がった。

 顔色がちょっとばかし青かったが、そのうち戻るだろう。

 それよりも、ブツブツと床に向かって高速で何かを呟き続けているのは怖かった。念仏でも唱えてるかと思った。


「さて、それじゃあ、他の神様も紹介するね」

「他にもいらっしゃったんですね。もし無礼を働いていたら、今後は息を止めて生きていきます」

「あ、まだ咀嚼できてないみたいだね」


 すごく矛盾した決意をしていた。息止めたら死ぬよ。


 まあまあとなだめつつやって来た裏庭。

 ここには、畑と梅の木がある。


「梅さん、菜明が正式に侍女になってくれたよ」


 私は梅の木に向かって声を掛けた。端から見たら変な人に見えるんだろうなあ。


「この者にならば姿を見せても大丈夫だろう。梅花精よ、出てきても良いぞ」


 白ちゃんの声に反応したかのように、風に梅の香りが混ざった。


「まあ、そのようなことに。喜ばしいことですわ。これでやっとわたくしも会えますもの」


 何もない空間から柔らかな声が響いてきた次の瞬間、ふわりと宙から梅さんが舞い降りる。ひらひらと花びらのように軽やかに衣装を翻して微笑顔で佇む姿は、花の精の名にふさわしい優雅さだ。

 菜明は今にも消え入りそうな声で「お美しい……っ」と、感動に声を震わせていた。


 梅さんはやっと会えたことが余程嬉しいのか、菜明の手を取ると、ぶんぶんと上下に揺らしていた。花精だからだろうか。梅さんの周りにポコポコと季節外れの梅の花が咲いては散っていた。彼女の感情を模したようなピンク色の花。きっと嬉しいと出るのだろう。


 対して、菜明はと言うと、今にも湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして、話しかける梅さんに対してひたすら頷いていた。

 目の前にド美人が来たら、誰だって水飲み鳥みたいになるよね。


「はい、じゃあもう一人」

「まだいらっしゃるんですか!?」


 そう、けっこう白瑞宮には神様が住んでるんだよね。よく一ヶ月隠し通せたなと思う。

月兎げっとー」と名前を呼べば、正殿のほうから、白い饅頭が小走りでテテテテとやって来る。


「ヨビー?」

「いつ見てもどの角度でも可愛いねぇ、月兎は!」


 両手で掬うようにして抱き上げ、小さな顔に頬ずりをする。

 足元にいた白ちゃんが脛に頭突きしてきた。痛っ、イタタタタタ。嫉妬か?


「子兎!? とっても子兎です! 喋っているということは、ままままままさかこちらも……!?」

「そのまさか。こちら、裏庭薬草畑の管理神でもある月兎さんです。特技は、あざと可愛いことでーす」


 月兎に、菜明が今日から正式な侍女になって、白瑞宮の住人になったことを伝える。


「メー?」

「なんですか! 羊さんのお真似ですか!? 兎さんなのに羊さんですか!? もう可愛いが渋滞しております!」

「いや、多分菜明の名前を呼んでるだけだと……。月兎は喋るのがあんまり上手くないからね」

「あーもう今日から私はメーです。ただのメーです。羊です。神々が棲まう極楽世界にお邪魔させたいただいたただの畜生です」


 すごい早口。

 ボソリと「ワシも可愛いぞ」とほのかな嫉妬心を見せる白ちゃんに、また菜明はキャアと悶えていた。大丈夫かな。これが日常なんだけど、白瑞宮で生きていけるかな。




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