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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
四品目:万能な卵料理はいかがですか

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これが噂の後宮妃!?

「乙女の部屋を覗くだなんて無礼な変態ですよ、冬長官」

「礼儀正しい変態がいるか気になるところだが……まず俺は変態ではない。表で声を掛けても返事がなかったからだ。それに、扉を開いて見せていたのはお前ではないか」

「ひ、人を露出狂みたいに……っ」

「ハハッ、覗かれて困ることもあるまい。お前の露出を見ようが、俺はこれっぽっちも欲情しないから安心しろ」

「相変わらず無礼千万だし、されても困りますね」


 それ以前に、彼は宦官だし。


「それで、こんな朝から何か用ですか?」


 急ぎ……というわけではなさそうだ。慌てた様子もないし。


「お前がちょうど手にしているソレについて、ちょっとな」


 冬長官は私の手元――侍女候補の書類を指さした。


「ちょうど良かったです。実は私もその件で伝えたいことがあったので……」


 書類に目を落としていると、視界に菜明の手が入ってきた。

 彼女の手は、ひょいっと私の膝の上にいた白ちゃんを抱き上げていく。


「モッ!?」

「それでは、私は洗濯物を宮女に渡してきますね。そろそろ宮の外に来ている頃でしょうから」


 菜明は洗濯物の上に白ちゃんを置いた。


「菜明? どうしたの急に」


 確かに、そろそろ宮女が掃除に来る時間だ。

 侍女(しかも臨時)が菜明しかいない白瑞宮では、屋敷内部の掃除は菜明が担っているが、屋敷の外の庭や廊下の部分は宮女の仕事である。その際、洗濯物も一緒に回収してくれる。

 彼女は仕事をしようとしているだけ。

 なのに、今の彼女からよそよそしさを感じてしまうのは、勘違いだろうか。


「……菜明?」

「なんでもありませんよ、冬花様。同僚を待たせたら悪いと思っただけですから。それに、大事なお話を私が聞くわけにはいきませんから……一時的な侍女ですし」


 菜明は洗濯籠をひょいと抱えた。


「モッ! モーモー!」

「はいはい、白ちゃんさん。冬花様は冬長官と大事なお話がありますから、邪魔しちゃいけませんよ。一緒に洗濯物を届けに行きましょうねえ」

「モッモモモー!」


 人間が嫌いな白ちゃんにとっては、掃除や洗濯やらでぞろぞろと女官がいる場所に行きたくはないのだろう。

 首をぶんぶんと横に振っている。


「それでは、失礼いたしますね」


 しかし、菜明は朗らかな笑顔で「はいはーい」と白ちゃんの嘆きをあしらい、白ちゃん入り洗濯籠を抱えて、そそくさと部屋を出て行ってしまった。



 

        ◆




 翌日。

 小さな円卓で、私は煌びやかな格好をした女の人と向かい合って座っていた。

 彼女は、充媛という位をもつ後宮妃の(ほう)(きょう)様。

 今朝、菜明が出勤する時に一緒に連れてきたのだ。


「そういうわけで、あの飴をすべて私にいただけませんか、巫女様」

「いや、どういうわけですか」


 唐突すぎる切り出し方すぎて、後宮妃相手につい無遠慮につっこんでしまった。

 頭の両側にピンク色の大きな花の髪飾りをつけた彼女は、おそらく私と同じくらいの歳だろう。

 だけど、キュッと尻上がりになった大きな目と堂々とした佇まいは、同年とは思えない堂々とした雰囲気を醸し出していた。

 はじめて後宮妃というものを間近で見るが、なるほど。同じ女でも見とれてしまうくらいに美しい。

 冬長官が「お前にはこれっぽっちも欲情しない」と言った意味がよく分かった。

 後宮妃がフレンチフルコースだとしたら、私は牛丼単品と言ったところかな。


「えっと、あの飴って……もしかして、のど飴のことでしょうか」


 彼女にのど飴をあげた覚えはないのだが、どうして私が持っていると知っているのだろうか。


「そう、それですわ。嗄れた喉もその飴を舐めると、一瞬で良くなると聞きました」

「一瞬は言い過ぎですけど……確かに喉に良い飴ですからね。でも、どうして鵬充媛様は、私がのど飴を持っていると分かったんですか」

「鵬姜で結構ですわ。私、充媛の地位に満足していませんの」

「それは、失礼しました。鵬姜様」


 歯に衣着せぬというか、なかなかにキッパリ言う人だ。


「飴のことですが、うちの宮に出入りしている宮女が話しているのを聞きましたの。菜明という宮女からもらった飴のおかげで、喉の痛みがなくなったと。それで、彼女を訪ねましたら巫女様からいただいたものと言うじゃありませんか」

「なるほど」


 だから、さっきから菜明が後ろで申し訳なさそうに身を小さくしているのか。


(きっと、厄介事を持ってきてすみません……とか思ってるんだろうなあ)


 などと思っていると、スススと菜明が近寄ってきた。


「……申し訳ありません、冬花様。厄介事を持ってきてしまいまして……」


 予想と同じ事を耳元で小声で呟かれ、思わず苦笑が漏れる。

 私は、同じく菜明の耳元に口を寄せた。


「大丈夫だよ。のど飴を分けるくらい構わないし」

「いえ、そういうことではなく……」


「え?」と思った次の瞬間、バンッと目の前でうるさい音が弾けた。



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