裏:兎の畑とは……
夜、いつもならとっくに寝ているはずの時間。
「冬花には気が向いたらと言われましたが、あんなことを言われては気になって眠れませんわ」
裏庭の梅の木の傍らで、梅花精はあくびを噛み殺しながら眠気に耐えていた。
少し離れた裏庭の一角。
土が剥き出しになった場所は、いったいなんの意味があるのだろうか。
「今夜は月に雲がかかっていて、よく見えませんね」
三日月のはずなのだが、今はちょうど雲に隠れてしまって、地上には淡い星明かりしかない。おかげで、奥のほうは薄暗くて見えないのだ。
梅花精は「よいしょ」と腰を上げ、そろそろと一角へと近付いていく。
以前は掛けられた呪いのせいであの場所に留められていたが、本来であれば自由にどこへでも行くことができる。
「こういう時、夜鳥の目が羨ましくなります」
友人の神の名をつぶやきながら、目を凝らす。
草をはいだだけかと思っていたが、よく見てみると土の表面は柔らかく耕されている。
「畑……でしょうか。でも、後宮の宮の中に?」
冬花が農作業をしている姿を見たことはないが。
「ん? 何か音が……」
耳を澄ましてみると、畑の奥――暗闇の中からサクッサクッという奇妙な音が聞こえてくる。
暗闇の中、ぼんやりと白いものが浮かび上がった。さらに目を凝らして見つめていると。
「え」
雲間から月が顔を出し、暗闇が照らし出された。
「ダ……レ……」
表れたのは、月光を受けて光る二つの真っ赤な目をした白い何か。
何かの手には、ギラリと鈍色に輝く得物が握られ、振り上げられている。
「き――っ! きゃああああああッ! 妖魔あああああ!」
梅花精は半泣きになりながら梅の木へと逃げ帰った。
そんな梅花精を、鍬で土を耕していた月兎はキョトンとして眺めていた。
「ヨーマ?」
そして、また何事もなかったかのように作業へと戻る。
籠の中から取り出した種を、耕した土へと撒いていく。
「オッキクナレー」
ここは、月兎の薬草園であった。
翌日、泣きながら怖かったと訴える梅花精に、冬花が笑いながら畑と白い妖魔の正体を教えれば、彼女は顔を真っ赤にしてしばらく梅の木の中に引きこもってしまった。
明日からは一日二話投稿となります。よろしくお願いいたします。
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