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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
三品目:ハーブティーは万能薬ですので

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だから、深夜食堂じゃないって!

「んもぉぉぉぉぉっ! いつ見ても可愛いなあ、月兎げっとってば!!」


 白饅頭は両手サイズの白兎に変身した。

 白ちゃんより二回りは小さいし、くりっくりの真っ赤なお目々に見つめられると、庇護欲が爆発しそうになる。

 一方、冬長官は目を瞬かせていた。


「こ、この子兎はもしや……」

「月兎って言う神様ですよ。薬草とかに詳しくて、背中の籠の中にたくさん入ってるんです。冬長官は見るの初めてでした? 実は、最初からずっと一緒に住んでたんですけど」

「いや……気付かなかった」


 白瑞宮に住むことになって、白ちゃんに「ワシの眷属だし、役に立つだろうから一緒に住まわせても良いだろうか」と聞かれ、その愛くるしい見た目に瞬殺されて即座に頷いた。

 しかし、どうやら月兎は夜行性のようで、日中は人目の付かない場所で眠っていることがほとんどだ。

 寝床が天井の梁の上で、白澤図を使わなくてもこうして呼べばすぐに来てくれる。


「起こしてごめんね、月兎。ちょっとお願いがあって」

「イーヨー」


 可愛い上に優しいだなんて涙出そう。

 すると月兎は、この場に私以外の人間がいることにやっと気付いたようだ。


「ダレ」


 冬長官を見るなり不躾な言葉が飛ぶ。

 きっと宮女が口にしていたら、鬼の内侍長官が顔を出していただろうが、相手は神様だ。


「冬雷宗と申します、月兎様」


 どんなに小さくて愛くるしくても、神は神。

 冬長官は拱手して、皇帝を前にした時と同じように、月兎に対して恭しく頭を下げていた。

 そんな彼を見て、月兎はコテンと頭を傾げる。


「ライソー?」

「かわ――っ!」


 何か聞こえた。

 冬長官は漏れ出た本音を隠すように、バチンと勢いよく口元を隠していたが、手遅れと思う。白ちゃんに対する態度といい、顔に似合わずもしや可愛い物好きなのでは。

 しかし、思わず可愛いと言いたくなる気持ちも分かる。

 モッモッと動く口から出る言葉は、妙にたどたどしくて、まるでやっと喋りはじめた子供のようなのだ。


 見た目は癒やしの結晶だし、籠を背負っている姿も素朴で素敵なのだ。

 思わず籠にお布施を入れたくなる。

 入れようとしたら「メッ!」と怒られたから入れないけど。


「月兎、悪いけど薄荷と麝香草お願いしていい?」


 月兎はコクンと頷くと、背中の籠を下ろした。

 籠に頭から突っ込んで、もぞもぞと中を探っている。


「アイ!」


 両手に薄荷と麝香草を持って籠から出てきた月兎が、達成感に満ちた声を上げる。


「ありがとう、月兎。本当よくできた子だねえ。ご褒美になでなでしてあげる!」


 月兎の小さな頭を長い耳ごと、ワシャワシャと撫でる。

 はぁ、耳のうぶ毛気持ちいい。

 こちらを羨ましそうに見ている冬長官には、月兎ではなく月兎が手にしていた薬草を渡した。


「……これが、さっき言っていた薄荷と麝香草か?」

「ええ。どちらも炎症を抑えたり、喉の悪化を防いだりしてくれるんですよ。私は毎日水にそれらを入れたものを飲んでますね」

「ああ、だからお前は平気そうなんだな」

「予防バッチリです」


 月兎に出してもらった薬草を使用しているんだし、ある意味、神の加護と言える。

 それにしても、その小さな籠にいったい何がどれだけ入っているのか。籠の容量よりも、はるかに多い薬草を出してもらったこともある。

 神様の道具だし、不思議も当たり前なのかもしれない。


「じゃあ、俺もこれからは、水にこの草を浸したものを飲めば良いってことだな」

「冬長官は、喉の痛みがなくなるまでは水じゃなくて、お茶に入れて飲んでください。冷たい飲み物は喉にあまりよろしくないですから」

「そうか、分かった。助かった」

「なくなったら、来てください。また月兎に出してもらいますから」


 冬長官は薬草を袖の中にしまい込むと(長袍の袖って便利)、月兎に向かって深々と礼をして席を立った。


「それじゃあ、資料には目を通しておいてくれ。また改めて、どれを侍女にするのか聞きに来るから」

「はーい。できれば深夜じゃなくて、節度ある時間帯に来てくださいね」

「…………チッ」


 舌打ちした!? 舌打ちしたよね!

 こっちに背を向けていたけど、しっかりと聞こえたから!

 どうせ、夜食を食べるちょうど良い口実だとでも考えていたのだろう。


「まあ……食事できるようになったら、喉も治ったってことだろうし、ちょうど良い目安にはなるかもね。ね、月兎――ってあれ?」


 気付いたら、月兎はいなくなっていた。


「夜に動き回ってるし、またどこかへ寝に行ったのかな」


 どこに向かって言うでもなく、私は「ありがとう」と呟いて、冬長官が置いていった書類を手に取った。


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