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【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
三品目:ハーブティーは万能薬ですので

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こちらが(可愛さが)最強種の神様です!

「ゴホッ、ゴホッ――! あー、ということでひとまずこれが侍女候補で……ゴホッ!」


 冬長官が今後の私の生活についての話をしてくれているのだが、酷すぎる咳のせいで何も頭に入ってこない。


「あの、冬長官……大丈夫ですか?」

「ああ、大丈――ゴホンッ――大丈夫だ」


 全然大丈夫に見えないんですけど。


「ちょっと喉をやっただけだ。季節の変わり目は大抵こうなる。気にするな」

「無理。気になりますって」


 言葉を頻繁に遮ってくる咳の存在感は、さすがに見逃せないって。

 そう言えば、菜明も同じように咳き込んでいた。


「もしかして、後宮では風邪が流行ってるんじゃないですか。菜明も同じような咳をしてましたし」


 風邪ならまだマシだけど、もし、インフルとかだったら勘弁してほしい。

 ワクチンとか抗生物質とか、この世界にはなさそうだし。

 かかったら最後、現代(温室)育ちのこの身体では耐えられないかもしれない。


「清槐皇国では、夏に入る前に乾燥した日が続くんだ。だから今の時期、咳をする者は珍しくないな」

「嫌な風物詩ですね……」


 咳で季節の変化を知るとか……。もうちょっと風流なもので知ってほしい。


「そういえば、お前は平気なのか? やはり、白澤様の加護のおかげか」

「白ちゃんの力は知識であって加護とかはないですよ」


 多分。白ちゃんについては謎なことのほうが多い。

 彼からの説明では、全知全能さにかけては右に出る者はいないが、知識を使って実践となるとそこは別問題だと言っていた。

 神様にも色々と領分があるらしく、どこの世界も面倒なんだなと思った覚えがある。


「まあ、でも、ある意味神様の加護って言えないこともないか……」

「やはりか。ずるいぞ」


 冬長官が、瞼を重くして羨ましいとばかりに見てくる。


「冬長官にもその加護を与えることはできますよ」

「何っ、本当か! 毎年、この煩わしい咳のせいで仕事効率が下がって困るんだ。どうにかなるのなら頼む!」

「動機がおかしいですね」


 ワーカホリックめ。

 冬長官に関しては、年中咳をしていたほうが健康になれるのではと思ってしまった。

 どうしようかと、ちょっと悩む。

 しかしこの人の場合、『効率が下がったなら倍働けば良いだけだ』とか言い出しそうな危うさがある。


「俺は仕事以外にこれといった趣味もないし、これが生き甲斐だからな」


 宦官だからなのかもしれない。恋人探しや家族のために時間を割くということがないと思えば、確かに仕事が全てになるのだろう。

 生き甲斐とまで言う仕事に支障が出るのなら、どうにかしてやらなければ。

 仕事に仕方はもう少し考えてほしいが。


「……分かりました」


 冬長官の顔が輝いた。






 卓に置いたお茶を見て、冬長官は怪訝な顔をした。


「茶か?」

「ええ、お茶ですね」


 お茶からは湯気が立っている。


「これが加護か? 俺にはいつも飲んでいる茶と変わらなく見えるのだが」

「まあまあ、飲んでみてくださいよ」


 冬長官はお茶と私との間で、疑わしげな視線を往復させつつも、勧める私の言葉に従ってゴクッとひと口飲んだ。

「おっ」とばかりに、冬長官の目が僅かに見開く。


「……飲みやすい……」


 ボソリと呟くと、冬長官はそのまま顔を上向けて、あっという間にお茶を飲み干してしまった。


「茶を飲むでも喉が痛くて、あまり飲まないようにしていたんだが。こんなに飲んだのは久々だな」

「喉が痛くても水分はしっかり取ってくださいよ。倒れますって」


 おかわりとばかりにしれっと差し出された茶器に、お茶を注ぎながら注意する。

 おかわりのお茶も、あっという間に空になった。


「それにしても、茶の味はいつもと同じだったが、飲んだ後は妙にスッキリするな。飲み込むと時に痛みもないし……何か混ぜたのか?」

「正解です。薄荷とタイムって言う薬草を茶葉に混ぜてるんですよ」

「たいむ?」

「あーえっと、(じゃ)(こう)(そう)ですかね」


 言い直しても、冬長官はピンときていない様子だった。

 分かる分かる。花になんかこれっぽっちも興味なさそうな人だもん。薬草の名前言われたところで、ただの草しか思い浮かばないよね。

 ちなみに、なぜ私がこちらの世界でのタイムの名前を知っているかというと、全ては白ちゃんの知識のおかげ。さすが、異世界を渡れるほどの全知全能の神様。正直、助かる。ミントが薄荷は分かるけど、タイムが麝香草は無理。


「口で説明するより、実物見せたほうが早いですね」


 私は、天井に向かって声を張り上げた。


月兎(げっと)ーおいでー」


 すると、白くて丸いものが、天井の梁の上から落ちてくる。

 落ちてきた白饅頭を両手でキャッチして、卓の上の置く。重さはほとんどなく、綿をキャッチしたような感じ。

 白饅頭がモゾモゾと動くと、ぴょこんと細長い耳と丸い尻尾が現れる。


「ヨビー?」


子兎、可愛いですよね

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