こちらが(可愛さが)最強種の神様です!
「ゴホッ、ゴホッ――! あー、ということでひとまずこれが侍女候補で……ゴホッ!」
冬長官が今後の私の生活についての話をしてくれているのだが、酷すぎる咳のせいで何も頭に入ってこない。
「あの、冬長官……大丈夫ですか?」
「ああ、大丈――ゴホンッ――大丈夫だ」
全然大丈夫に見えないんですけど。
「ちょっと喉をやっただけだ。季節の変わり目は大抵こうなる。気にするな」
「無理。気になりますって」
言葉を頻繁に遮ってくる咳の存在感は、さすがに見逃せないって。
そう言えば、菜明も同じように咳き込んでいた。
「もしかして、後宮では風邪が流行ってるんじゃないですか。菜明も同じような咳をしてましたし」
風邪ならまだマシだけど、もし、インフルとかだったら勘弁してほしい。
ワクチンとか抗生物質とか、この世界にはなさそうだし。
かかったら最後、現代育ちのこの身体では耐えられないかもしれない。
「清槐皇国では、夏に入る前に乾燥した日が続くんだ。だから今の時期、咳をする者は珍しくないな」
「嫌な風物詩ですね……」
咳で季節の変化を知るとか……。もうちょっと風流なもので知ってほしい。
「そういえば、お前は平気なのか? やはり、白澤様の加護のおかげか」
「白ちゃんの力は知識であって加護とかはないですよ」
多分。白ちゃんについては謎なことのほうが多い。
彼からの説明では、全知全能さにかけては右に出る者はいないが、知識を使って実践となるとそこは別問題だと言っていた。
神様にも色々と領分があるらしく、どこの世界も面倒なんだなと思った覚えがある。
「まあ、でも、ある意味神様の加護って言えないこともないか……」
「やはりか。ずるいぞ」
冬長官が、瞼を重くして羨ましいとばかりに見てくる。
「冬長官にもその加護を与えることはできますよ」
「何っ、本当か! 毎年、この煩わしい咳のせいで仕事効率が下がって困るんだ。どうにかなるのなら頼む!」
「動機がおかしいですね」
ワーカホリックめ。
冬長官に関しては、年中咳をしていたほうが健康になれるのではと思ってしまった。
どうしようかと、ちょっと悩む。
しかしこの人の場合、『効率が下がったなら倍働けば良いだけだ』とか言い出しそうな危うさがある。
「俺は仕事以外にこれといった趣味もないし、これが生き甲斐だからな」
宦官だからなのかもしれない。恋人探しや家族のために時間を割くということがないと思えば、確かに仕事が全てになるのだろう。
生き甲斐とまで言う仕事に支障が出るのなら、どうにかしてやらなければ。
仕事に仕方はもう少し考えてほしいが。
「……分かりました」
冬長官の顔が輝いた。
卓に置いたお茶を見て、冬長官は怪訝な顔をした。
「茶か?」
「ええ、お茶ですね」
お茶からは湯気が立っている。
「これが加護か? 俺にはいつも飲んでいる茶と変わらなく見えるのだが」
「まあまあ、飲んでみてくださいよ」
冬長官はお茶と私との間で、疑わしげな視線を往復させつつも、勧める私の言葉に従ってゴクッとひと口飲んだ。
「おっ」とばかりに、冬長官の目が僅かに見開く。
「……飲みやすい……」
ボソリと呟くと、冬長官はそのまま顔を上向けて、あっという間にお茶を飲み干してしまった。
「茶を飲むでも喉が痛くて、あまり飲まないようにしていたんだが。こんなに飲んだのは久々だな」
「喉が痛くても水分はしっかり取ってくださいよ。倒れますって」
おかわりとばかりにしれっと差し出された茶器に、お茶を注ぎながら注意する。
おかわりのお茶も、あっという間に空になった。
「それにしても、茶の味はいつもと同じだったが、飲んだ後は妙にスッキリするな。飲み込むと時に痛みもないし……何か混ぜたのか?」
「正解です。薄荷とタイムって言う薬草を茶葉に混ぜてるんですよ」
「たいむ?」
「あーえっと、麝香草ですかね」
言い直しても、冬長官はピンときていない様子だった。
分かる分かる。花になんかこれっぽっちも興味なさそうな人だもん。薬草の名前言われたところで、ただの草しか思い浮かばないよね。
ちなみに、なぜ私がこちらの世界でのタイムの名前を知っているかというと、全ては白ちゃんの知識のおかげ。さすが、異世界を渡れるほどの全知全能の神様。正直、助かる。ミントが薄荷は分かるけど、タイムが麝香草は無理。
「口で説明するより、実物見せたほうが早いですね」
私は、天井に向かって声を張り上げた。
「月兎ーおいでー」
すると、白くて丸いものが、天井の梁の上から落ちてくる。
落ちてきた白饅頭を両手でキャッチして、卓の上の置く。重さはほとんどなく、綿をキャッチしたような感じ。
白饅頭がモゾモゾと動くと、ぴょこんと細長い耳と丸い尻尾が現れる。
「ヨビー?」
子兎、可愛いですよね




