表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白瑞宮のお料理番~異世界の神様と飯テロスローライフを満喫する~  作者: 巻村 螢
幕間:花の精『梅花精』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/54

梅の種にはご用心!

「ここは神に見捨てられた国だからな。花精に見捨てられても、誰も不思議とは思わないのさ」


 冬長官は諦めたような顔して鼻で笑っていた。


(そう言えば、陛下も神去りの国だとか言ってた気が……神去りって、神様が国を見捨てたって意味だったの?)


 しかし、その神が見捨てたという意味も、よくは分からない。

 元々、神様なんて祈ったり願ったりはするけど、本当にいるかも分からない、姿も見たことがないあやふやな存在だし。いなくて当たり前というか……。


(私はいたら良いなって思ってたけど)


 もしかしたら、この国の人達にとって神様という存在は、私が思っているよりもずっと重くて、意味が宿る対象なのかもしれない。

 どうしてそんなことに、と口にしたが、梅の木の花精である彼女を見れば、それも致し方なしと思えた。

 ただ、彼女がなぜこんな姿になってしまったのか、それだけが分からない。


「お願いします。どうか我が身にかけられた呪いを解いてくださいませ……っ」




        ◆



 

 梅花精さんが言うには、この廃宮がまだ妃嬪の宮として使われていた頃、侍女が主人である妃を殺めるという事件が起きたという。

 冬長官が教えてくれた、廃宮になった理由の事件と同じだろう。

 その殺しの道具に、この梅が使われたのだという。


「梅の木で殺害とは……枝から木刀でも作ったのか」


 冬長官は分からない様子だったが、私はどうやって梅が使われたのか、すぐに分かった。


「侍女は梅の実を使ったんですね」

「実? そういえば、梅の木には花の後に実がなると読んだ覚えがあるな」


 冬長官が首を傾げた。


「ただ、熟していない実には毒が含まれてるんです。少しであれば実は食べても問題はないんですが、種の中にあるじんを食べるとまずいです」

「仁?」

「白くて、柔らかい芽みたいなやつです。それには実の何倍もの毒が含まれているんで、片手分食べただけで中毒症状が出ます」

「ほう、どのような」

「頭痛や吐き気、意識混濁……最悪だと死にいたります」


 仁は梅だけではなくビワや桃、よく杏仁豆腐で知られている杏の種にもある。

 少量であれば生薬や、杏仁豆腐などといった料理の風味付けにも使用されるが、量を間違えれば一瞬にして毒となる。

 梅花精さんは、何度も頷いていた。


「毒として使われてしまったわたくしは、その後、宮廷術師の方によって、二度と芽吹かぬようにと呪いを掛けられてしまったのです……っ」


 確かに、彼女の半身を覆う煤は、病気というより呪いのようだ。


「わたくし達花精は、花を咲かせてこそなのです。何度も宮の近くを通りかかる者に声をかけたのですが、誰も私に気付いてくれず」


 そりゃ、怨霊がいると言われている廃宮から女の人の声がしたら怖い。

 内容など気にせず、普通は一目散に走って逃げるだろう。

 今回は、たまたま精神力が普通ではない男が通りかかったわけで。

 チラと隣を見上げれば、普通ではない男は難しい顔をして唸っていた。


「解いて差し上げたいのは山々なのですが、宮廷術師の呪いを解くなど、並大抵の者には不可能です。しかも数代前の者が掛けた術となると、同じ宮廷術師にも解けるかどうか……」

「冬長官、その宮廷術士ってなんですか?」

「大地に流れる地脈という自然の力を借りて術を施す者の中で、王宮所属の者を言う。主に祈祷や封印、厄払いなどが仕事だが、時に人を呪うために使う馬鹿もいるから注意だな」


 日本で言うと、昔の陰陽師みたいなものか。


「へえ、すごい人達なんですね」

「まあ……地脈の力を借りるには素質が必要だし、使いこなすにも相応の鍛錬がいるからすごいと言えばすごいが……あいつらはもっぱら矜持が馬鹿高いからな。頼んだら、後宮(こっち)にも口出ししてきそうだ。本当、自然から力を借りているだけのクセして、なんであんなに偉そうなんだ。だから嫌いなんだ。クソッ、この間も――」


 珍しく本気でイライラしている。

 舌打ちまでして、余程宮廷術士が嫌いな様子。


「まさか梅の木が枯れ続けているのに、こんな理由があったなんてですね」

「なんとかしたいものだが……俺は力なら多少あるが、術に関する知識は持ち得ないし」


 ピンときた。


「つまり、知識があればいけるってことですよね」

「何か良い案でも」


 冬長官が目だけでこちらを見下ろす。声には期待が滲んでいる。

 都合良い問題解決係にされているような気もする。

 しかし、梅花精さんを救えるのならやぶさかではない。

 私は冬長官に目で頷いたあと、両手を開いて呟いた。


「白澤図」


 たちまち、手の中に金糸の文様が美しい本が出現する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ