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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー短編集

猫の村

作者: うなぎ358



 日本の片隅に、ひっそりと存在する人口数十人の小さな村。右を見ても左を見ても前にも後ろにも、なんなら足元にも猫たちが擦り寄って尻尾を絡めてくる。五百匹以上はいるだろう猫だらけの、猫又村では奇妙な出来事が一年に一度ある。


 一見すると農作業をする老夫婦がいたり、杖をついて猫たちと散歩をする白髪のお爺さんがいたりするだけの平和で穏やかな風景が広がっているだけだ。中央にある一番大きな十字路で、人間が消えて猫が増えると言う噂があるのだ。


 決まって毎年、二月二十二日、深夜二時二十二分、中央にある一番大きな十字路で起こる。




 その日の俺は一方的に仕事を解雇された挙句、同僚たちから送別会だと言って、どうでもいい飲み会に付き合わされた。しかも宴会に付き物の微妙なゲームに負け飲み代まで払わされて散々だった訳だ。なので無性にイライラモヤモヤしていた。


 フラフラした足取りで空を見る。


 既に夜の闇は去り、薄らぼんやりと雲の隙間から光が差しこみ始める。


 このまま家に帰りたくないと思ってしまった。


 だから何となくで、新幹線に乗って電車に乗り換え更にバスで終点の猫又村までやってきたのだ。


 そして迷う事なく件の十字路の真ん中に立つ。


 所詮は噂だ。


 人が消えるなんてあり得ない。


 もし本当に人が消えたらニュースになってしまう。けど消えたなんてニュースは聞いた事が無い。


 そんなふうに思いながら、スマホを尻ポケットから出して時間を確認。


 カウントする。


 三……二……一……


 ゼロ。


 深夜二時二十二分ピッタリ。十字路の中央に突然、艶やかな銀色の毛並みの猫が現れた。


 いや尻尾が二本あるので、もしかして猫又なのか? 


 まぁ。かなり酔っている自覚があるし幻を見ているだけかもしれないが、美しい銀色の猫又は俺を透きとおったビー玉ような青い瞳で見つめてきた。


 そして”ついて来い”とでも言うかのように尻尾をフリフリ揺らすと、ある筈の無い五本目の道が現れ奥へと走って行く。おいて行かれないように早足で後を追うと、大きな広場で猫たちが楽しそうに酒を飲み魚を食べながら宴会をしているではないか。


 銀色の猫又が広場の真ん中に座ると、猫たちは酒と魚を地面に置いて円陣を組み踊りだす。


 にゃんにゃんにゃん!


 手を振り足でリズムをとって歌いだす。


 あまりにも浮世離れした光景に、最初は腰がひけてしまった。けど次第に何かに操られるかのように、俺の足も手も踊りだしダンスの輪に入る。


 ドンチャンドンチャン昼間の嫌な事を忘れて、ドンチャンドンチャン人間関係の煩わしさを忘れて、ドンチャンドンチャン朝までに全てを忘れてドンチャンドンチャン。汗も涙も枯れるまでドンチャンドンチャン。


 気がつけば、いつの間にか俺自身も猫になって楽しく賑やかにドンチャン騒ぎ。


 朝になっても猫のまま。


 次の日になっても、半年経っても猫のまま。


 不意に俺はさみしくなって仲間を増やす為、道行く悩み深き人間に擦り寄り集会へ誘う。


 そして人が、また一人消える。


 何故、こんなに詳しいかだって? そんなのは僕が、元は猫だったからに決まってるじゃないか。

 

 人間が消えたなんてニュースを見た事がないだって? そんなの当たり前だろ。だって”僕はもう俺なんだ”からさ。



 ほら、今宵も宴会が始まるよ。


 


 人生に絶望したなら猫になれば良い。そうすれば”僕たち”が”お前たち”に成り代わって生きていく。


 後悔しても遅い。


 姿も魂も全て僕のモノ。


 だって僕は、もう”俺”の人生を食べちゃったんだからね。他人の不幸は蜜の味と言うけど、絶望の味はとろけるように甘く、この世のモノとは思えない程に美味なのだ。

 

 銀色の猫又が見えたなら、それは僕たちの仲間が呼んでる合図。


 目をつけられたら最後、街から出ても僕たちからは逃げられないよ。


 ふふふ。ふふふ。ふふふふふ。


 だからもしかしたら、お前の隣りにいる親友だと思っている人間も、元は猫だったのかもしれないよ?


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