1.麻痺
この気持ちが何なのか。それを言い表す術を知らない。自分でもよくわからない。それでも、……それだからこそ、なんだかもう、ね。
私の気持ちに関係なく、大嫌いな夏が、迷惑で暑苦しい空気とまとわりつく湿気とを引き連れて、またやってきた。
*
この何とも言えない気分は、3年目も途切れることなく続いている、と思う。感じることもできないほどに感覚が麻痺しているけれど。
高校に入学してからというもの、級友同士探り合ってばかりで、心休まるときなんかなかった。探り合いは3年目、つまり受験生になってから激化した。今日もまた然りだ。ホームルームの済んだ教室ではみんなにこやかに「今日どのくらい勉強するの」「参考書はなにをつかっているの」「私なんか全然やってないよ」なんて言い合っている。ばかばかしい。やっていない、とか何時間、とか。どうでもいいだろう。
頭に軽い頭痛を感じる。またいつものやつだ、こうなると寝付くまで頭の中心がジンジンと痛む。舌打ちをする。そして帰路についた。
私の通う高校は、超が付いてしまうほどの秀才エリート私立高、「星陵学園高等部」。中学三年生の時、ここに入学することを目指した理由はいたってシンプルだ。知り合いが一人もいない学校に入りたかった、それだけ。後になって気付いたけど、この学校は家から近く、通うのには好都合だ。
偏差値は通っている私でさえ怖いくらいに高い。大抵は付属の初等部、中等部とエスカレーターで上ってきた生徒で埋まる高等部に、地元の公立中学からの進学をするモノ好きは一握り。そしてその一握りの中から、約2年半前、たった一人合格したのが私だ。ただ、別にこれは自慢じゃない。私は知り合いから離れたかった、それだけだから。
とにかく、まんまと星陵に潜り込んだ私は今日までの毎日、ひたすらノートを文字で埋め、脳のシワに先生の一言一句を刻みつけることに全力を注いでいた。なにもそれは私に限ったことではない、と思う。星陵高等部に入ったが最後、若さも時間も全部吸い取られてカラカラになるほど勉強せざるを得なくなる。それがいいことなのか悪いことなのか、考える暇も与えられない。わかるかな。私が今、こんなことを考えているってことは既に星陵生にあるまじきことなんだよ。
もっとも、家にいてもそれくらいしかやることがなかった。勉強くらいしか。
つまらない毎日。
消えていく色。
同じことを繰り返すのは苦痛じゃなかった。ただ、苦痛に感じない自分は感覚がおかしいんだろうなと、ぼんやりとおもっていただけ。