46-49
46日曜の夜
美しい言葉を探して歩いていると
美しい女性をみかけた
女性はスマートな足取りで向こうからやってくる
道ですれ違う
それは美しい出来事だったのか
わからないが
一瞬にもスローモーションにもならなかった
ただ離れ際の時間が流れただけ
後ろの気配を感じながら
遠くなっていく気配を気にしながら
振り返ることもせずただ前に歩く
ぼくは歩く孤独で
彼女は美しい
日曜の夜が別れゆく
夜の本のページがめくられる音がした
47深夜0時15分
深夜0時15分
今日と明日の狭間で
すきま風が吹いている
風は今日の方へ明日の方へ
行ったり来たりしてる
風は温度を感じないが
手の指先と足先はつめたい
こころはどっちつかずだ
時が鳥の声になる
深夜に鳴く鳥はいないが
無音で迷いの叫声がする
大事なものと
そうでないものとが
分けられないで
まったりしている
今頃になってのコーヒータイム
頭が言うことを聞かない
考えることがなさすぎて
過去と未来のじぶんに音楽を流した
48お寺
お寺の境内の景色に溶け込んで
作務衣姿のお坊さんが箒で地面を掃いている
雑念も箒で払っているようだ
手際よく掃いている
ガヤガヤと参拝者が通りの順路を歩く
その脇で
お坊さんはやるべきことがそれしかないように
地面と向き合っている
一通り終えて別の場所へと向かうお坊さん
あとに残された者たちに
木々の緑がおおらかに覆い包み込む
やがてひとも去って
詫びた空間に静けさが反響する
静謐は
当初からそこにあった
石ころのようにある
49ハート
オーケストラがはじまる
性格の悪いおしゃべりなバイオリン
自主性がなく相手に合わせるヴィオラ
ひとりよがりなチェロ
怒りっぽくすぐ怒鳴るトランペット
涙を流すやさしいホルン
うっとおしいクラリネット
鏡ばかり見るナルシストなフルート
おっとりしたコントラバス
大声でツッコミをいれたがるチューバ
ツッコまれるのを嫌がっているトロンボーン
誰も期待していない調整役のファゴット
話に割り込んでつまらない話をしだす打楽器
指揮者がゆっくりと登壇した
タクトを握る手があげられると
みな本来の楽器に戻ろうとわらわらだ
タクトが振り下ろされた
壮麗で盛大な音響が室内に鳴り響く
着席していた観衆が一斉に立ち上がり
美しいハーモニーで歌い出す
大合唱 大合唱 大熱唱だ
はーとマークはピンク色