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勇者VS魔王(ただし、全員記憶喪失につき)※漫画原作シナリオ没作品ですがよければ

作者: 西谷 水

ネームシナリオ:勇者VS魔王(ただし全員、記憶喪失につき)

制作日:2023年12月4日

制作者:西谷水


【設定補足】

・人間の国(工業化に成功しており裕福な国)

・魔族の国(工業化しておらず貧しい国だが薬草など資源豊富)

・部下1(かわいい女魔族のメイドさん)

・魔王(勇ましい男魔族)

・勇者(凛々しい女人間)


【シナリオネーム本編】

「」は、台詞。

()は、モノローグ。頭の中の声。


(1p)

・魔王の城を取り囲む人間の兵士たち。魔族の死体が戦場のあちこちに落ちている。

・その様子を見張り台から見ていた部下1の元に手紙が結びつけられた矢が飛んでくる。

・その中身を見た部下1は、

部下1「ま、魔王様に報告しなければ!」

・大慌てで城の中へ戻っていく。


(2p)

・部下1が謁見の間に入ると、魔王が頭から血を流しているにもかかわらず、整然とした様子で玉座に鎮座している。

部下1「た、大変でございますっ! ってえ!」

・盛大にツッコミを入れる部下1。

部下1「なんでそんなにボロボロなんですかっ!?」

魔王 「む……? 気のせいだろう」

部下1「いやいや頭から血が噴き出てますって! 絆創膏、絆創膏!」

・慌てて部下は、魔王の額に絆創膏を張り、

部下1「これでよし……ふう……じゃなくて!」

・再び焦った表情になって魔王に言う。(絆創膏がおでこに)、

部下1「そ、そうだ! 魔王様!」

部下1「ゆ、勇者が!! 魔王様との面会を希望しています!」

魔王 「なんだと!?」

部下1「城門で待機しているようですが、不意打ちの可能性も――」

勇者 「そのような心配はない」


(3p)

・転移魔法で部下の隣に現れた勇者は、凛々しい顔で魔王を見据える。

魔王 「き、貴様は……!」

勇者 「やはり私のことを知っているようだな、魔王」

魔王 「いやすまん。誰だ」

・部下が大慌てで魔王に耳打ちし、頷く魔王。

部下1「勇者ですよ、魔王様!」

魔王 「なるほど。このちび女のことか」

勇者 「ちび……」

部下1「確かにチビで非力そうですけど、僅かに魔人の血を引いているそうです」

・ブちぎれそうになっている勇者に気づき魔王が咳ばらいして、

魔王 「すまない。待たせてしまったようだな」

魔王 「して勇者よ。余との面会を希望とのことだが……」

勇者 「ええ。あなたと話がしたいの、断るのなら」

・剣を抜き、魔王に向ける勇者。それでも落ち着き払った魔王は、

勇者 「ここであなたを斬り捨てる」

魔王 「ほう……大した度胸だ」


(4p)

・勇者としばし睨み合い、

魔王 「よかろう。面会に応じようではないか」

部下1「ま、魔王様、しかし!」

魔王 「よい。余が良いと言っているのだ」

・部下に部屋を出ていくよう指示し、部下が出て行ったのを確かめて、

勇者 「賢明な判断ね。それじゃ――」

魔王 「頭が高い。伏せよ」

勇者 「ぐっ!?」

勇者 (何だこれは! 体が動かない!?)

勇者 (重力魔法なのか!)

・重力の魔法で勇者を跪かせる。魔王は、厳格な表情で勇者を見下ろし、

魔王 「ちょうど良かったのだ。余にも聞きたいことがあってな」

勇者 「な、何だ……!」

・勇者は、額に汗を浮かべながら無理やり笑って魔王を見上げる。

勇者 (このまま、殺されてしまうのか……)

勇者 (また何もできずに終わるのか……私は)

魔王 「どうして」


(5p)

・眉間に皺を寄せた思案顔で魔王は、勇者に問う。

魔王 「どうして魔族と人間は、戦争をしているのだ……?」

勇者 「へ?」

魔王 「いやだから、どうして」

勇者 「聞こえてる」

・困った顔の勇者。魔王は、指パッチンして扉の外に向かって叫ぶ。

魔王 「おい、誰か。机と椅子を用意してくれ」

勇者 「え、えと……」

魔王 「長い話になる……いや短いが聞いてくれ、勇者よ」

勇者 「そ、そんなこと言われても」

・魔王は、決め顔で。

魔王 「余は、記憶喪失なのだ」

魔王 「黙って信じてくれ……!」

勇者 「いや無理だから普通に!」

・部屋に入ってきた部下が爆速で机と椅子を用意し、勇者に座るよう促す。

魔王 「そう答えるだろうことは、余の魔眼をもって予測済みだ」

魔王 「心配せずとも信じるまで説明する」

魔王 「あれは籠城中のことでな……ごにょごにょ」

勇者 「勝手に話し出したし……」


(6p)

・机を一つ挟んで話し合う魔王と勇者。しかし勇者は、胡散臭い話だと思って半信半疑。

勇者 「つまり、階段から落ちて目が覚めたら」

勇者 「自分が魔王ってこと以外憶えてないと」

魔王 「頼む! 余の言うことを信じてくれ!」

・魔王は、身を乗り出して泣き出しそうな顔で勇者を見つめる。

魔王 「このような醜態を部下に明かすわけにはいかんのだ!」

魔王 「なぜ戦っていたのかを、それだけでいいから」

勇者 「そう言われても……ん?」

・呆れていた勇者だったが魔王の首元にある半欠けのペンダントに気が付き、

・魔王の顔をじっと見つめる。

魔王 「どうした? 余の顔に何かついているのか?」

勇者 「……いいや、別に何も。それから」

勇者 「良いわよ。あなたの言うことを信じます」

・魔王は、喜んで顔を綻ばせ、

魔王 「本当か! 恩に着るぞ、勇者よ!」

・一安心した様子で椅子の背もたれに身を投げる魔王。

魔王 「いやー良かった良かった」

魔王 「これで余と人間が争っている理由を思い出せる」

勇者 「ごめん。その話なんだけど」

・勇者が机の上に腰の剣を置き、鎧を外そうとしている。

勇者 「私も知らないの」

魔王 「え? え? なんで?」


(7p)

・鎧を脱ぎ終えた勇者は、決め顔で答え、

勇者 「同じく私も記憶喪失だから」

・思わず寄りかかっていた椅子をひっくり返してしまう魔王。

・再び立ち上がった魔王は、苛立った様子で勇者に詰め寄り、

魔王 「そんな馬鹿な話があるかーっ!」

勇者 「そんな馬鹿な話を最初にしたのは誰よ!?」

魔王 「余だった!」

・勇者は、呆れてため息を吐き、

勇者 「でも残念だけど本当の話よ」

・今朝の城で迎えた朝を回想する。(服や物が散乱する部屋の中で目覚めた勇者は、ベッドから起き上がり、置きっぱなしだった剣に躓く)

勇者 「今朝、床に置いていた勇者の剣に躓いて頭を打ったの」

勇者 「それで目が覚めたら勇者ってこと以外何も憶えてなかったの」

勇者 「だから戦場へ来たのも、上に言われて来ただけ」

・何の手掛かりも得られず、途方に暮れる魔王。

勇者 「ここへ来てあなたと話せば何か分かると思ったけど……」

勇者 「この様子じゃ無駄足だったみたい」

魔王 「トホホ……」


(8p)

・勇者と魔王、二人して椅子にもたれながら天井を見つめる。

勇者 「これからどうするの? 特に恨みはないけど殺し合う?」

魔王 「余に聞くな。何の恨みもない相手を殺す趣味はない」

勇者 「あーそ。じゃあ無理に殺し合わなくても――」

・何かを閃いた魔王は、突然席を立ちあがり、

魔王 「そうだったのか!」

勇者 「と、突然どうしたのよ」

魔王 「殺し合うほどの恨みがあったのだ!」

・少し考えて勇者と閃いた様子で立ち上がり、魔王と手を合わせて喜ぶ。

勇者 「確かにそれだわ! さすが魔王の魔眼ね!」

魔王 「気が付けたのは元より勇者のおかげだ。褒めてつかわすぞ!」

魔王 「思う存分恨み合おうじゃないか! ふはははッ!」

・しかし次第に冷静さを取り戻していった二人は、

・握りあっていた手を離して、

魔王、勇者「で……?」

魔王 「どんな風に恨み合っていたのだ」

勇者 「わ、私に聞かないでよ」

魔王 「言い出しっぺは、貴様であろうが!」


(9p)

・再び天井を眺めながら二人は、

魔王、勇者「はぁぁぁぁぁぁぁあ」

・クソでかため息を漏らし、

魔王 「勇者よ、余たちはいったい――」

勇者 「ぐぅぅうう」

・魔王が話している途中で勇者のお腹が大きな音を立てる。

・顔を真っ赤にしてお腹を押さえた勇者は、

魔王 「くくく……くははははっ!」

・魔王に大笑いされる。

魔王 「でかい音だな。腹を空かせているのか」

勇者 「け、けけ、今朝、バタバタしてご飯食べてなかったの!」

勇者 「そういうこと普通言う!?」

・魔王は、ぱちんと指を鳴らし、

・謁見の間へ入ってきた部下1に言う。

部下1「いかがなさいましたか魔王様!」


(10p)

魔王 「料理と酒をもってきてくれ」

部下1「ははっ!」

勇者 「は?」

・部下1が出て行ったのを見送って魔王は、

勇者 「食事なんかいらないわ。忘れたの? 敵同士なのよ?」

魔王 「警戒せずとも毒など盛るつもりはない。何となく余は思ったのだ」

・優しい表情で勇者を真っすぐに見据える。

魔王 「――どうしようもないときは、笑って食事をすべきだとな」

・それを聞いて勇者は、少しだけ寂しげな表情になる。

勇者 「そう……ね」


(11p)

・テーブルに並べられた大量の料理(ただし肉はない)と酒(ゴブレットに入ってる)を前に目を輝かせる勇者。

勇者 「わぁあ~! 全部美味しそう……!」

魔王 「この食材は、みな薬草にもなるのだ」

魔王 「おまけに味も良い、存分に食せ」

・しかし料理を見ていて肉がないことに気が付いた勇者。

勇者 「あれ、肉料理はないの?」

魔王 「肉料理……? 何だそれは」

勇者 「え? ほら、鶏とか牛の肉よ。食べないの?」

・魔王は、食事をすすめていた手を止めて、

魔王 「人間は、鳥と牛を食うのか?」

勇者 「そうよ。牧場で飼育して肉にするの」

魔王 「なぜそのようなことをする?」

勇者 「な、なんでって生きるために。野菜だけじゃ生きられないでしょ」

魔王 「鳥と牛は美味なのか?」

勇者 「うん……すごく」

・しばし考える。勇者は、魔族との文化の違いに困惑していたが、


(12p)

・魔王が子供のように純粋な目をして、

魔王 「では余も機会があれば食してみたい」

・と言ったため勇者は、拍子抜けしたように吹き出してしまう。

勇者 「あははははっ!」

魔王 「何が面白いのだ?」

勇者 「なっ、なにってっ、あはははっ」

魔王 「はあ? 一体どういう意味だ」

勇者 「だって思っていたよりも純粋なんだもの」

・笑い続ける勇者に少しムッとする魔王。それに構わず勇者は、料理を一つ食べる。

勇者 「んーおいし」

魔王 「ぐぬぬ……余を馬鹿にしているのだな」

勇者 「してないわよ。もう一つ食べよっと。んまぁ」

・その後も、もぐもぐと料理を平らげていく勇者とそれを眺める魔王。

・勇者の幸せそうな顔を見ているとどうしてだか心が安らいでいき、自然と微笑んでしまう魔王。

・魔王も料理を食べようとして皿に手を伸ばすも、勇者と同じ皿を選んでしまう。

勇者、魔王「あ」


(13p)

・勇者は、慌てて手を引っ込めるも魔王は、優し気な笑みを浮かべる。

勇者 「ごめんなさい、私ってば食べるのに夢中で」

魔王 「よい。余の分も食べるといい」

・そのときの魔王の顔が幼い日の兄と重なって見えてしまう勇者。

魔王 「その代わり、肉料理とやらを楽しみにしているぞ」

勇者 (……そっか。やっぱりこの人は私の)

・勇者は、魔王が自分の兄であることは間違いないと確信し、膝の上で静かに拳を握る。

勇者 「ねえ魔王。私、嘘つくのやめる」

魔王 「む? それはどういうことだ?」

勇者 「記憶喪失なんかじゃないの」

・勇者は、自分の服の中に隠れていた半欠けのペンダントを取り出し、

勇者 「これ、あなたも持ってるでしょう?」

・魔王の首に掛かっていた同じペンダントを指さす。

・テーブルの上にお互いのペンダントを並べ、魔王も二つの品が同じものであることに気付く。(ペンダントのコインみたいなアクセ、その欠けている部分がくっついて一つの絵になるイメージ)

魔王 「これは一体どういうことだ……?」

勇者 「このペンダントはね、まだ平和だった頃」

勇者 「魔族と人間の王家同士が婚姻を結び、その子供――」


(14p)

・魔王と勇者が見つめ合う。二人の顔立ちは、どこか似ている。

勇者 「人間と魔族の混血である双子が生まれた際に作られた品」

勇者 「だけど双子は、戦争の始まりと同時に生き別れることになった」

勇者 「思い出して魔王……いえ、兄さん」

・勇者の真剣な表情に魔王は、乾いた笑みを漏らしながら椅子に腰を下ろす。

魔王 「ふふふ……ははは……」

魔王 「そんな出来過ぎた話があるものか……」

勇者 「本当よ! 私は、人間の母の血が濃かったの」

・魔王は、悩ましそうに頭を抱える。

魔王 「そもそも、なぜ嘘をついた?」

勇者 「それは……」

勇者 「その方が今の兄さんのこと分かる気がしたの」

・勇者は、切なげな表情を見せ、

勇者 「だって私たち、十六年ぶりだもの……」

魔王 「十六年……だと?」

・そのとき城内が揺れて、砂ぼこりが天井から落ちてくる。部屋の外から部下1の大きな声が聞こえてきて、

部下1「た、大変です!」

魔王 「今の揺れは何事だ?」

部下1「人間の兵が砲撃を開始して――」

・魔王が扉の方へ向いた途端、


(15p)

・大砲の砲撃によって壁が吹き飛び、部下1の体が目の前で肉片と成り果てる。

・言葉を失う魔王に対して勇者は、冷静に、

勇者 「クソっ……攻撃停止の命じたはずなのに!」

勇者 「ここも危ないわ」

・鎧と剣を急いで纏った勇者は、魔王に呼びかける。

勇者 「私たちも早く逃げましょう、兄さん!」

勇者 「兄さん……?」

・しかし魔王は、部下1の肉片を拾い上げ、じっと見つめている。

魔王 「……全てを思い出した」

魔王 「確かに余は、人間と魔族の愛によって生まれたのだ。だが」

・そしてその肉片を抱きしめる魔王。

魔王 「今は、魔族の王。そのうえで勇者に問いたい」

魔王 「此度の人間による侵略戦争。正義はどちらにある」

勇者 「……分からないわ。でも一つだけ言えることがある」


(16p)

・大穴の開いた壁を背景に、肉片を抱きしめる魔王とそれを寂しげに見守る勇者。

勇者 「人が生きるためには、この土地の資源が必要なの」

・魔王は、おでこの絆創膏が剥がれ落ちて膝の上に乗ったのを見て、

・絆創膏を張ってくれた部下の顔を思い出す(回想)。

部下1「絆創膏絆創膏!」

部下1「これでよし……ふう……」


(17p)

・魔王は、かき集めた肉片の前に壁の破片で小さな墓標を作って座り込む。

魔王 「そのためならば他人から奪うことも厭わないのか」

勇者 「残念だけど犠牲は、つきものよ」

魔王 「……分かった」

・勇者は、墓石の前で座り込む魔王に手を差し伸べる。

勇者 「良かったわ。分かってくれると信じてた」

勇者 「さあ、行きましょう」

魔王 「ああ……」

・しかし魔王は、勇者の手を払いのけ、

・そして穴の開いた壁の前に立つ。

魔王 「お前たち(人間)とは、どうあっても分かり合えないようだ」

・勇者は、魔王から放たれる殺気に身震いし、

勇者 「兄さん、何をするつもりなの……?」

魔王 「世界創造に存在せし、原初の雨嵐よ」

・呪文を詠唱し始めた魔王の背中を見つめる。

魔王 「魔王の名において詠唱する。今一度この地に降り注ぎたまえ!」

・魔王の手から放たれた光線が空に雨雲を作っていき、


(18p)

・城の外から大砲や小銃に弾を込めていた兵士たちは、

兵士1「おい……空見ろよ!」

兵士2「何だ、あの雨雲……」

・突然激しく降り出した雨風に襲われ、

兵士3「まずいぞ! このままじゃ火薬が全部だめになっちまう!」

兵士2「糧食も浸水に備えろ!」

兵士1「駄目だ! 雨風が強すぎてテントがたてられない!」

・攻撃準備をしていた前線が混乱し始める。やがて雷が後方支援の陣地に落ち始め、

兵士1「くそ……俺たちは一体何を目覚めさせちまったんだ」


(19p)

・大地が激しい雨に浸水されていく様子を眺める魔王。

勇者 「兄さん! これ以上、犠牲を増やすのはやめて」

勇者 「私は、兄さんと戦いたくないの……」

魔王 「では得意の話し合いでもするのか?」

・魔王は、振り返り冷めた目で勇者を見据える。

魔王 「話し合って、お前が間違っていると余に言って見せよ」

魔王 「それとも妹よ、己が間違っていたと考えを改めるのか」

・勇者は、悔しそうに剣の柄に手を伸ばし、

魔王 「そのようなことはできまいよ」


(20p)

・魔王に向かって踏み出すと同時に抜剣。

・魔王は、壁に空いた穴から城下へ身を投げるように背中から落ちていく。

魔王 「分かり合いなど、生ける者による理想の押し付けなのだから」

・そしてその後を追うように勇者も飛び降り、

勇者 「勇者の名のもとに顕現せよ、天使の翼!」

・勇者の能力により純白の翼を背中に顕現させ、

・漆黒の翼で空を駆ける魔王を追いかける。

・勇者は、豪雨に苦しむ兵士たちの様子を見て、

勇者 (このままじゃ……)


(21p)

・飛び続ける魔王の背に向かって叫ぶ。

勇者 「このままでは敵味方関係なく死んでしまう!」

勇者 「魔法を止めて!」

・するとぴたりと飛行を止めて振り返った魔王は、

魔王 「ならば余を殺すことだ」

魔王 「さもなければ、この大地を平らに均す」

・地上に向かって更なる魔法を詠唱し始め、その体を炎が包んでいく。

魔王 「星の根源に眠りし、熱き力よ」

魔王 「魔王の名において――」

・勇者は、魔王の様子を眺めながらゆっくりと剣を構え、

勇者 「女王陛下……お母さん……」

・過去の記憶を思い出す。それはまだ勇者と魔王が幼く、大きなお城で一緒に暮らしていた日々の記憶。

・おやつの時間にお菓子の取り合いになった勇者と魔王を母は、

勇者 「このケーキは、私のなんだから!」

魔王 「お前はそれで二つ目じゃないか!」

母  「こらこら二人とも」


(22p)

・二人の肩を持ち、優しく話しかける。

母  「奪い合ってはなりませんよ」

魔王 「でも僕は、一つしか食べてないよ」

勇者 「私もケーキ食べたいもん」

・少し考えた母は、微笑んで二人に、

母  「あらあら、困ったわね」

母  「どうしたら二人ともケーキを食べられると思う?」

・すると魔王が閃いたように手をあげて、

魔王 「半分にすればいいんだ」

母  「その通りよ。賢いわね」

母  「困ったときは、今みたいに話し合って――」

勇者 「やだ!」

・しかし勇者は、泣きそうな顔で提案を拒否し、母が困った顔になる。

勇者 「私は、全部食べたいもん……」

勇者 (ごめんなさい。母さん)

魔王 「わかった。じゃあ僕のも食べなよ」


(23p)

・魔王が勇者の頭をなでる。

魔王 「その代わり、泣いて母さんを困らせちゃだめだ」

勇者 (兄さん……ごめんなさい)

・回想が終わり、勇者が震える手で剣先を魔王に突きつけ、呪文を唱え始め、

勇者 「勇者の名のもとに顕現せよ……」

勇者 (本当にごめんなさい。私は、今も昔も……)

・涙を流しながら、攻撃魔法を発動させ、

勇者 「魂を貫く必中の矢……!」

勇者 (誰かから奪うことでしか幸せになれないんだ)

・勇者の背後に巨大な光輪が現れ、その中に無数の光の矢が生成されていき、

勇者 「放て!」

・その言葉を合図に魔王目掛けて飛んでいく。

・魔王は、それを視認するが軽く笑ったのみで防御せず、


(24p)

・全ての矢が直撃し、

・空中でバラバラになりながら墜落していく。

・放心状態で浮遊を続ける勇者。

・やがて雨雲が消え、地上に光が差し、

・兵士たちが戦争の終わりを喜ぶ。

・勇者は、一人、青空を見上げる。


(25p)

・人間の国へ戻った勇者は、

・街の中を馬に乗りながら城へ戻る途中、

街人1「勇者様の凱旋だー!」

街人2「ありがたやー!」

・大勢の人々から称えられる。

・しかし彼女の表情は、浮かない。

・城へ到着した勇者は、馬を降りて神官に、

神官 「おめでとうございます、勇者様」

神官 「お疲れとは思いますが、これから戦勝式典の――」

勇者 「あとでね」

・美しい笑顔を見せる。

勇者 「まずは成果を女王陛下に伝えたいの」


(26p)

・病室で咳込む女王陛下もとい勇者の母は、

・扉のノックに反応して、

母  「入りなさい」

・薬草の入ったお粥を持った勇者を迎え入れる。勇者の表情は、微笑み。

勇者 「ただいま戻りました」

母  「生きて帰ったのですね!」

母  「ああ……とっても嬉しいわ」

・大喜びする母に勇者は、薬草粥を手渡し、

勇者 「これが魔族の国で手に入れた薬草です」

母  「おお、これが……」


(27p)

・喜ぶ母とは対照的に勇者の表情は、どこか作り物めいた微笑みで、

母  「よくやりました」

母  「流行り病に苦しむ多くの民が救われることでしょう」

勇者 「はい」

・その違和感に気づいた母は、

母  「何か、良くないことがあったのですね」

勇者 「はい」

・勇者を優しく抱きしめる。

母  「魔王が、あの子が死んだのですね」

勇者 「はい……ご、ごめ、んなさい」

・母に抱きしめられた勇者は、たまらず堪えていた大粒の涙を流してしまう。

勇者 「わた、わたし、に、兄さんを」

勇者 「あんなに優しかった兄を殺してしまった」


(28p)

・母は、子供のように泣き出した勇者の背中をさすりながら、

母  「……今から話すことは、何の慰めにもなりません」

母  「ただの事実に過ぎません」

(良い感じにコマ割りお願いしますww 次のページを際立たせるために背景黒塗りで文字だけ書いてもいいかもです)

母  「人間の国で病が流行りだした十六年前」

母  「魔族の国は、唯一の薬草に高値を付けて利益を上げようとしました」

母  「工業力に乏しいあの国にとって仕方のないことです」

母  「そのせいで夫……先代魔王は憎しみを買い、暗殺されてしまいましたが」

母  「そうして争いが起こってしまうことも仕方のないことです」

母  「だけどね――」


(29p)

・母は、涙に濡れた勇者の目をまっすぐに見て、

母  「私たちだけは、自分の選択を仕方がない」

母  「そんな言葉で済ませてはなりません」

・その涙をぬぐい取る。

母  「正しきことも、悪しきことも受け入れて」

母  「どうか強く、あなたの道を生きなさい」

・そして母は、まるで勇者の悲しみを肩代わりしたように、

勇者 「お母さん……」

・一筋の涙を、その笑顔の上に流す。

・その涙が床に落ちる。


(30p)

・勇者が魔王の城跡にある魔王の墓(魔王が部下用に作ったやつ)を訪れる。するとぼろぼろの天井が雨漏りしており、水滴がぽつりと墓石に落ちてくる。

勇者 「雨……か」

・勇者は、半欠けのペンダントを墓石にお備えし、

勇者 「兄さん。私ね、旅に出ることにした」

・魔王の持っていたものと合わせる。

勇者 「やっぱり兄さんを殺した自分が許せないから」

勇者 「ちょっとだけ罪滅ぼしの旅……でも」

勇者 「何だか楽しみでごめん」

・そうして立ち上がったとき、

勇者 「じゃあ、そろそろ行くね」

・背後から一陣の風が吹き、思わず背後を振り返る。

勇者 「あれ、風向きが……」

・壁に覆われた背後から風が吹いてきたというあり得ない現象に困惑しかけるが、

勇者 「そっか。行って来いってこと」

・勇者は、微笑んで大穴の開いた壁の前に立ち、


(31p)

・大空へと天使の翼で飛び立っていく。


(32p)

・その姿を墓石の前に座る魔王と部下1が静かに見送っている。(後ろ姿)

END


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