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ようこそ、新世界へ。1-1

「ーーようこそ、新世界《エピクロス》へ」


その部屋の主はどこか期待に満ちた声色で涼にそう告げた。

あまりにも非現実的な光景が眼前に広がっており、涼はどうするべきかと動けず固まっている。

そこに続けざまに部屋の主は声をかけてくる。


「突然の状況を理解できないのも分かる、とりあえずこちらに来て座って紅茶でもどうだい?」


そういって涼に座っている反対の椅子に座るように促している。

涼は少し迷ったがここまで来て引き返せないため、促されるままに反対側の椅子に歩いていき腰を下ろした。

座った席には注がれたばかりの紅茶がセッティングされていた。


「さて、何から説明するべきか。とりあえず深海涼クン、キミには......」


向かい側に座っている人物がそのまま話始めようとすると涼は遮ってまずは自分の疑問をぶつけた。


「待ってくれ!聞きたい事は沢山あるけど、まずここはどこだ?君は誰だ?そして俺は家に帰れるのか?どうして俺の名前を知っている?」


そうした涼の疑問を聞いたその人物は悪気のない顔で答えた。


「おっと、そうだったね。じゃあまずは自己紹介でもしようか。ボクの名前はフォルトゥナ、運命を司る神だよ」


そういって自己紹介する彼女の姿を訝しみながら涼は見つめる。

そもそも神?この目の前に座っている子供のような存在が?などと疑問を次々に頭の中に浮かべていく。

そんな涼の疑問を解決しないままその自称神であるフォルトゥナは続けていく。


「次の疑問の家に帰るかだけどそれはごめん、キミはもう家に帰れない。ボクの管理する世界......エピクロスに来てもらう事になった。あぁ、安心してね!ちゃんとキミの世界の管理者には許可を得てるから!」


何を安心すれば良いのか分からないし涼は自分の知らない領域で人身売買のようなやり取りがされていた事にも驚きを隠せずいた。


「それと何故名前を知ってるかだけどそれはキミの世界の管理者......まぁボクと同じ神に転移者を選定して貰った時に教えてもらったのさ。だから涼クン、キミの事は何でも知ってるよ(・・・・・・・・)


何でも知ってる。

その言葉に少し気味の悪さを感じた涼は最初の疑問が解決しないまま次の疑問を口に出す。


「つまり......にわかには信じがたいけど君は神様の一人?一柱?で俺が住んでた世界とは違う世界の神様で、理由は分からないけど俺を別の世界に拉致したってことか?」


その涼の問いかけに特に表情も変えず、少し笑みを浮かべたままでフォルトゥナは答える。


「あはは!拉致したとは酷い言い方だなぁ!むしろキミの命の恩人ならぬ恩神なんだけどね」


その涼の至極当然ともいえる問いかけの何が面白かったのか分からないが笑っていたが、次の言葉の前に真面目な顔になり彼女は続けて言う。


「良いかい涼クン、君の本来の運命はあの電車に乗って帰っていた途中で不幸な?不運な?いや決まっていたことに不幸も不運もないんだけど、まぁ事故に巻き込まれて死ぬ運命だったんだよ。キミに実感はないだろうけどね」


そう言って持っていた紅茶を一口飲んでから更に続ける。


「その死ぬ運命をボクが少し手を加えて死なない代わりにエピクロスに来てもらう事にしたんだよ、どう?少しは感謝する気持ちになったかな?」


ティーカップを置いた後にしたり顔で涼にそう問いかけてくるフォルトゥナ。

突然告げられた自分が死ぬ運命だった等という突飛もない話に、まだ状況が呑み込めずにいる涼は注がれていた紅茶を飲みながら考える。

『本当にそうなのか?』『これは夢なんじゃないか?』など脳内で疑問が浮かんでは消えていくが答えは出てこない。


一方そう告げた張本人であるフォルトゥナはフォルトゥナで何やら考え込んでいる。

『でも死なないという代わりに世界に存在しなかったことにしたのならば、つまりは死んでいると同義?だけど涼クンはここに存在しているし、うーんなんて説明するのが正しかったんだ』

などとブツブツ考えている。


そうして幾ばくかのお互い無言な時間が流れた後、先に口を再び開いたのは涼だった。


「......わかった。まだ信じがたいけどここが俺が思ってる世界ではないって事は理解したけど、どうして俺なんだ?言っちゃなんだが俺は特に秀でた所もない普通の人間で、よくある漫画やアニメの話ではこういう時は何かに特化した人間が選ばれるもんだと思っていたんだが」


まだこの状況の全てを理解したわけではないが、そう言ってフォルトゥナに涼は尋ねる。

その問いかけにフォルトゥナはブツブツと言っていた小難しい事を中断して答えた。


「普通、それが今回こうやってキミの運命を変更した理由の一つにもなるんだけどね」


フォルトゥナはまだ疑問の尽きない涼に分かりやすく説明していく。


「まずボクは運命を司っていると言ったけど、だからって人や世界の運命をおいそれと簡単に変更して良いわけじゃないんだ。大きく言えば一人の運命を変えるということはその|一人に関係してきた大勢の人間の運命・・・・・・・・・・・・・・・・・まで変えていると言うことになるからね」


一呼吸置いた後に続けて彼女は何故涼なのかを説明していく。


「優秀すぎて元の世界に多大な影響を与えた人間を存在しなかった運命には出来ないし、かと言って何の影響も与えることの出来ない人間をわざわざ選ぶまでもない。だから普通が大事なんだ」


そこまで言うとフォルトゥナは涼の顔を指さして言った。


「元の世界に存在しなかったことになっても問題が最小限に済み、かつ転移後の世界に良い影響を与えることが出来る人物!その普通代表が深海涼クン、キミだったんだよ!」


そう言われたもののまだいまいちピンと来ていないのか納得できない様子の涼はフォルトゥナに聞き返す。


「そう言ってくれるのは良い事なのかもしれないがなんだかな......そもそも俺に何をして欲しいんだ?魔王を倒せ!とか言われても困るぞ」


魔王を倒すなんて言葉を聞いたフォルトゥナは笑いながら涼に言った。


「あはは!魔王!涼クンは面白いねぇ、大丈夫だよ!エピクロスには魔王が世界を揺るがしているとか無いから!むしろヒトも魔族も手を取り合って生きているよ!......一部ではね」


最後に何やら聞き取れない事を言っていた気もするが涼に聞き返される前にフォルトゥナは続けて言う。


「涼クンにはエピクロスのとある大陸で生活してほしいんだ!そこはまだヒト族にも魔族にもあまり開拓されていない場所でね......そこの開拓をして欲しい!」


そういうとフォルトゥナは何処からエピクロスの世界地図を取り出して、○印とここだよとフォルトゥナのミニキャラのような絵が書かれているものを涼に渡してきた。


「あ、そうだ!この部屋に来るまでの道にキミの興味をそそる様なパンフレットとか配置してたと思うんだけど見てくれたかな?」


思い出したようにフォルトゥナは涼に道中の胡散臭いパンフレットのような物の事を聞いてくる。


「あぁ......あれか。あれは何かのイタズラというか現実のものとは思えなくて軽く読んだけど持っては来なかったな」


そう涼が答えるとフォルトゥナは少し残念そうな顔で付け足してきた。


「むぅ、そうかい。あれはボクがキミの興味をそそる様に頑張って作ってみたんだけどお気に召さなかったか。でも有用な事は書いてあるから持って行ってよ!」


そういってまた何処からかパンフレットやガイドブックのような薄い冊子を何冊か取り出して渡してくる。


「さてと、まだ説明したいことはあるけどもうそろそろ見たいアニメが.......じゃなくてキミの転移に直節干渉出来る時間も限られてるからさ!後はその渡した本と現地に頼れる眷属を派遣しておいたから!あとはそれを頼りに頑張ってよね!」


そのフォルトゥナの言葉を聞きながら涼は自分の意識が存在がだんだんと朦朧として来ていることに気が付く。


「まだ疑問に思うことは沢山あると思うけど大丈夫!ボクも余裕が出来たら手助けに行くつもりだから、それまでは何とか眷属と生き延びてて!」


涼の耳に生き延びてなどと何やら不安な言葉が聞こえてきた気がするが、猛烈な眠気のような倦怠感が自分の身体を襲い座っているのも怪しくなってきた時、座っていた椅子の真下に魔法陣のような不思議な紋章が現れて存在が薄くなっていた涼の身体を飲み込んでいく。


そうして涼の存在が魔法陣に飲み込まれたのを見届けた後フォルトゥナは椅子から立ち上がり何やらスマートフォンのような端末を取り出して連絡している。


「よしっと、涼クンの転移も見届けたし先に派遣しておいたスラミちゃんに連絡取らないと......異世界人と魔族の共同生活、楽しんでくれるといいな」

ようやく始まりそう。

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