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修行編 第8話 バンコクでの苦悩 その2(35)



健一は、バンコクの準高級中規模レストラン“サイアムプラス”で働き始めた。

「サワディークラップ」とタイ語で挨拶をした健一が厨房に入ろうとすると、

「オッバーイ(あっちへ行け)」といきなり中にいたタイ人シェフに怒鳴られた。

後ろから別のタイ人店員が、「オマエハコレダ」と手袋とゴミ袋を渡された。

その店員の話では、とりあえず店の生ゴミを集めて一まとめにして捨てろと言うことらしかった。

「うーん話とは違うような・・・。でも最初はそういう所から始めるんだろうな」

こうして何も知らない健一は、毎日ゴミの収集や店内の掃除あるいは、

たまに詰まる下水の汲み取りなど。

ごくまれに厨房に入れてもらっても、皿洗いといった雑用ばかりで、

包丁すら握らせてもらえなかった。


この状況が、1ヶ月・2ヶ月と日々が過ぎてもやることは同じ事。

「そろそろ次の作業をさせてもらえないのかなあ。せめて包丁で野菜を切るだけでも」健一には徐々に焦りの色が出てくるのだった。

毎月給与は支給してもらえるものの、日本で聞いていた金額の半額程度。

「何か間違っていないか」とタイ語で話をしても、店員は無言で手を振りかざして相手にしない。

健一の不安はどんどん膨らんで行くのだった。


「源さん、現実は厳しいよ」

毎日のように“居酒屋 源次”に来ては、一杯のビールをちびちび飲みながら愚痴をこぼす健一。

「まあな、タイ料理界の事は良くわかんないけど、修行とはそんなところなんだろうな」

健一は、少し酔いながら「それにしてもあれは酷いよ。僕はゴミ屋じゃないってんだ。本当なら辞めたいんだけど、青木社長との約束があるから」「どんな約束をしたんだい」

健一は、ストレスからか、最近は酔いが回るのが早く、すぐにロレツが回らなくなる事が多い。


この日も、半ば眠りに入っているかのような、緩くゆっくりとした、だみ声で青木との約束である“タイ料理シェフの道を諦めない”という話をするのだった。

「へえー青木さんらしいや。

でも最近、青木さんタイに来なくてね。最後に来たとき確か“これからはマレーシアとベトナムにも進出していこうと思ってるんです”とか行ってたなあ」

源次郎が青木のことを思い出すように言うのを、健一は、横で半分聞いているのかどうかわからない状態で「あ〜青木さんね〜会社辞めなかったほうが良かったかなあ〜」

源次郎は少し心配になり「ありゃりぁ健一君。今日も酔いが早いなあ。もう帰るか?」


健一の隣には、ほぼ毎日来る常連の銀縁の男がいた。

横でのやり取りを聞いたのか、タバコを吹かしながら思わず苦笑した。

「ウフフフフ。なんとなくわかるわね。やっぱり思った通り。

在住すると、どんどんストレス溜まるわね。夢破れましたかな・・・。」


ところが、健一が、その男の一言で、気に食わないところがあったのか、突然絡みだした。

「あなたは、タイが嫌いで、社命で仕方なく来ているのかもしれませんが、僕は違いますよ!今はこんな状態ですが、いずれ一流のシェフになりますから」


「何を!偉そうに若造が、実際は、ここで毎日愚痴ばかりこぼしているくせに。

どうせ就職できなかったから、適当な名目でこっちに来て、フラフラしてるだけじゃないのか?企業戦士の大変さも全く知らない愚かな沈没者が!」

男も酒の勢いが手伝って反論した。


「何ですと、大企業が偉い?

嫌々仕事していても、成長が無いでしょう。

まあ、大きな会社に守られている方からすれば、夢がある僕らの事が羨ましいだけでしょう」

健一も、顔を真っ赤にしてケンカを買い続ける。


「何だと!もういっぺん言って見ろ!!」

ついに男は怒鳴った。


「天田さん!健一君。2人ともいい加減にしろよ」源次郎が止めに入る。

「そりゃまあ、皆いろんなストレスはあるよ。だけどこの店でお客さん同士のケンカは、

俺が許さないよ。やるんだったら表に出てやって頂戴!」

2人同様思わず熱くなる源次郎であった。


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