修行編 第74話 タイの源を見て日本へ その4(100)
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「とりあえず座って。この後は食事会だ。今日は作らなくてもいいぞ、今回の主賓はお前だからな」
モンディは健一にそういうと、使用人の一人を呼び指示をする。
しばらくして、テーブルにさまざまな料理が運ばれ食事会となった。
この日は、ビールも用意されたので、食事会というより簡単な酒宴となった。
シーダマンもモンディもその他一門の重鎮たちも、先ほどと違ってみんな顔が和やかになった。
お互いが久しぶりに会うこともあっったのか、楽しそうに近況などを語り合っていた。
モンディも普段めったに口にしないビールを飲み「日本で頑張れー」とねぎらいの言葉を健一に浴びせた。
講師サパトラも引き続いて同席し、健一の横に座って、最初に健一がサパーン料理学校に来てから、今までの思い出を語り合うのだった。
「先生にも本当にお世話になりました。私はまた戻ってきますから。と健一はサパトラに約束するのだった」
夕方、会は終わりシーダマン大師以下、全員が料理学校の入り口まで健一を見送ってくれた。健一はただ頭を下げ続けてタクシーに乗り込むのだった。
タクシーには吉野も同乗した。「びっくりしましたよ。いきなり大師たちの後ろにいるんですから」
「いやあ、大畑君の方がすごいですよ。実はサパトラ先生あたりから、今日のことを聞いていましたので、記録写真を撮らせて欲しいと依頼したらOKが出たのです。
皆さんの立場について、詳しくはわかりませんが、最初の緊迫した雰囲気、特に大師には
なんともいえない“オーラ”には圧倒されましたので、やや写真がブレていないか心配です」
「で、この後の源次でも、僕の記録写真を撮るのですか」妙に気合が入っている吉野に対しに半ば呆れモードの健一。
「ええ、撮りますけどあそこはまあ半分酒も飲みますからね。最初の部分だけ気合を入れて撮ろうと思ってます」
やがて、居酒屋源次に到着。
2人が中に入ると、「おー主賓が到着しました」と大きな源次郎の声に続いて拍手が沸き起こった。ふと振り返ると後ろでは早速カメラを構える吉野。
健一は戸惑いを隠せずにいるのだった。
店内には、オーケン土山や今月ようやくチェンマイから戻ってきた天田弘久。さらに、青木貿易の中堀幸治に原澤夫妻も駆けつけてくれて、総勢十数名のお客さんが健一のために集まってくれるのだった。
カウンターの真ん中に座った健一に、早速ビールが注がれ、源次郎の音頭で、乾杯が行われ、壮行会が始まった。
「いままで、きつい事を行ったかと思うが、同じ企業戦士、社会人として日本でも頑張ってくれ、特に国沢さんの様子も落ち着いたら見てやってくれ」タバコを片手に、ウイスキーを煽る天田。
「大畑君がいなくなるから寂しいなあ。でも日本で頑張ってな。僕、日本に戻る時には絶対にお店行くわな。それにしても、5年間修行し続けた大畑君は、やっぱり『エライ!』」
オーケン土山も感慨深いのか途中から目が赤くなってきた。
「料理学校設立のときは、本当にお世話になりました。おかげで2期生も順調です。
来年は、登美子のカービングクラスも来年早々始める事になりました。どうもありがとうございました」酒宴にもかかわらず、堅苦しく挨拶をする原澤由紀夫。横にいる登美子は、それを無視して、参加者にお酌をして回る。
「みなさん、ありがとうございます。
僕は一旦このバンコクの地を離れますが、おそらく、いや必ず戻ってきます。
短期間になるかもしれませんが、タイ料理人として定期的にこの国の空気を感じないといけないと思いますから。
特に源さん、僕の居場所がなくならないようにお店はずーと続けてくださいね」
健一に、言われ、早くも涙もろくなる城山源次郎。
「俺も年だけど、健一君がいつ戻って来ても、いいように店を続けるよ。寂しいけどがんばってね」
「あんたは絶対成功する。日本でも、わいの所の商品も使ってな」と、
酒が入ったためか横で、半ば冗談めいた言い方の中堀。
「おまえ、こんな時に何くだらないこと言ってんだ!」「ああ、すんまへん。商売人やさかい」
源次郎が泣きながらたしなめるものの、
最近は、お互いが言い合えるほど仲良くなっていた2人だったので、
健一の目からは掛け合い漫才を見ているように見えるのだった。