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修行編 第62話 息子と母 その4(88)


3人は、バンコク中央駅から歩いていく事が出来る、チャイナタウンに向かった。

「失礼ですが、中華料理はお好きですか?」

男が話しかけてきた。

「ええ、実は学生時代は中国史の研究をやっていた事もありまして、初めてこの国に来た時、宿をこの近くで取ったんですよ」やや自慢げに話す健一。

「そうですか、それなら良かった。私は神戸で両親と中国料理の店を経営しているんですよ」男の話しを頷きながら聞く健一は、心の中で、「話が合いそうな人で良かった」と感じるのだった。


チャイナタウンのメイン通り“ヤワラー”を少し歩いてから左に曲がって少し歩いた所に、店の前に魚の生簀(いけすが置いてあったお店を発見。そこに3人は入った。

ここでは、料理のほうをプロである男に任せ、聞けば酒も飲めるという事だったので、健一は昼間から瓶ビールも注文した。

お互いビールを注ぎあい、乾杯をした後、自己紹介を始めた。

「始めまして、私の名前は李実男。祖父母の代に広州から神戸に渡ってきた華僑で、私は3世になりますが、父が帰化してますので、日本人です」と言い終えると、神戸の店のネームカードを健一に渡すのだった。

「これは、本物の中国系の方・・・さっき自慢げ聞こえたのが不味かったかなあ」気持ちが少し焦った健一は、とりあえず大きく深呼吸。

「ありがとうございます。日本に戻ったら必ずお店に行きます。私は大畑健一と言いまして、現在はバンコクのタイレストランで、料理を作っていましたが、今月から料理学校の責任者をやる事になりました。

実はこの息子の泰男が、私の母と大阪に住んでいるのですが、夏休みを利用してバンコクまで会いに来てくれたんです。

で、今日の夕方まで親子2人で遊ぼうかと」

ベレー帽を取り、大きな眉毛を上下にしながら聞き入る李。

「なるほど、それで息子さんと駅ではぐれて」

「そうなんですよ。ちょっと列車を見ていて目を放した隙に・・・・。本当にありがとうございます」

改めて深々と頭を下げる健一。


「いえいえ、大畑さんも鉄道がお好きですか。実は私も鉄道が好きで、いろいろなところに行って写真を撮るんですよ。日本国内に限らず。そう一昨年はインドネシアでSLを取りに行った事もありますね」

というと、李はかばんから1枚の写真と白黒の絵を見せる。SLが鉄橋を渡ろうとしている瞬間の写真とそれを元に描いた絵、健一も泰男も興味深く見る。

「これが一番のお気に入りです。

その場で絵をかくことはできませんので、写真に収めてから帰国後描きます。写真は客観的にその場の瞬間、対して絵は、時間をかけて気持ちと主観が入るので、両者は異なるものですが、見比べると面白いですね」


李の話はこの後も続き、健一も泰男も興味深く、次々と質問をぶつける。李も楽しく答えていき、あっという間に2時間ほど経過してしまうのだった。


「いつの間にかこんな時間に!李さん楽しいお話ありがとうございました」「おじさん、神戸で会いましょう」

健一と泰男は、店を出て李と別れ、2人はチャイナタウンをさらに歩いた。

こうして、いつものチャオプラヤー川にたどりついた2人。「泰男、父さんがバンコクで一番好きなところなんだ。何かあれば必ずここに立ち寄るんだ。そう、お前が生まれた直後にも、母さんと来たんだよ。あれからいろいろあったけど、お前とこうして来れたのは、やっぱり嬉しいなあ」

健一は、やや感極まって涙が出そうになるのをこらえた。

泰男は聞いているような、聞いていないような表情で、目の前を行きかう様々な船を見て喜んでいるのだった。

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