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修行編 第60話 息子と母 その2(86)


料理学校が開校して2週間が経過し、健一は一応落ち着いたと見て、久しぶりの休暇をとることになった。

だが、実際には別の理由もあった。

亡き千恵子の忘れ形見である息子の泰男と母・京子が、ツアーでバンコクを訪れてきてくれた。

ツアーの最後、1日半ほど自由行動があるので、その間一緒に過ごすためであった。


その日の夕方、4年ぶりに会う2人が宿泊しているホテルへ迎えに行くと、「お父さーん」と

、体格は非常に立派になったものの、まだ声変わりをしていないので、かん高い声のままの泰男が駆け寄ってきた。

初めての海外で、高揚した気持ちを抑えられなかったようだった。

「泰男、大きくなったなあ。この国は暑いだろう」顔全体で笑顔を表現する健一。

後ろで、日焼けした京子も嬉しそうに、メガネを直した。

「健一、元気そうで何よりね。もう現地の人みたいね」「母さん、いろいろあったけど、皆に認められて今では料理学校の責任者になったよ」

「泰男も、元気で頑張ってるわ。お父さんに会えるって、1ヶ月前から毎日楽しそうにこの日を待っていたのよ」

「そうか、泰男。明日一日一緒にバンコクで遊ぼうな」と健一が泰男に声をかけると、泰男は嬉しそうに健一にしがみつくのだった。


3人が最初に向かった場所は、居酒屋源次であった。「いつもこの店でお世話になっています。タイ料理そろそろ疲れたでしょう。定番の日本料理でも食べましょうか」

3人がそれぞれを注文しながら、城山源次郎も心なしか嬉しそうに注文を受け取った。

いつもなら何かと話しかける源次郎も、元気なオーケン土山も、カウンターでタバコを吹かしている天田弘久も、黙って久しぶりに対面する親子3世代を静かに見守るのだった。


「いやあ、いいね親子3世代水入らずって言うのは」「ほんまですなあ。僕なんかずーと一人なんで良くわからないけど、大畑君いつもより楽しそうですやん」

「オーケンさん。確かにそうですね。その点私のところは・・・・」と天田が少し暗い表情を見せる。

「国沢さんがなあ・・・。いや来週チェンマイに急遽行く事になってね。それにしても大畑君は羨ましいなあ」といいながらウイスキーを口に含む天田であった。



翌日、京子は一人でショッピングに向かうので、

健一は泰男を連れて一日バンコク市街で遊ぶ事にした。ところが、基本的に料理の事しか頭の無い健一は、泰男をどこに連れて行ったらよいのかわからない。

「王宮や有名なお寺とか、象が乗れるところや水上マーケットはもうツアーで行ったらしいから、どうしようかなあ。困ったなあ。何も考えていなかった!

子供が好きそうなところは・・・」


健一は、自分の子供の頃を思い出そうとする。その視点で楽しかった事を考えているとあることを思い出した。

「そうだ、駅に行こう。タイの列車を見に」


健一は、小学生の頃に、両親が親族の法事で、遠方に出かけたので、弟健二と2人、

その頃に近くに引っ越してきた、京子の幼馴染である福井真理の元に預けられた。


福井は、2人を上野に連れて行き、動物園でしばらく動物を見て楽しんだ後、残った時間、上野駅でしばらく列車を見に行った事を思い出した。

駅を出発する、様々な列車を見るだけで、旅に行った気分になり、楽しかった事を思い出す。

恐らく健一が旅好きになった要因の一つになったのかもしれない。


そう思いついた健一は、青いリュックを背負った泰男をホテルに迎えに行き、ファランボーン(バンコク中央駅)の駅に向かうのだった。


大きなドーム状の建物であるファランボーンの駅は、午前中から多くの人でごった返していた。

「泰男、ここがタイの首都バンコクの中央駅だ。ここから父さんはタイの北のほうへ料理修行の旅に出たんだ」と言いながら駅に止まっている列車を眺める。

最初は、はしゃいでいた泰男であったが、徐々に飽きてきたのかつまらなそうな表情になってきた。


日本と違い、行き来する列車がそれほど多く無いタイ。車両は駅に止まったまま中々発車しないし、到着もしない。

「弱ったな。どうしようか」かつて上野駅で健一とは対照的に弟の健二は終始つまらなそうにしていて、

途中から福井を困らせていたことを思い出す。


とりあえず、歩きながら考えていると、出発の表示板に“チェンマイ”“ノンカーイ”と表示されているのを見て懐かしく感じた。

「あ~懐かしいな。何も考えずに乗り込んだ先がノンカーイで、やがてチェンマイに移動して、

バンコクに帰ってきたのはチェンマイからだったもんなあ」


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