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修行編 第58話 神との対面 その6(84)


健一は、シーダマンに再度大きな礼をすると、右隣に居た使用人の案内で厨房に向かった。

移動してる間、厨房を案内する使用人に「パッタイを作ってください。お持ちになられた調理服も含めて全て厨房に用意してあります」と言うのだった。

「ここで変なものを出したらモンディ先生の顔にも泥を塗ってしまう。もうやるしかない!」

健一は今までモンディに連れまわされた、高級店などでの経験がここでモノを言った。

厨房の隣の控え室で調理服に着替え、厨房に入ってから大きく深呼吸をすると、

体全体に電気のような物が走った用に感じ、

硬直していた体が和らいでいき、今までの緊張が嘘のようにほぐれてきた。

「よし!」と気合を入れると、調理を開始するのだった。


健一は、調理を開始すると全くの気負いも無く、淡々とパッタイを作っていく。

途中、モンディが心配そうに中に入って様子を見に来ていたが、この頃には会釈をするほどの余裕が健一にはあるのだった。


モンディも安心をしたのか、すぐにその場を立ち去った。

こうして、完成したパッタイを、使用人の指示で今度は食堂のほうに案内された。

食堂では、シーダマンとモンディの2人が既に席に座って待っていた。

「お待たせしました。パッタイです。」元気よく声を出した健一は、既にシーダマンの発する強力なオーラも気にならなくなっていた。


シーダマンは、ゆっくりとパッタイを舐めるように覗き込んだ後、軽くうなずいた。

それを見ていたモンディは、シーダマンの皿にパッタイを盛り付けるのだった。

シーダマンは、非常にゆっくりとしたペースで、パッタイを口にした。

その一部始終を凝視する健一。

何度か口を動かしながら飲み込むと、ゆっくりとうなずき、「うん、ちゃんとしている」と

一言発した。

それを見届けた健一は、笑顔で何度も礼を言う。

「お前もそこに座れ」モンディが指示をする。


この後は、和やかな食事会となり、シーダマンが健一に様々な質問をぶつけてくる。

日本の事やタイでの暮らしのこと、今後の夢など・・・。

健一は、その質問一つ一つを丁寧に答えていく。それを聞いたシーダマンも嬉しそうにうなずく。

こうして食事会は、1時間ほど続くのだった。


モンディの指示で、健一が席を立ち。

シーダマンに別れの挨拶。「ありがとうございました」とあえて日本語で挨拶をすると、

「またおいで」とシーダマンも日本語で挨拶をしてくるのだった。

先に車に戻る健一。


シーダマンは、モンディに礼を言う「おまえは、人の見る目があるのう。この年になると余り楽しみも無いのじゃが、今日は久しぶりに楽しい時間を過ごす事が出来た。正に


勤勉で器用なペットじゃった」

モンディは静かに頭を下げるのだった。


帰りの車の中でモンディは健一を褒め称えた。

「大畑、よくやった。シーダマン先生の前で作ったパッタイは完璧であった。私も指導をした甲斐が会った」と、付き人として従う関係になってから初めてと言えるほどの褒

めかたであった。


健一もわずかに残っていた緊張が完全にほぐれ、

「ありがとうございます。先生のおかげです。私は明日から料理学校を成功させるように頑張ります」と、いつも以上に饒舌になっていた。


バンコクの市街地に戻り、モンディと別れた健一は、タクシーを捕まえ、あるところに向かった。

言うまでも無くそこは、チャオプラヤー川のほとり。

完全にリラックス状態の健一はとにかく叫びたくて仕方が無かった。

いつもの川のほとりの手前でタクシーを降りると小走りに川のそばへ。

『よし、やったぞ!俺はついに一流の料理人として神にも認められた!!』

その声は、この日は遭遇しなかったあの本松親子の怒声でも引けをとらないほど腹の底からねじりだした、健一の喜びの雄叫びであった。


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